2022年1月15日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その109]

 


「でも、そもそも『原始時代』って、いつのことなの?」


と、『少年』は、面白くはあるが、怪しげな原始時代を描いたアニメ『恐妻物語』(原始家族フリントストーンである)の像を脳裏から消して、冷静な質問の矢を父親に放った。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「ふふ。いい質問だな」


と、『少年』の父親は、また、今なら(2021年の今なら)、『池上彰』風とも云える言葉を発した。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、結婚の際に必要となった書類の説明や、それに関連した宗教、宗派のこと等を説明し、『少年』の理解を得た。しかし、『少年』は、『シーボルト』は、要するに、日本の女性とどう結婚したのか、という質問に立ち戻ってきた為、『少年』の父親は、そもそも国際結婚は今でも容易ではないことを説明し、国際結婚ががちゃんと認められるようになったのは、明治6年に制定された明治6年に制定の『内外人民婚姻条規』であり、その法律の制定にあたり参考にされたという『ナポレオン法典』について説明し、『ナポレオン法典』を『仏蘭西法律書』という名前の書物に翻訳した『箕作麟祥』(みつくり・りんしょう)のこと、『箕作麟祥』の師である『坂野長英』、更には、同じく『坂野長英』を師とした『高野長英』、箕作麟祥』の父親である『箕作阮甫』のことまで説明していたが、ようやく話のテーマは、当時(江戸時代)の結婚へと戻ってきたところで、父親は、『少年』に『結婚とは何か?』という根元的な問いを投げかけ、原始時代に、結婚ってあったのか、あったとして、その結婚って何なんだろうか、と問うたのであった。


「問題に使われている言葉をまず定義すること、それが肝心だな。『原始時代』というのは、歴史学上の言葉ではなく、明確にいつの時代と定義されているものではないんだ。人間が、『原始的な』生活を営んでいた時代のことを漠然と指す言葉に過ぎないんだ。じゃあ、『原始的な』生活って、どんな生活というと、文明が開けていない生活で、これも漠然としたものに過ぎない。文明が開けた、って、どんな状態をいうのか定かではないからな」

「うん、そうだね。ボクたち、原始人って、なんとなく素肌に動物の毛皮を着たような人のことを想像しちゃうけどね」


と、『少年』は、再び、アニメ『恐妻物語』(原始家族フリントストーンである)を思い出しながら、では何故、父親は定義の曖昧な言葉を使ったんだろう、とやや不満に思った。


「テレビがあり、自動車もあるような今の我々の生活は、文明的な生活だと思っているが、ずっと後世の人たちからすると、『原始的な』生活と思われてしまうかもしれないぞ。石器時代の人たちだって、石器を使う自分たちのことを、凄い、と思っていたかもしれないんだからな」

「そうだよね。石器だって、考えてみれば、よく作ったと思う。それに、いつか『スーパージェッター』のように、腕時計で電話するような時代が来て、ボクたちのように電話機でしか電話できない時代の人たちのことをバカにするようなことがあるかもしれないものね」


その時、『少年』は、それから(1967年から)およそ50年後に、アニメ『スーパージェッター』さながらに、自分がAplleWtachを購入し、それに向い、『流星号!応答せよ!』と云うことになることは思いもしなかった。




「それなのに、今の自分たちが『文明的』で、石器時代の人たちのことを『原始的』とするのは、傲慢かもしれないぞ。ただ、一般的には、日本の場合だと、石器時代や縄文時代、弥生時代辺りを『原始時代』というようなんだが、多分、その頃はまだ文字はなかったんだ。縄文土器には、記号のような文字があるとも云われているようなんだが、まあ今のような文字ではなかっただろうし、その時代には、お役所もお寺もなく、婚姻届も『所請状之事』と『離旦證文』のようなものだってなかっただろう。じゃあ…」


と、『少年』の父親が、『原始時代』の定義に一応の区切りをつけ、話をその先に進ませようとした時、


「『ハンカチ大学』にだって、『洋子ちゃん』みたいな子はいない…」


バスの中の他の誰にも聞き取れない程度の小さな声が、呟きを続けていた。呟きの主は、どうやら、最近、『看護科』ができたという広島の進学校である広島県立広島皆実高校の出身らしいが、『ハンカチ大学』とも関係があるような呟きである。


(続く)




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