2022年6月2日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その247]

 


「レスラーの血が、落ちとるでえ」


ビエール少年の隣席(右隣)の男子生徒は、あくまで、プロレスのリングは、三菱電機の電気掃除機『風神』で掃除する意味がある、と主張するのであった。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室であった。体育館の『思道館』での入学式を終えたばかりである。


「『沖識名』(オキ・シキナ)のシャツも、破れて落ちとるんじゃけえ」


隣席(右隣)の男子生徒は、当時(1967年である)、不可解な裁定をすることで、すぐにレスラーからシャツを破られることで有名であったプロレスのレフェリーの名前を出してきた。




「ああ、『沖識名』ね。ああ見えても、昔は、ハワイで有名なプロレスラーだったんだってね。『力道山』にプロレスを教えたのも『沖識名』なんだよね?」


ビエール少年は、プロレスには興味はないものの、父親から聞いた『沖識名』情報を隣席(右隣)の男子生徒に披露した。ビエール少年は、特別なプロレスファンではない父親が、普通のプロレス.ファンでは知らないであろうその情報を、どうして知っていたのかは、知らなかった。


「ええ、あんなデブデブ、ボヨボヨじゃのにい、有名なプロレスラーじゃったん?!?トンミー君、よう知っとるのお。凄いのお」


身を乗り出すようにしてビエール少年に食ってかかりかけていた隣席(右隣)の男子生徒は、体を後ろに引き、冷静さを取り戻し、ビエール少年に対し、寧ろ尊敬の眼差しを向けた。


「ハワイいうたら、アメリカじゃろ?」


隣席(ビエール少年の左隣)の女子生徒が、また、話に割り込んできた。


「やっぱりじゃあ。やっぱり、アメリカのこと、よう知っとってじゃねえ」

「え?やっぱり?」


ビエール少年は、隣席(左隣)の女子生徒の云う意味を理解できなかった。



(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿