「やっぱり東京は凄いのお」
と、『ハナタバ』少年は、感心し、自らの頭を幾度か上下させた。。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の数学の授業で、他の生徒が解けなかった問題を、ビエール少年が、教師に示され、難なく黒板上で解いてみせたところであった。
「『ボッキ』くんより、『上』じゃあ思うでえ」
別の生徒が、戸坂小学校では敵なしで成績優秀であった『ボッキ』少年を引き合いに出し、ビエール少年を称賛した。その言葉が耳に入ってきた『ボッキ』少年も、屈辱感はあったものの、
「ああ…」
と、ビエール少年の実力を認めざるを得なかった。ビエール少年が、今、眼前で難なく解いてみせた問題を、自分はビエール少年程に早く解くことはできない自覚があったからである。
「ようできたでえ」
と褒める教師の言葉を背に、ビエール少年は、席に戻ってきた。
「『ボッキ』くんより頭がええと思わんかったあ。東京弁を喋ると、ああように頭がようなるんかいねえ?」
と、『ハナタバ』少年は、惚けたことを真面目に口にしたが、彼に限らず、クラスの男子生徒たちは、『東京弁』を喋るビエール少年のことを、東京からの『転校生』と捉えていた。中学校に入学したばかりであったので、厳密には『転校生』ではなかったが。
「凄いんじゃねえ、『バド』」
隣席(ビエール少年の左隣)の女子生徒が、妙な名前で、ビエール少年に声を掛けた。
「んん?『バード』?」
ビエール少年が、隣席(左隣)の女子生徒の方に顔を向け、口を少し開けたまま、小鳥のように小首を傾げた。
(続く)
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