「トンミーくん、『砂谷(さごたに)牛乳』も『チチヤス』の牛乳も飲んだことないん?」
今度は、ビエール少年の隣席(右隣)の男子生徒が、ビエール少年と彼の隣席(左隣)の女子生徒との話に割り込んできた。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室であった。体育館の『思道館』での入学式を終えたばかりである。
「ああ、『チチヤス』っていうのも牛乳なんだね」
ビエール少年は、隣席(左隣)の女子生徒のな話の内容から察しはついていたが、隣席(右隣)の男子生徒の言葉で、『チチヤス』というもの牛乳の名前であることを悟った。当時(1967年である)、日本で初めてヨーグルトを発売した『チチヤス乳業』も、まだ全国展開をしていなかったのである。
「東京には、『砂谷(さごたに)牛乳』も『チチヤス』の牛乳もないんかいねえ?」
「東京?」
ビエール少年は、隣席(左隣)の女子生徒が、何かと『アメリカ』を出してくることも解せなかったが、隣席(右隣)の男子生徒の方は、何かと『東京」を持ち出してくることにも訝しさを覚えた。
「トンミーくん、東京から来たんじゃろ?牛田小学校にはおらんかったし、戸坂小学校の連中も知らん、云うとったけえ」
当時(1967年である)、牛田中学には、大部分の生徒が牛田小学校から上ってきており、一部の生徒は戸坂小学校から上ってきてきていたのである。
「宇部だよ、ボクがいたのは」
「へええ、東京の『ウベ』いうところにおったん」
「いや、『宇部』は、東京ではなくって…」
と、ビエール少年が、隣席(右隣)の男子生徒の勘違いを正そうとした時……
(続く)
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