「(アイツ、自分がしたことを『遊び』とでも思っているのだろうが、あれは立派な『罪』だ)」
という思いを、あらためて自身に確信させて、警部『ジャベール』なビエール・トンミー氏は、iPhone 14 ProのiMessageの画面に向った。
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「アンタ、修士論文で『フランソワ・モーリアック論』を書いたんやろ?」
「正確には、学部の卒業論文でも、修士論文でも、『François MAURIAC論』を書いたんよ」
「『フランソワ・モーリアック』ちゅうんは、カトリック作家なんやろ?カトリック作家ちゅうんは、『罪』を描いとるんやろ?」
「まあ、『François MAURIAC』とか『遠藤周作』とか『Graham Greene』なんかはそうなんじゃろうねえ」
「アンタの修士論文のテーマは、その『罪』を見ること、己自身を見ること、やったんやないんか?」
「まあ、ワシの修士論文は、論文いうよりも、感想文いうか、ただの心情の吐露に過ぎん。論文審査の面接で、お涙頂戴的な合格をもらいはしたんじゃが、主任教授から、『君の想いだけは伝わった』と云われたけえ。ワシのその想いは、そう、『己を見る』いうことじゃった」
「ワテには、修士論文ちゅうもんがどないなモンであるべきかは分からへんが、アンタの修士論文の草稿を読ませてもろうて、感心したし、そのアンタの想い、『己を見る』やな、悔しいけど、ワテにもジーンと伝わったで。そんなアンタなら、己を見んかいな」
「ワシは、醜い男なんよ。こうような云い方は、この容貌を持つ存在としては、嫌らしい卑下に聞こえるかもしれんが、醜いワシは、怖うて、自分の姿を鏡で見れんのんよ」
「どないな容貌やねん。昔はともかく、今はただの鄙びた爺さんやないか。醜うもなんも、その辺にようさんおる爺さんたちとなんも変わらへんで。どないして誤魔化そう思うても、そうはいかへんで。アンタ、「檀ふみ』と大学の同級生じゃったんやろ?」
「いや、『檀ふみ』は、『慶應義塾大学』で、ワシは、『OK牧場大学』じゃけえ」
「ふん!そこんとこは、敢えて追求せんとってやるわ。けど、賢明な読者は、とうにそこんとこ、お見通しじゃ」
「『賢明な読者』?何の読者なん?何、云うとるんか意味不明じゃ」
「少のうても、アンタが、大学に入学した年に、『檀ふみ』も大学に入学したやろ」
「ああ、同い年で、しかも、どっちも一浪したけえね。あれ、同い年でやっぱり一浪したアンタ、あの年、大学に入学せんかったんじゃね?どしたん?」
「態とらしい質問はせんでええ」
「ああ、『住込み浪人』じゃったあ!」
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「(ウーッ!アイツ、人の傷に塩を塗り込んできやがる!)」
と、ビエール・トンミー氏は、表情にも心情にも傷を負うた20歳の自分を思い出していた。
(続く)
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