「(ああ!『井荻』の頃のことなんか思い出したくない!『モーツアルト』とも『モーツァルト』とも関係ないじゃないか!)」
と、ビエール・トンミー氏は、『井荻』の下宿の部屋で独り項垂れる大学受験浪人の自分を思い出しながらも、友人エヴァンジェリスト氏が、『モーツアルト』という広島の洋菓子屋のことを話していたことを思い出した。
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「あの便所は、なんなんねえ!?」
「だからあ、『井荻』のことなんか、どうでもいいだろう!」
「あんな怖い便所は、あれが初めてじゃった。いや、後にも先にも、あんな怖い便所は知らん。あれは、『トイレ』ではのうて、まさしく『便所』じゃ」
「『トイレ』でも『便所』でもいいから、『井荻』のことはもういい」
「アンタ、どしたん?イナゲな関西弁使うん止めたん?」
「あ!...や、ちゃう、ちゃう。止めれ、云うのに、アンサンが分らんようやから、ちょびっと標準語で云うたったんや」
「いや、止められんでえ、ああような怖い『便所』を経験したんじゃけえ。『奈落の底に落ちる』とは、あの『便所』のことじゃね」
「あの下宿のトレイのことは覚えとらん。トイレだけやあらへん。『井荻』のことは、ぜ~んぶ忘れてもうた」
「2階に、汲み取り式の『便所』があるんは、おかしい思うで」
「おかしゅうても、おかしゅうのうても、どうでもエエ」
「2階のあの『便所』で出したワシのウンコは、管を通って落ちて行って、どっかに消えたんじゃけえ。ウンコの奴、便器に落ちた後、水に流されて行くんなら、本望いうんか、まあ、普通のことじゃけえ、驚かんかったじゃろうが、ワシのケツの穴から出たあ、思うたら、そのまま、真っ暗な管の中を、どこに行くんか分らず、落ちて行くことになったんじゃけえ、そりゃあ、不安じゃったんじゃろう思うんよ」
「そないな汚い話止めれえや!アンサンのケツからウンコが出てくるとこ、想像してもうたやないか!エエか、云うまでもあらへんが、ウンコが、怖いとか怖くないとか思うわけないやろが。ワテは、ホンマ、何も覚えとらへんが、アンタのウンコは、2階から管を通って、1階いうか地中のタンクいうんか便槽いうんか知らんが、その中に落ちだだけやないか」
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「(しまった!本当にアイツのケツの穴からウンコが出てくるところを想像してしまった!)」
と、ビエール・トンミー氏は、自らの脳裏に焼き付いた『像』を振り落とそうとするかのように、頭を左右に振った。
(続く)
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