「(今のボクには、現役のサラリーマンだった頃と比べると、時間は十分過ぎる程あるけど、時間がゆったりと流れているとは感じない)」
と、ビエール・トンミー氏は、友人のエヴァンジェリスト氏とのメッセージ交換に使うiPhone14 Proを凝視め、片手で素早くエヴァンジェリスト氏宛のiMessageを打った。
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「『東京物語』の頃は、スマホ、いや、スマートフォンはおろか、ガラケーもあらへんかったやろ。せやから、夜行で尾道に帰る両親に、息子がこう云うねん。『(次男に)電報で知らせておいたから、大阪でホームに出てるでしょう』とな」
「ああ、電報じゃねえ」
「せやねん。昔は、遠距離は電報で連絡するのが当り前やったんや。それにやで、たとえ通過駅であってもそれが親族に会う限られたエエ機会やったことも分るやろ」
「なるほどのお」
「ワテらの頃も『電報』はまだまだ健在やったやろ。『合格電報』は当り前やったな。今なら、合格発表はネットでするんやろうけど、ワテらの高校時代は、戦後すぐの『東京物語』の世界に近い時代だったことをあらためて思うで」
「ああ、『サクラサク』じゃね。でも、ワシは、『OK牧場大学』の合格も『ハンカチ大学』の合格も、発表を自分で発表を見に行って知ったけえ、『合格電報』は使わんかったけどのお」
「『東京物語』は、さっきも云うたように、ワテらが生まれた頃に作られた映画や。この映画を見てあらためて当時の生活に色々、驚いたんや」
「昔は、東京は、広島から見ると、遠かったけえね」
「そういうことやあらへん。東京とか広島とか、土地、場所の問題やないんや。時代や。『東京物語』の嫁(『原節子』演じる戦争未亡人や)は、1部屋だけのアパートに住んどるんや。そこに、亡き夫の両親(主人公の『笠智衆』やな)が訪ねて来るんや。義理の父親をもてなすのに、嫁は隣人の部屋(当然1間だけやで)に、『ちょっと貸して』と云うて一升瓶の酒と徳利とお猪口を借りて行く。と、隣人は、『ちょっとしかないのよ』と云うて、当り前のように一升瓶を『貸す』。尚且つや、『これ美味しいのよ』と云うて、煮物も『貸す』んや。これは後で『返してもらう』んやろか?」
「別のもんで『お返し』はしとったあ、思うで」
「ちっ…」
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「(素直でない奴だ。後で『返してもらう』んやろか、云うたんは、洒落だ。洒落をまともに返されても困るじゃないか!普段は、自分の方が、話を洒落にもならない洒落で茶化して来るくせに!)」
と、ビエール・トンミー氏は、苛立ちから無意識の内に、貧乏ゆすりを始めていた。
(続く)
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