「(ボクが話そうとしていたのは、『マイナス・シーリング』のことなんかじゃなく、『シーリング・ライト』というか、部屋の電灯のことだったのに)」
と、ビエール・トンミー氏は、またしても、友人のエヴァンジェリスト氏に茶化された恨みから、右手に持つiPhone14 Proの画面にiMessageの先にいるであろう男を睨みつけ、親指でその男を打ちのめすように強くiMessageを入力し、送信した。
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「エエか、ワテが云うてんのは、部屋の電灯のことなんや。もう茶化すんやないで」
「ああ、独身の頃は、下宿の部屋に電気コンロを持っとったけえ、それでお茶を沸かすこともできたんじゃけど、今のワシの部屋には、茶を沸かす道具はないけえ。あ!?よう考えたら、『茶を沸かす』いうん、変じゃないねえ?沸かすんは、水じゃろう?」
「無視、無視、無視や!あ、いや、電気、もとえ、電灯に寄ってくる『虫』やあらへんで。『東京物語』で電灯をどう切っておったか、なんや」
「いや、その前に、なんで虫は電灯に寄ってくるんかじゃ」
「そりゃ、明るいからやろ?」
「明るいとなんで寄ってくるん?」
「はあああ~ん?そないなこと、どうでもエエやないか!要するに、光んところに寄っていく性質持ってんのやろ」
「ああ、『走行性』のこと、云うとるんじゃね。正確には、光から逃げる『負の走行性』じゃのうて、光に向かっていく『正の走行性』じゃね」
「またデジタル・ハンターしたんやな」
「間違えんさんなよ、『性の走行性』じゃないけえね」
「アホンダラ!そりゃ、アンサンやろ」
「『紫外線』も関係しとるんじゃろ?虫は低いところを飛ぶけえ、その時、『紫外線』が波長が長うて頼りになるんじゃろ?虫は、『紫外線』見えるらしいじゃないねえ」
「自分で調べたことをいちいちワテに確認せんでもエエやないか」
「オナゴたちが、アンタに寄ってくるんと同じじゃね」
「は?」
「オナゴたちにも『正の走行性』があって、いや、この場合は、まさに『性の走行性』かもしれんけど、アンタの『凶器』が放つフェロモンみたいなもんに惹きつけられて寄ってくるんじゃろ?」
「また無理無理、オゲレツの方に話を持ってくんのやなあ。まあ、オナゴたちがワテに寄ってきたんは、確かに、虫が光に寄ってくるんと同じようなもんかもしれへんけど」
「でも、アンタあ、オナゴたちが寄ってくるんが、鬱陶しゅうなって、『凶器』のフェロモンを切ったんじゃろ?」
「おお、せや。切ったんや!」
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「(アイツ、本当に油断も隙もない。いや、隙はなくとも、どこからでも無理矢理、オゲレツ穴をこじ開けるんだ)」
と、ビエール・トンミー氏は、友人のエヴァンジェリスト氏がバールでドアをこじ開ける姿を想像した。
(続く)
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