「(いや、だけど、ボクは売り物じゃないぞ)」
と、ビエール・トンミー氏は、自分の部屋の鏡に映る老人の姿を見て、現役サラリーマン時代の回想から現実に戻り、自分を煽てて来た友人のエヴァンジェリスト氏に対して、いつもの冷静さを取り戻したiMessageを送った。
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「アンサンが云うことも分らんではないんやが、ワテはもう隠居の身や。お茶を売る為のお茶屋さんのイメージ・キャラクターかなんかになって、表に出ることはしとうないねん」
「いや、『茶屋』じゃけえ、ただのイメージ・キャラクターじゃ困るんよ」
「なんや、ワテに客相手でもせえ、云うんかいな」
「なんねえ、知っとったんねえ。『山本夏彦』によると、華族やら銀行の頭取の奥さんなんかが、お客さん、いうか、『お相手』みたいじゃけえ、アンタにゃ、ぴったりじゃ」
「華族?なんや昔の話やなあ。それに、なんで、『山本夏彦』が、その辺のことを語るんや?まあ、華族やら銀行の頭取の奥はんみたいな地位の高い人たちをもてなすんに知性の象徴たるワテを、いうんは、分らんでもないけどやなあ、ワテは、会社でも殆どシステム部ばっかしで、アンサンと違うて営業いうもんしたことあらへんのや」
「『営業』いうても、ワシのしとった営業とは違うけえ」
「そりゃ、アンサンもお茶の販売はしたことあらへんやろなあ」
「アンタあ、さっきから、何、云うとるん?ワシの云うとる『茶屋』は、『芝居茶屋』じゃけえ、お茶の販売はしとらんかったあ、思うで」
「え?『芝居茶屋』?」
「ほうよねえ、ワシが『茶屋』は『芝居茶屋』で、芝居を観に来たお客さんが休憩したり、食事を摂ったりするところじゃけど、華族やら銀行の頭取の奥さん『相手』の『営業』じゃけえね」
「え?華族やら銀行の頭取の奥はんみたいな地位の高い人たちをもてなすんやいうことは、もう聞いたがな。アンサン、おんなじことを何回も云うて…あ!」
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「(アイツう、さっきから、『相手』とか『営業』とか、わざわざ『』付にしてたな)」
と、ビエール・トンミー氏は、警戒心から体を硬直させた。
(続く)
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