「(アイツ、『モーリアック』以外のフランスの作家に興味がなく、『東京日仏学院』の『ディクテ』の授業も、1回出席しただけで『逃亡』したから、多分、フランス語のヒアリングなんかまともにできないんだろうに、本当にフランス文學修士なんだろうか?)」
と、ビエール・トンミー氏は、どこかの都知事に対してのような経歴詐称疑惑を友人のエヴァンジェリスト氏に抱きながらも、ただ一人の友人を追い詰めることはせず、友人の話に沿うような、優しいiMessageを友人に送った。
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「アンサンやあらへんけど、ワテも、『プルースト』はんの小説『失われた時を求めて』は、『勿論、読んだことない』ねん。せやさかい、よう知らへんけど、『失われた時を求めて』には、『マドレーヌ』が出てくんのやな?」
「アンタあ、さすがじゃねえ。そうらしいんよ。あ、でも、間違えんさんなよ。『マドレーヌ』いうても、アンタと『ふか~い』関係のあった女性と同じ名前の『マドレーヌ』さんじゃないけえね」
「ああ、間違えへん。ちゅうか、ワテと『ふか~い』関係のあったオナゴに、『マドレーヌ』ちゅうんはいてへん。アンサンが『マドレーヌ』云うんは、お菓子の方のことやな」
「ほうなんよ。『失われた時を求めて』の最初の方で、主人公が、『マドレーヌ』を食べるんよ。それもの、『マドレーヌ』を紅茶に浸して食べたら、見事、昔の記憶が蘇る、いうことみたいなんよ」
「で、ワテも、『マドレーヌ』を紅茶で食べたら、昔の記憶が蘇る、つまり、ロスした時間を取り戻せる、いうことなんやな」
「アンタあ、さすがに理解が早いのお」
「アンサンが、余計なこと云うて話を脱線させへなんだら、もっと早う理解できるで」
「心配しんさんなや。『ロスした時間を取り戻せる』いうても、サッカーの試合中に、『マドレーヌ』を紅茶に浸して食べても、ロスタイムが増えることはない、いうようなことは云わんけえ。今はもう、『ロスタイム』いう云い方はせんと、『アディショナル・タイム』いうしのお」
「ブヒ!」
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「(本当に懲りない奴だ。アイツ、一度、サッカーボールを頭に受ければいいんだ。脳が揺れたら、少しは真っ当な思考を持つ人間に戻れるかもしれない)」
と、ビエール・トンミー氏は、サッカー・スタジアムの芝生の上に大の字になって眼を白黒させている友人のエヴァンジェリスト氏の姿を想像して、思わず、肩頬を緩めた。
(続く)
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