「(表向きは、ボクは真面目な西洋美術史研究家なんだ。裏ではいくら『インモー』に興奮しているとしても、その姿は誰も知らない)」
と、ビエール・トンミー氏が、独りいる自室の壁の鏡に映る自身の顔が、口をだらしなく開け、イヤらしく舌舐めずりする様を想像していると、それを見透かしたのかと思わせるiMessageが、友人のエヴァンジェリスト氏から入ってきた。
====================================
「おお、そこじゃ!」
「え!な、な、な、なんだ!?」
「そう、問題は、『ウラナイ』なんよ。裏表のあるアンタと違うて、ワシは『裏がない(ウラナイ)』人間じゃけえ、その意味では、アンタが思う通り、ワシは『裏がない(ウラナイ)営業』なんじゃけど、尊敬する先輩の天才SEがワシのことを『ウラナイ営業』云うたんは、別の意味なんよ」
「別の意味でもその意味でもどうでもエエけどな」
「『ウラナイ(売らない)営業』いう意味じゃったんよ」
「なら、最初から、そう云うてきたらエエやろ。でも、それも意味不明やで。営業なのに『売らない』とは、これ如何に?」
「先輩の天才SEは、ワシに云うたんよ、『エヴァン君、(モノ、システムを)売らないよね」と」
「アンサン、営業やったんやろ。営業は、売るんが仕事やあらへんのか?」
「じゃろ。普通は、そうじゃろう。でものお、ワシ、確かに、『売ろう』とはせんかったんよ」
「アンサン、営業として実績、かなり上げとったんやなかったんかいな?」
「確かに、結果、実績は残してきたで。でも、ワシは確かに『売ろう』とはせんかったんよ。先輩の天才SEは、やっぱり『天才』じゃけえ、ワシのことをよう見とってじゃった。ワシ、お客さんに、(モノ、システムを)買うて、とは云わんかったんよ」
「でも、お客はんの方が、買う、云うてきた、ちゅうことか?」
「まあ、そうじゃねえ。ワシは、お客さんに、(モノ、システムを)買うて、とは云わんで、他社(同業他社)の状況なんかを説明するんよ。お客さんが知りたがっとってじゃけえ。他社は、カクカクシカジカのことで困っとられるとか、コウヨウなことをしょうかあ、と思うとってじゃ、いうことなんかを紹介するんよ。そうすると、お客さんは、『ああ、ウチも同じようなことで困っとる』とか『ウチも同じようなことをしようかと考えとる』とか云うてきてんよ。で、『他社は、どうしてとってなん?』とか訊いて来られるけえ、ワシは、そういう問題を解決する自分の商品を紹介して、他社もそれを買われた、いうようなことを説明するんよ。そうしたら、お客さんの方から、自分のとこもそれを買いたい、云うてきちゃってじゃったんよ。それだけよ」
「アンサン、エエ営業やったんやな、オゲレツやけど。ワテも、モノを売ろうとしてくる営業からは買わへんさかいな」
「じゃ、『ヤナセ』の営業も『ウラナイ(売らない)営業』じゃったん?」
「おお、せやった!」
====================================
「(そうだったんだ。『松ベンツ』の話をしていたんだ)」
と、ビエール・トンミー氏の脳裡に、久方振りに、納車を待ち焦がれている『ベンツ』の新型Eクラスの姿が蘇って来た。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿