2019年7月7日日曜日

住込み浪人[その140]







「(な、な、なんてことだ!ボクは知らないぞ)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、自らの右手を睨みつけた。EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』の本当の最終問題で、自身の意思とは関係なく、勝手に早押しボタンを押した右手である。

「(どうするんだ?!)」

西洋美術に興味はなくはなかったし、ゴヤの『裸のマハ』も見たことはあった。でも、ただそれだけなのだ。『裸のマハ』ことは何も知らない。

「(股間の奴は、いつも勝手な『行動』をとるが、右手よ、お前もか!)」

引きつった表情で右手を凝視める。



「おお!『住込み浪人』ビエール・トンミー君、もうお判りですか!」

『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、驚いた。

「さあ、お答え下さい!」

その時、観客席の暗闇の中から、一瞬だが、ほんの一瞬だが、何かが光り、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の目を射た。

「うっ!」


(続く)



2019年7月6日土曜日

住込み浪人[その139]







「フランシスコ・デ・ゴヤが描いた『裸のマハ』のモデルが誰かは諸説ありますが」

EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』の本当の最終問題を、司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが読み上げる。

「その一人、アルバ公爵夫人の正式な名前は…..」

その瞬間、芸能人チームの席に座る『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の右手が動いた。

「ピンポーン!」



早押しボタンが鳴った。

「(え?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、自らの行動に驚いた。いや、自らの右手の勝手な行動に驚いた。

「(え?)」

『サトミツ』も驚いた。

「(もう、判ったの?『テイトー』に合格したのに入学辞退したというのは、本当だったのね?!)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に美貌だけではなく、知性もあることを認めざるを得なかった。

「(んぐっ!)」

と、一種の快感を伴う敗北感を感じながら…….


(続く)



2019年7月5日金曜日

住込み浪人[その138]







「西洋美術史の問題です!」

EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、本当の最終問題を告げ始めた。

「(え?西洋美術史?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、美術に、それも特に、西洋美術に興味がなくはなかった。

「(でもなあ、西洋美術の歴史はなあ…..)」

回答する気もなかったことを忘れ、困ってしまっている様子が、顔に出た。

「(あら?)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、敵の僅かな表情の変化を見逃さなかった。

「(ふふ。得意じゃないのね、西洋美術史は)」

『サトミツ』の強張っていた両肘と両膝が、少し緩んだ。

「(でも、少し困った顔も可愛いわあ。んぐ!)」

緩んだ肘と肘、膝と膝との間から、靄のようなものが出てきたのを『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼だけは捉えた。そして、その靄のようなものは、スタジオC中に拡がっていった。



「おい、なんだか、臭くねえか?」

もう一人の司会者、ヒロニが、『異変』に気付いたが、ナンカイノー・アメカイノーは、構わず、問題を読み上げた。


(続く)



2019年7月4日木曜日

住込み浪人[その137]







「では、今度こそ、正真正銘の最終問題でーす!」

笑っていない笑顔で、司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、宣言した。EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』だ。

「『サトミツ』と『住込み浪人』ビエール・トンミー君の一騎打ちです。早押し問題です。勝った方に、1000点入ります!」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、広げた両肘を机につき、上半身を前傾させた。

「(さあ、来い!)」

誰にも見えていなかったが、『サトミツ』の両膝も回答席の下で開き、両足は、踵を床から浮かせ、全身で戦闘態勢に入った。



「(んぐっ!んぐっ!)」

『サトミツ』の回答席の下部から漂う臭いに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間が、『反応』した。

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間も、誰にも見えてはいなかったが、これでは、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、意図的に勝とうとしなかったとしても、とても勝利は覚束ない、と思われる状況であった。

「では、問題です!」

ナンカイノー・アメカイノーの言葉に、スタジオC内に緊張が走った。


(続く)




2019年7月3日水曜日

住込み浪人[その136]







「やります!」

カメラが、『サトミツ』を大映しにした。EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』である。『テイトー』チームは既に、芸能人チームに勝利していたはずであったが、プロデューサーからの指示として、スペシャル・チャレンジという極めて強引な追加問題の要請を、『サトミツ』は受けて立つこととしたのだ。

「それでこそ、『サトミツ』です!」

司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーのしたり顔は、視聴者の反感を買うものであったが、そこはそれ、ナンカイノー・アメカイノーの立場は、プロレスの悪役と同じであったのだ。悪役がいるからこそ、ベビーフェースが引き立つのだ。

「(いいわ、負けるもんですか!)」

と、釣りあがった『サトミツ』を見た『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、いや、彼の股間が、『反応』した。

「(んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間は、『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』に『潮汐ロック』されているのだ。


「(しかし…….)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の理性は、冷静であった。

「(ボクの意向は訊いてくれないのか?ボクが、もう戦いは嫌だ、と云ったらどうなるのだ?まあ、そうは云わないが)」

と、俯き、視線を自らの股間に移した。

「(もう少し『サトミツ』を間近に感じていられるんだもんなあ、お前よ)」

その問いに、股間は応える。

「(んぐっ!)」

だが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の理性は、あくまで冷静であった。

「(どうせ、また、ボクは答えないんだがな。それが美学というものさ)」

視線を暗い観客席に向けた。友人エヴァンジェリスト青年が、そこにいるはずなのだ。


(続く)




2019年7月2日火曜日

住込み浪人[その135]







「ヒロニさんが仰るように、既に勝負はついていますので、『サトミツ』が諒解すれば、という条件付です。勝った方に、1000点入ります」

EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、プロデューサーからの指示として、スペシャル・チャレンジという追加問題の条件を説明した。

「(1000点!?それって、今までの勝負が意味なくなるじゃないの!)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、眉を顰めた。彼女の美貌を損ないかねない表情であった。

「プロデューサーによると、『サトミツ』も、『住込み浪人』君の知力の凄さは分っただろう。たまたまちょっと早く押しただけで勝った、なんて本意ではないだろう、ということです」
「(いや、そんな風には思わないけど….)」
「いや、たまたまちょっと早く押した、というよりも、『住込み浪人』君が、わざと負けたことを知っているだろう、ということのようですよおー!」

ナンカイノー・アメカイノーの挑戦的な言葉は、プロデューサーのものなのか、或いは、根が意地悪なナンカイノー・アメカイノー自身のものであるのか、判然としなかった。

「(わざと負けた?....確かに……)」

『サトミツ』に思い当たる節がない訳ではなかったのだ。負けても背筋を伸ばし悠然としている『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を見ていたからである。

「でも、このスペシャル・チャレンジは、あくまで任意だそうです。『サトミツ』の意志次第だそうですよ。『サトミツ』に勝つ自信がなければ、断っていいそうです。ふふ」

ピンクのメガネをかけたブラックな男、ナンカイノー・アメカイノーの面目躍如といった様相である。



「ええー!アタシに勝つ自信がなければ、ですって!」

『サトミツ』は、それまでとは異なり、思いを声に出していた。


(続く)


2019年7月1日月曜日

住込み浪人[その134]







「ところが、ヒロニさん。プロデューサーから緊急指令です!」

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、もう一人の司会者ヒロニに、困った様子で告げた。

「なんなんだよお?もう勝負はついたんだぜ」

というヒロニの言葉に、『サトミツ』も頷いた。

「(そうだわ。アナタの美貌と知性は認めるけど。んぐっ!)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、敵である、いや。敵であった『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を見遣った。

「プロデューサーからの指令は、スペシャル・チャレンジです!」

ナンカイノー・アメカイノーが、プロデューサーからの指令書を読み上げた。

「なんだよ、スペシャル・チャレンジって?」

ヒロニも、司会者ではあったが、何も知らされていないようだ。

「追加の問題です!」
「え?それはないんじゃないの?もう勝負はついたんだぜ」
「『サトミツ』と『住込み浪人』ビエール・トンミー君の一騎打ちです!」
「(え?アタシとカレとの一騎打ち?)」



『サトミツ』は、唖然という文字を書いたかのような顔になっていた。


(続く)