2021年1月14日木曜日

バスローブの男[その73]

 


「(ああ、『逆さクラゲ』!)」


まだ半開きの眼のままの『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ようやく、自分がいるのが、『逆さクラゲ』であることを思い出した。


「(そうだわ、『お局様』と…)」




マダム・トンミーは、社内の女性社員の憧れの的で『原宿のアラン・ドロン』と呼ばれるビエール・トンミー氏が、人事総務部の古株の女性社員である『お局様』と池袋西口の『逆さクラゲ』から出てくるのを見たという噂があると聞いたことを思い出した。


「(『ラブホテル』…)」


『逆さクラゲ』とは、『連れ込み宿』のことで、今でいう『ラブホテル』であることを同僚のトシ代に教えてもらったことを思い出した。そして、『ラブ』つまり『愛』を確かめ合う場所であることも。


「(そう、『組んず解れつ』だったわ)」


『愛』を確かめ合う為に、ベッドの上で『組んず解れつ』する場所であることも思い出した。そして、『組んず解れつ』とは、つまり、プロレスすることであると知ったことを(誤解であるが)、思い出した。


「(『原宿の凶器』!)」


更に、プロレスと云えば、凶器がつきものであり、ビエール・トンミー氏は、『原宿の凶器』とも呼ばれていることを、やはり同僚のトシ代に教えてもらったことを思い出した。


「(トンミーさん…プロレス……)」


『原宿の凶器』ということは、やはりビエール・トンミー氏はプロレスをするのだ、と確信したことが、脳裏に蘇って来た。


「(『お局様』とだけでなく、私とも一戦を、って….)」


ビエール・トンミー氏とプロレスをし、ヘッドロックに捉えられ、レフェリーの眼を盗んだ凶器攻撃で、額を突枯れる姿を想像し、余りの興奮にお漏らしをしそうになった感覚を今、再び感じ、マダム・トンミーは、自分の身を包んでいるベッドのシーツの中で、両脚を窄めた。





(続く)




2021年1月13日水曜日

バスローブの男[その72]

 


「(え?ルー・テーズ?)」


ベッドに片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せた『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、自身の半開きの眼が捉えた仁王立ちする男のことを、最初、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』かと思った。


「(違う….猪木さん?)」


『ルー・テーズ』が白いガウンを着た姿(写真)は、見たことがなかったからだ。仁王立ちする男は、白いガウンを着ていたのだ。少なくとも、マダム・トンミーにはそう見えた。そして、アントニオ猪木なら、白いガウンも着ていたはずだったのだ。


「(でも、『闘魂』って書いてない…)」


そうだ、仁王立ちする男の白いガウン(と見えるもの)には、猪木の白いガウンなら書かれているはずの『闘魂』という文字が書かれていなかった。


「(じゃあ、誰?)」


マダム・トンミーは、徐々に眠りから覚醒して来ていた。


「(ここは、どこ?)」


そして、自分が寝ているのが、円形ベッドであることを知った。




「(どうして、ベッドが丸いの?)」


円形ベッドは、そして、円形ベッドがある部屋は、ピンクの照明に満たされていた。


「(ピンクの照明?)」



(続く)



2021年1月12日火曜日

バスローブの男[その71]

 


「(あら?私、どうしたのかしら?)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、猛獣と化したビエール・トンミー氏によって、サッシュ・ブラウスを取られたことも、更に、その下に着けていた胸に当てていたものまでをも取られたことも、あくまでプロレスの一環と捉えながらも、ファン、観客が想像だにしないことまでやってのけるアントニオ猪木を超えるものと感嘆し、そこにマーケティングの極意さえも見ていたのであったが…..


「(攻撃されているのに、なんだか、とっても….んぐっ!)」


会社でマーケティング部所属のマダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏がマーケティングの達人であることに喜びを覚えていたが、『歓び』も感じ始めていたのだ。


「(あらああ!.......んぐっ!)」


と、またまた三白眼になった時、


「(ひゃっ!...んん?冷やっ!)」


下半身に寒さを感じた。




「(ええ?ええ?ええー!!!!!!)」


…..そうして、マダム・トンミーは、『原宿の凶器』の真の怖さを、『原宿の凶器』の真の姿を、ビエール・トンミー氏が何故、『原宿の凶器』と呼ばれるのかを知ることになったのであった。


「うおおおおおおーおおおー!」



(続く)




2021年1月11日月曜日

バスローブの男[その70]

 


「(ええ、そう。でも、これこそがマーケティングの極意だわ!)」


マーケティング部に所属する『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏の所業にマーケティングの極意を見たのだ。


「(市場の創造ね!競合のない状態を創り出すことよ!)」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、猛獣と化したビエール・トンミー氏によって、サッシュ・ブラウスを取られたことを、マダム・トンミーは、入場時のリング衣装を剥ぎ取るプロレスの一環と捉えていたが、更に、その下に着けていた胸に当てていたものまでをも取られるに至り、ファン、観客が想像だにしないことまでやってのけるアントニオ猪木を超えるものをビエール・トンミー氏に見たのだ。


「(市場調査をして顧客のニーズを汲み取るがマーケティングではないわ。お客様って、自分が何が欲しいか知らないものよ。そうよ、顧客に媚びてては、いいモノは提供できないわ!)」


マダム・トンミーは、その時点でもまだ、ビエール・トンミー氏とその時しているものをプロレスと理解しながらも(勿論、それは誤解であったが)、その『プロレス』の中にマーケティングの極意が隠されていると感じ取ったのだ。


「(トンミーさんって、相手が、ええ、私が想像もしなかった、望みもしなかったことを仕掛けてらしたのね!トンミーさんって、システム開発部なのに…あ、でも)」


と、今は会社のシステム開発部のエリート社員であるビエール・トンミー氏が、実は、かのハンカチ大学の商学部出身であることを思い出した。ハンカチ大学には、日本のマーケティング界に聳え立つマサ・オウーノ教授が教鞭をとっていたことを聞いたことがあった。


「(トンミーさん、アナタ、コンピューターにも詳しくて、でも、マーケティングの真髄もご存じなのね!)」


しかし、マダム・トンミーは、知らなかった。ビエール・トンミー氏が、マサ・オウーノ教授が教鞭をとっていた教室の隣の教室で学んだことがあるだけであることを。




「(ええ、私、想像もしなかった、望みもしなかったことを仕掛けられて……でも、嬉しい!...というか….)



(続く)




2021年1月10日日曜日

バスローブの男[その69]

 


「(ひゃっ!)」


胸が冷たさを感じた。『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』が、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、猛獣と化したビエール・トンミー氏の口臭によって、『うっ!臭い!臭いけど…』と、ダブル・ミーニングに意識を失いかけていた時であった。


「(へ?)」


胸に当てていたものが取られたことを感じた。だから、胸に冷たさを感じたのだ。


「(ま、まさかあ!)」


プロレスで、入場時のリング衣装を剥ぎ取られることはあるものなので、サッシュ・ブラウスを取られたことは驚きはしたものの、想定内の展開ではあったが、まさに、『ま、まさかあ!』で、試合着まで剥ぎ取られるとは思っていなかったのだ。


「(怖い!トンミーさんって、怖い!でも凄い!猪木さん以上だわ。第一回IGWPの決勝というそれ以上に大事な試合はないという試合で、ハルク・ホーガンに負けてみせた猪木さんを超えてるわ!」


マダム・トンミーには、アントニオ猪木と戦うビエール・トンミー氏の姿が見えてきていた。




「(カリスマ中のカリスマだった当時のボクシング世界ヘビー級チャンピオンのモハメッド・アリと戦うなんて、誰も信じやしなかった一戦を実現させたり、ソ連のアマチュア・レスラーたちをレッドブル軍団としてプロレスのリングに上げたり、イラクの人質解放をを実現した猪木さんでもできなかったことよ!)」


胸が露わにされたことを忘れ、いや、そのことは忘れてはいたのではなく、むしろ、そのことで興奮の極みに達しようとしていた。


「(まさか、こんなことをされるなんて思いもしなかったわ!)」



(続く)



2021年1月9日土曜日

バスローブの男[その68]

 


「(ううーっ…)」


血走ったビエール・トンミー氏の眼に気圧されながらも、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、自らが置かれた事態を認識した。


「(トンミーさんって、そこまでするのね!)」


マダム・トンミーは、自分の視界を遮ったものが、自分のサッシュ・ブラウスであることを知った。そして、そのサッシュ・ブラウスをたくし上げ、彼女の顔面にかけたのが、ビエール・トンミー氏であることを認識した。


「うおー!」


再び、叫び声が聞こえ、マダム・トンミーの視界が開けた。サッシュ・ブラウスが、彼女の頭から抜かれたのだ。


「(リング衣装を剥ぎ取るなんて!)」


プロレスでは、試合開始のゴングが鳴る前に、相手レスラーを襲撃し、入場時のリング衣装を剥ぎ取るという展開は少なくはないが、まさか自分がそういう目に会うとは思っていなかったのだ。そう思う間もなく、


「うおー!うおー!」


更に大きな叫び声が上がり、野蛮な口臭にマダム・トンミーの顔は包まれた。ビエール・トンミー氏はもはや、相手レスラーではなく、一体の猛獣と化していたが、マダム・トンミーはそれに気付かない。




「(うっ!臭い!臭いけど…)」


一種の恍惚状態に陥り、マダム・トンミーが、三白眼になりかけた、その時であった。



(続く)



2021年1月8日金曜日

バスローブの男[その67]

 


「(ええ?......)」


視界が遮られた『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、今、自分に何が起きているのか、理解できなかった。


「(あ!)」


何も判らない中、マダム・トンミーの右手が掴む『ツチノコ』が暴れ、その手で静止しきれず、彼女に突進してきた。『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏と『ナメクジ』プロレスをしながら、マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏のズボンの中に差し込んだ右手の中に掴んだものを、最初はピストルと思い、次にそれが実はロケットだと感じ、今はそれを『ツチノコ』のような『未知の生物』と捉えていたのだ。


「うおー!」


遮られた視界の向こうで、叫び声が聞こえた。


「(この声は…)」


と問うまでもなく、その声が、ビエール・トンミー氏の声であることは分っていた。ビエール・トンミー氏が、それまで以上の攻勢に転じてきたのだ。


「(でも、何なの?どうして…)」


どうして、視界が遮られているのかが、判らなかった。右手の『未知の生物』に気を取られている内に、それまで『ナメクジ』プロレスをしていたことを忘れていた。そして今、顔面の前に、自分の視界を遮る何かがあり、『ナメクジ』プロレスが中断されていることにようやく気付いた。…と、


「うおー!うおー!」


眼前に突然、ビエール・トンミー氏の叫び声が現れた。いや、叫ぶビエール・トンミー氏の顔が、そして、血走るとはこのようなことかと思わせる程に血管の走ったビエール・トンミー氏の両眼が現れた。




(続く)