2021年1月21日木曜日

バスローブの男[その80]

 



「(ああ、昨夜の『戦い』…」)


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せたまま、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏から『昨夜は、有難う。とても良かったよ、君!』と云われた、前夜の彼との『プロレス』を思い出した。


「(壮絶な『戦い』だったわ…)」


マダム・トンミーの舌に、『ナメクジ』や『ヒル』の感覚が蘇る。鼻は、『獣臭』が突き上げてくる感覚に襲われる。


「君が、あんなに凄いとはねえ」


白いガウンを着た、いや、白いバスローブを身につけたビエール・トンミー氏が、円形ベッドの横に立ち、感嘆の言葉を漏らした。


「(え?私、そんなに強かったかしら?ええ、精一杯頑張ったけれど)」


と思いながら、ビエール・トンミー氏の胸元に眼がいった時であった。




「(んぐっ!)」


マダム・トンミーは、何かお漏らしをするような感覚に襲われ、シーツの中で両脚を再び窄めた。



(続く)




2021年1月20日水曜日

バスローブの男[その79]

 


「やあー!」


その声に、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、完全に覚醒した。声の主の男は、『逆さクラゲ』の部屋のバスルームを出たところで、仁王立ちしていた。


「おはよう!」


男は既に、30歳台半ばであったが、その声は、まだ青年の爽やかさを保っていた。


「ああ…」


マダム・トンミーは、円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せたまま、男の挨拶に応えるというよりも、声を漏らした。白いガウンを着たその男は、最初、そう、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』のようにも見え、次に、アントニオ猪木のようにも見えたが、『今』、


「(トンミーさん!)」


であることを知った。


「(リング・ガウンを持ってらしたのね)」


前日の晩、ビエール・トンミー氏と交えた一線をまだ、プロレスだと思っていたマダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏が着ているバスローブを、プロレスラーがリング登場時に身に着けるガウンだと思っていたのだ。




「昨夜は、有難う。とても良かったよ、君!」


白いガウンを着た、いや、白いバスローブを身につけたビエール・トンミー氏が、円形ベッドに近付いてきた。



(続く)




2021年1月19日火曜日

バスローブの男[その78]

 


「(トンミーさんって、プロレスラーっていうよりも『獣』だったのね)」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せている『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、会社では紳士にしか見えなかったビエール・トンミー氏が、実は、荒々しいプロレスラーどころか、『獣』そのものであることを知ったのだ。


「(まさに『原宿の凶器』だったわ!)」


ビエール・トンミー氏を称して云われていた『原宿の凶器』が、広義には、ビエール・トンミー氏の存在そのものであり、狭義には、ビエール・トンミー氏の体のある一部を指すものであることを、マダム・トンミーは、身を以て知ったのだ。とはいえ、


「(あんな『凶器』を使うなんて、あれがトンミーさんのプロレス?!)」


前日の晩、ビエール・トンミー氏と交えた一線をマダム・トンミーはまだ、プロレスだと思っていた。


「(あんな『凶器』攻撃をしてくるなんて、酷い!もう私、ボロボロ…)」


マダム・トンミーは、肩だけ出していたベッドのシーツを少し上げ、その中を見た。


「(でも、うふっ…)」


ピンクに染まった自分の体を見て、思わず、肩を窄め、口の両方の端を上げた。


「(ああ…っ!)」


ビエール・トンミー氏の残り香の『獣臭』と自分の体臭とが入り混じった独特の臭いが、マダム・トンミーの鼻腔を突き上げた。


「(でもお…私も!)


マダム・トンミーは、彼女の鼻腔を突き上げてきた臭いで思い出した。自分も『獣』になったことを。





その時……



(続く)




2021年1月18日月曜日

バスローブの男[その77]

 


「(アレが『原宿の凶器』だったんだわ!でも、アレって…)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『今』、自分が身を横たえている『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドのその上で、ビエール・トンミー氏がトランクスの中に隠し持っていることに気付いた『凶器』に思いを馳せた。


「(最初、ピストルだと…でも、ロケットのようにも…)」


確かに、それは最初、『ピストル』のように思えたが、右手でそれに触り、その太さ、形状から『ロケット』であると思ったものの、


「(生きてたあ…)」


そう、彼女が握りしめた右手から溢れていくように成長してきたことから、それが生き物だと悟ったことを思い出した。そして、それを『ツチノコ』と思ったことを。


「(でも、ツチノコじゃなかった!)」


マダム・トンミーは、『今』、その正体を知っているのだ。


「(だって、トンミーさんって、『獣』だった…)」


マダム・トンミーは、『今』自分が『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せている状況に至った状況を完全に思い出したのだ。


「(トンミーさんって、臭かったあ!)」


『原宿の凶器』が、実は、何らかの生き物であると感じた時に、プロレスの入場時のリング衣装を剥ぎ取るように、彼女のサッシュ・ブラウスを剥ぎ取り、続いて、胸に当てていたものまでをも剥ぎ取り、まさに『獣』然と、『うおー!うおー!』と叫ぶビエール・トンミー氏から立つ上ってきた獣臭が、『今』もマダム・トンミーの鼻先に漂っていた。





(続く)



2021年1月17日日曜日

バスローブの男[その76]

 


「(でも、まさかナメクジって!)」


『トンミーさんだったら、何をやっても許される』とは思ったものの、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏が、『ナメクジ』までをも繰り出して来たことで、自分が持っていたプロレスの既成概念が完全に打ち砕かれたことを、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドという他にないプロレスのリングに身を横たえたまま、思い出した。


「(ツンツンしてきたわ…)」


口を口で塞ぐ『窒息技』をかけたまま、左手で右臀部に対して、右手で左『胸』に対してクロー攻撃を掛け、『リング』(実は、円形ベッドに過ぎなかったが)を回転させ莉子とまでしてきたビエール・トンミー氏が、今度は、『窒息技』をかけたまま口の中に『ナメクジ』を侵入させて、彼女の舌をツンツンし、口の中を右へ左へと、上へ下へとヌルヌル動き回らせ、そして、コブラツイストをかけるように絡みつかせてきた時の感覚がまだ舌に残っている。


「(でも、私、負けなかったわ!)」


そうだ、マダム・トンミーは、自らの舌で、彼女の口の中に侵入してきた『ナメクジ』に敢然と立ち向い、そのことで、侵入してきた『ナメクジ』が実は、ビエール・トンミー氏の『舌』であることに気付いたことを思い出した。


「(『ミル・マスカラス』vs『ブラッシー』にもなったけど…)」


『ナメクジ』に次いで、ビエール・トンミー氏の舌が、千の顔を持つ男『ミル・マスカラス』のように『ヒル』に変身し、舌を吸ってきたのに対して、マダム・トンミーも吸血鬼レスラー『フレッド・ブラッシー』のように、ビエール・トンミー氏の舌を強くキューっと吸ったところ、ビエール・トンミー氏が自らの下半身(トランクスの中)に隠していた『凶器』に気付いたが、


「(どうして気付いたのかしら?)」


と、気付いた理由は思い出せない。





(続く)




2021年1月16日土曜日

バスローブの男[その75]

 


「(円形ベッド!...)」


ようやく眼を全開させた『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『今』自分が寝ているベッドが、円形であることを知った。


「(そう、『チョチョシビリ』!)」


ビエール・トンミー氏によって連れ込まれた『逆さクラゲ』の部屋にあったベッドが円形であり、アントニオ猪木が、1989年4月24日、東京ドームで『チョチョシビリ』と異種格闘技戦を行った時のリングが、ロープなしの円形リングであったことから、その円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏を『チョチョシビリ』の得意技『裏投げ』で打ち負かそうと考えたことを思い出した。


「(でも…窒息しそうだった…)」


『裏投げ』でなければ、『裏投げ』に似たルー・テーズ流の『バックドロップ』でもいい、と考えている隙に、ビエール・トンミー氏から窒息技をかけられたことを思い出した。自らの口が、ビエール・トンミー氏の口で塞がれたのだった。


「(『鉄の爪』も!)」


窒息技をかけられたまま、左手で右臀部に対して、右手で左『胸』に対してクロー攻撃を掛けられ、クローを得意とした『鉄の爪』フリッツ・フォン・エリックのことを思い出したが、そのクローは、ただ痛いだけではなく、


「(痛いっていうより…んぐっ!)」


と、全身を走った稲妻のような『異変』に再び襲われ、白眼を剥きかけながら、


「(テーズのフライング`ボディシザース・ドロップの変形…)」


を掛けられたように、ビーエル・トンミー氏に乗っかかられたまま、ベッドの上に倒れ込んだことを思い出した。


「(そう、メリー・ゴーラウンドでもないのに…)」




と、倒れ込んだ円形ベッドの『リング』が、回転し始めたことに今更ながら驚愕し、


「(トンミーさんだったら、何をやっても許されるんだわ!)」


と、前田日明の『猪木だったら、何をやっても許されるのか』という言葉に倣った言葉をあらためて口中で発した。ビエール・トンミー氏に、次々と既成概念を打ち破ってきたアントニオ猪木を見ていたのだ。



(続く)




2021年1月15日金曜日

バスローブの男[その74]

 


「(9450だったわ…)」


『逆さクラゲ』の部屋のベッドにシーツにくるまり、半開きだった眼が段々、全開近くなって来た『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、思い出した。マーケティング部の部屋の壁際に置かれたパソコンFACOM9450の前に、ビエール・トンミー氏と並んで座る自分の姿である。


「(トンミーさんが開発してくれて…)」


そうだ、マーケティングの為のシステムをビエール・トンミー氏が開発してくれたのだった。そして、そのシステムの操作をFACOM9450で、ビエール・トンミー氏から教えてもらったのだ。


「(臭かったああ….)」


操作を教えるビエール・トンミー氏が放つ得も云われぬ臭気が、鼻腔に蘇る感覚に襲われた。が、それは単なる感覚ではなく、同じ臭気がマダム・トンミーが今包まっているシーツの中にも篭り、彼女の胸元から鼻腔へと上って来ていたのだった。


「(結婚披露宴みたいだなんて…)」


マダム・トンミーは、今また頬を染めた。マーケティングの為のシステムが完成した打上げが渋谷の居酒屋で開かれ、マーケティング部の部長から、新システム稼動の功労者として、部員たちを前に、ビエール・トンミー氏と並んで立った時、新郎新婦のようだと冷やかされたのだったが、そんなことよりも、


「(まさか、あんなところに凶器を隠してるなんて!)」


と、マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏の股間に視線を注ぎ、そこに凶器を持つビエール・トンミー氏と一戦交えたい気持ちに駆られていたことを思い出した。


「(狼?...)」


打上げの後、自分を送って行くビエール・トンミー氏と円山町に登る坂道で、自分の肩を抱くビエール・トンミー氏が、狼に見え、プロレスラー『ウルフマン』に変身したのだと思っていた、その時に、その『ウルフマン』に、ピンクとオレンジとブルーのネオンサインに包まれた建物に連れ込まれたのだった。


「(『逆さクラゲ』!)」


そこが、念願の『逆さクラゲ』と悟ったものの、酔いが回り、次に眼を開けた時、猛烈な獣臭に『うっ!』と思わず、えずいたが、今、再び、


「うっ!」


えずき、今包まっているシーツの中から登って来ている臭気が、その時の獣臭と同じものであることを知った。





(続く)