2017年6月20日火曜日

【野獣会、再び?】六本木に『ケダモノ』、現る!(その14)



「亀です!そう、紛うことなく、それは亀でした」

六本木の特派員からエヴァンジェリスト氏への報告だ。

「驚くじゃあ、あーりませんか。亀が夜の鳥居坂にいたんですよ」

かなり興奮している。

「亀がどこにいてもカメへんのですが、ただの亀ではないのです。写真をお送りします」



       

おお、これは!

「そう、人間亀です。噂にも聞いたことはなく、見るのは初めてです。突如、六本木に出現です。ミドリガメなら驚きませんが、もっと大きな亀なのです。それも人間亀なのです」

エヴァンジェリスト氏も驚いた。驚いたが、同時に、

「そうだったのか」

と合点のいくところもあった。

「アイツだ。アイツだな」

エヴァンジェリスト氏は思い出した。

「亀は『野獣』でしょうか?」

と問い、

「亀だって、『野獣』になりたいと思っていると思うんです!」

と悲痛な叫び声を上げた後輩のことを思い出した。

「亀は、『レッスン』を受けに六本木に来たのです」

熱意があるというよりも痛々しいというべき後輩の叫びを思い出しているエヴァンジェリスト氏に、特派員は報告を続けた。


「『YOU』系の『レッスン』です」
「『YOU』系の?」
「『YOU』ですよ。『YOU は何しに日本へ?』の『YOU』ですよ」
「外国人のことだということくらい分っている」
人間亀は、六本木にいる外国人に『Why did you come to Japan?』と話しかけているのです。テレビ東京の番組の真似っこ遊びをしているのではありません」
「そんなことは分っている」
「え?人間亀のことをご存じなのですか?」
「人間鹿がいるのだから、人間亀がいても不思議ではない」
「とにかく人間亀は、外国人に声を掛け、一緒にホテルに行き、そこで『レッスン』を受けようといているのです。英語を会得するには、『ピロー・トーキング』が一番だと思いでもしているのでしょう」
「あ~。キミは相変らず何もわかっていない」

エヴァンジェリスト氏は、クネクネと首を振った。「呆れたよ」という素ぶりであった。


(続く)






2017年6月19日月曜日

【野獣会、再び?】六本木に『ケダモノ』、現る!(その13)



「亀は『野獣』でしょうか?」

会社の昼休み、後輩のヒルネン氏に唐突に訊かれ、エヴァンジェリスト氏は戸惑った。

「もし、亀が『野獣』ではなかったとしても、ガメラのようになれば、『野獣』として認められてもいいにではないでしょうか?亀だって、『野獣』になりたいと思っていると思うんです!

ヒルネン氏は、食い下がった。

しかし…….

「ヒルネン、君は一体、何者だ?何を企んでいるのだ?君は亀なのか?『野獣』になりたいのか?

とエヴァンジェリスト氏が問い返すと、

「ノーコメントです。ノーコメント!事務所を通して下さい!」

そういうと、ヒルネン氏は、いつものように首を縮め、机の下に隠したのであった。




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「プシュー!」

六本木はロアビル近く、その昔、『アントンリブ』のあった鳥居坂辺りの上空に妙な音が響いた。

宝飾店で、数字の付いた指輪やネックレス、腕時計を見て、ため息をつくだけで購入することもなく出てきたシゲ子とトシ代は、上空を見上げた。

週に二、三度は六本木に来ているが、初めて耳にする音であった。

上空を見上げる二人の横を一つの影が通り過ぎた。

「え?......何、今の?」

シゲ子とトシ代は、互いに相手に同じ質問を投げかけた。

野生の臭いであった。ヘビやトカゲ好きの二人には、直ぐに分る臭いであった。

「Hi!」

数メートル先に、白人女性に声を掛ける男がいた。

いや、それは「男」であっただろうか?

「違う…..」

トシ代が呟いた。

「違うわね」

シゲ子も呟き返した。

「Where are you from?」

と続けて白人女性の声を掛ける「男」は、人間ではなかったのだ。

他の人たちには人間に見えるかもしれなかったが、『野生』に敏感なシゲ子とトシ代には分るのであった。

….と、二人は、それぞれ肩を叩かれた。

「ね、君たち、一緒に、スペアリブ食いに行かない?」

ナンパだ。いつものことだ。向こうも男二人だ。

しかし、ダサい誘い方だ。しかも、二人とも加齢臭のオジサンであった。

こんな奴らには興味はない。

気になる。気になるのは『野生』の方であった。

シゲ美とトシ江は、肩に手を回しているオジサン二人を振り切り、『野生』の方を見た。

しかし、そこに「男」はもういなかった。

なんだったのだろう?

CAのシゲ子とOLのトシ代は、その時まだ、『野獣会』の復活の噂を知らなかった。

仮に、『野獣会』の復活の噂を知っていたとしても、「男」と『野獣』とを結びつけて考えることはなかったであろう。

「男」からした臭いは、『野獣』のそれではなく、爬虫類のそれに似たものであったからだ。





(続く)




2017年6月18日日曜日

【野獣会、再び?】六本木に『ケダモノ』、現る!(その12)



年末に北海道で趣味のスキー・ジャンプをした際に、着地に失敗し、足を骨折した男は、フィリピン女性『YOU』に、

「You are not beast po  You cannot become beast po!」

と云われ、ある意思を固めた。

「リハビリするぞ po!リハビリして、オレは『野獣』になる po!オレは必ず『野獣会』に入る po !」

しかし、果して、アソコをどのようにしてリハビリするかは不明であった。




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「質問しても宜しいでしょうか、エヴァさん?」

エヴァンジェリスト氏が、自宅から持参した昼食の弁当を食べ終えると、向かいの席からヒルネン氏が、声をかけてきた。

「ああ?.....事務所を通してくれ」

エヴァンジェリスト氏はまだ20歳台の若い後輩に対してつれなかった。

「あの事務所って、どこのですか?」

いつもは愛想のいい先輩なのに、どうしたのだろう?

「ノーコメントだ」

しかし、ビルネン氏は、怯まなかった。

「教えて欲しいんです」

普段なら、ヒルネン氏は、昼寝をしている時間だ。その時間に、つれない先輩に食い下がるとは、それ程に訊きたいことがあるのだろう。

「ティムは、まだ公式には何も発表していないはずだ」
「ティム?......ひょっとして、ティム・クックのことですか?『アップル』の」
「まき子夫人も渡さんも、公式発言はしていないであろう」
「石原プロのことですか?」
「桑田さんも、松本さんも、迂闊なことを口にする人ではないぞ」
「誰ですか?桑田とか、松本とか?.......テレビのプロデューサーかなんかですか?」
「うっ……..ノーコメントだ。事務所を通してくれ」

エヴァンジェリスト氏が何を云いたいのか、或いは、何を言いたくない振りをして実は何か云いたいのか、分らなかったが、ヒルネン氏は、質問をぶつけた。

「亀は『野獣』でしょうか?」
「はあああ?」

エヴァンジェリスト氏は、想定もしていなかった質問に思わず反応してしまった。

「もし、亀が『野獣』ではなかったとしても、ガメラのようになれば、『野獣』として認められてもいいにではないでしょうか?」

お昼休みはいつも、机の下に足を投げ出し、椅子に背中滑らせ、寝そべって、亀のように首を机の下に隠すようにしているヒルネン氏が、この日は、亀のようにエヴァンジェリスト氏に向け首を伸ばして、食い下がった。

「亀だって、『野獣』になりたいと思っていると思うんです!」

噛みついたら放さないつもりだ。スッポンのようだ。

「ヒルネン、君は一体、何者だ?何を企んでいるのだ?」

自分が訊かれたくない話を持ちかけてきたのではないと分ると、エヴァンジェリスト氏は反撃に出た。

「はっ!?......いえ、何でもありません」
「そんなはずはないだろ。君は亀なのか?『野獣』になりたいのか?」
「ノーコメントです。ノーコメント!事務所を通して下さい!」

そういうと、ヒルネン氏は、いつものように首を縮め、机の下に隠したのであった。






(続く)




アップル vs 石原プロ【エヴァンジェリスト氏争奪戦】



「君は、石原プロを見捨てるのか?」

いきなり友にそう切り出され、エヴァンジェリスト氏は戸惑わざるを得なかった。

「君はゲーノー関係に興味もなく、疎いのではなかったのか?」

しかし、そんな切り返しに怯むビエール・トンミー氏ではない。

「ああ、興味はこれぽっちもない。ボクが興味あるのは、歴史であり、美術である」
「商学部卒業なのに、簿記にも関心がないらしいではないか!」
「ああ、ボキ(僕)、ボキ(簿記)知りません
「やめろ!それは、ワシの持ちネタだ」
「君の持ちネタは、『ボキ(僕)、ボキ(勃起)していません!』ではなかったのか?」
「ビエール、ますますお下劣になっていくんだな」
「ああ、ボクは、NHKを熱心に見る『変態』だ。そのNHKで、昨晩(2017年6月17日)、『裕次郎は死なない~心に刻まれた5つの物語~没後30年企画』という番組をやっていた」
「ああ、裕さんが亡くなられて今年(2017年)で30年になるかならあ。生きていらしたら、今年で83歳だ。最近亡くなられた野際陽子さんの2歳年上だ」
「ゲーノー関係には興味はないから、裕次郎は死なない~心に刻まれた5つの物語~没後30年企画』という番組は見なかったが、石原裕次郎のことから君を思い出した」
「うっ…..」
「君は、石原プロ入りするのではなかったのか?解散必至と云われる石原プロモーションの窮状を救えるのは君だけだろう」
「ああ、そのことは前にも話し合ったはずだ。『仕事依存症』と云う病気持ちのボクだけでは、負担が大きいと、君も一緒に石原プロに入ってくれることになったではないか」




「ああ、覚えている。君の病気が落ち着くまでの間、ボクは君のマネージャーではなく、ボク自身が前面に立ち、ボクの美貌を活かして『怪人探偵』ってシリーズをテレビ、映画で放映する、という話だろう」
「その通りだ。あの時、ボクは云ったはずだ、『そうだ、石原プロを救うのは、君だ!君なのだ!』と」
「ああ、確かにそうであった。そのことを忘れている訳ではない。しかし、ボクが前面に立つのは、あくまで『君の病気が落ち着くまでの間』であっただろう」
「まあ、そうだが…..」
「なのに、君は、石原プロモーション入りすることをせず、『アップル』入りするというではないか!これは、どういうことだ!これではまるで、ボクは、猪木さんに『俺も後から行くから』と先にUWFに送り込まれた前田日明ではないか!」
「君はいつから、プロレスにも詳しくなったのだ?」
「詳しくなりたかった訳ではないが、聞きたくもないのに君がいつもいつもプロレスを語るから、ある程度、詳しくなってしまっただけだ」
「では、猪木さんと猪木さんの娘婿のサイモン猪木との対立については、君はどう思う?」
「話を誤魔化すのではない。ボクは、猪木さんに云われて先にUWF入りしたものの、結局、猪木さんが来てくれなかった前田日明のようになりたくはないのだ。ボクの本業はあくまで歴史であり、美術であるのだ。ボクが石原プロ入りするのは、あくまで君が本格的にゲーノ-界で活躍するようになるまでの『つなぎ』だ。それなのに、『アップル』入りとはどういうことだ!」
「知らん、知らん!『アップル』入りなんて知らん!
「ほー、お惚けかい?今、巷ではもっぱらの噂だ。『アップル』が独自のテレビ番組を製作するらしく、その為に、君をヘッドハンティングするというではないか!


「知らん、知らん!」
「君の立場も分らんではない。スティーブと君との関係から、『アップル』から支援を求められたら断るのは難しいことは分るさ。しかし、警視庁捜査一課9係』はどうするのだ?
「はあ?」
「またまたお惚けか。総て承知なのだ。渡さんの『線』だろ。渡さんの弟の渡瀬恒彦が主演をしていたテレビ朝日の『警視庁捜査一課9係』次期シリーズの主役に君がなることに決っているのではないのか?」
「知らん、知らん!ガセだ!ガセネタだ!」
「渡瀬恒彦さんが亡くなったので、警視庁捜査一課9係』の主役不在状態になったから、渡さんが、君を正式に石原プロ入りさせることとし、警視庁捜査一課9係』の主役に推薦したのではないのか。9係の係長『加納倫太郎』役となるのか、或いは、新たな係長となるのかはまだ決ってはいないのであろうが」
「知らん、知らん!」
「実際は、テレビ朝日も悩んでいることであろう。君には、『相棒』で水谷豊の後任の主役になるという話もあったからな」




「知らん、知らん!
「君がスティーブの遺志に沿わず、『アップル』のCEOにならなかったことで『同級生』のスティーブに申し訳ない気持ちであることは理解できないではない」




「知らん、知らん!」
「君は、『アップル』入りして、時代劇『見よ!肛門』とか、刑事ドラマ『警視庁匿名係絶倫太郎』の主役をしたり、『フランス文学講座』や『フランス語経済学』、『財務分析の基礎~ボキ(僕)、ボキ(勃起)していません!』といった放送講座の講師をするつもりであろう」
「知らん、知らん!」
「しかし、それでは、石原プロモーションはどうなるのだ!解散するしかなくなるではないか!さあ、答えよ!君は本当に、石原プロを見捨て、『アップル』入りするのか?さあ、答えよ!
「知らん、知らん!事務所を通してくれえ!」

未だ『アップル』と『石原プロ』のいずれが、エヴァンジェリスト氏を獲得するのか判明していない。






2017年6月17日土曜日

【野獣会、再び?】六本木に『ケダモノ』、現る!(その11)



毎週木曜日の朝に、会社で外国人との英語での電話会議に苦しむ人間鹿こと、アオニヨシ氏が、英語力を見つけるなら『ピロー・トーキング』だと云うエヴァンジェリスト氏の助言に従い、『ピロー・トーキング』を求めて六本木の夜に繰り出し、ブロンド『YOU』や赤毛の『YOU』、ブラック『YOU』たちから、『レッスン』を受けるようになった。

『YOU』たちは、『レッスン』の場であるホテルのベッドの上で、人間鹿に対して、叫ぶのであった。

「You are beast!」

こうして、六本木に『野獣会』復活、と云う噂が流れるようになり、その噂を聞きつけ、『野獣会』入りを目指して夜の六本木に来る若者たちがいた。

自分の『ケダモノ』を持て余している若者たちである。




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「Why did you come to Japan po?」

と話しかけられたブロンド美女『YOU』は、怪訝な顔をして、足を早めて、地下鉄の入り口へと立ち去った。

Where are you from po?」

と話しかけられたスタイル抜群の黒人女性『YOU』は、

Po ??? Are you pigeon?」

と声をかけて来た男に質問を投げ返したものの、返事を聞こうともせず、アマンド前から六本木一丁目方面に下って行った。

男は、それでも懲りずに、女性『YOU』に声をかけていった。

しかし、足を骨折し、松葉杖をつき、妙なメガネをかけ、妙な英語で迫る男を相手にする女性『YOU』はいなかった



男は、噂を聞いたのであった。

六本木に伝説の『野獣会』が復活したというのだ。

昭和30年代、田辺靖雄を中心として、ムッシュかまやつ、井上順、中尾彬、峰岸徹、小川知子、大原麗子らをメンバーとした遊び人のグループ、あの『野獣会』だ。

その『野獣会』に入るには、『YOU』に『ケダモノ』に認定される必要があると噂されているのだ。

しかし、なかなか『成果』は上がらず、男は新手を考えた。

I have a pen po. I have an apple po…..」

と流行りの身振り手振りで迫ってみたところ、

「Oh, po!Pico po!」

東南アジア系と思しき女性『YOU』に受けたのだ。

「Hotel lesson, OK po?」

と直接的に誘ったところ、

「OK po! Let’s go po !」

と意外な反応であった。

男には自覚がなかったようだが、フィリピンに仕事で2年程滞在している間に、少しは英語を喋ることができるようになっていたと思っていたのだ

確かに、少しは英語を喋ることができるようにはなっていたが、その英語は『taglish』であったのだ。いや、正確には『taglish』風訛りと云った方がいいであろう。

『taglish』は、タガログ語(Tagalog) と英語(English) が混ざった言葉である。

男がマスターしたのは、『taglish』ではなく、英語の語尾にタガログ語の『po』をつける訛った英語であったのだ。

I have a pen po. I have an apple po…..」

と流行りの身振り手振りで迫られた『YOU』は、フィリピン人であったのであろう。

『po』を連発する妙な日本人に懐かしさを覚えたものと思われる。

「OK po! Let’s go po !」

と意外な反応をしたフィリピン女性『YOU』と骨折男は、『lesson』の為にホテルに向った。

……………1時間後。

骨折男は、ホテルの窓から夜の六本木を眺めていた。

「ふーっpo

口から吐いたため息の先に幾つものネオンが瞬いていた。

「You are not beast po  You cannot become beast po!」

『レッスン』場としたベッドの上で、フィリピン女性『YOU』は叫んだのであった。

そして、フィリピン女性『YOU』は、ホテルの部屋のドアをバーン!と締め、出て行ったのだ。

「オレ、『野獣会』に入れないのかなあ po…..」

と項垂れた男は、パンツを脱いだ自身の下半身を見た。

そこには、包帯が巻かれたアソコがあった。

年末に北海道で趣味のスキー・ジャンプをした際に、着地に失敗し、骨折したのであったが、その際に、アソコも『骨折』したというか、少々傷つけてしまったのだ。

フィリピン女性『YOU』が、

「You are not beast po  You cannot become beast po!」

と云うのも無理はなかったのだ。

骨折男は、頭の中だけ『ケダモノ』になり、自身のアソコの状態を忘れていたのだ。

だが、懲りない男は、ある意思を固めた。

「リハビリするぞ po!リハビリして、オレは『野獣』になる po!オレは必ず『野獣会』に入る po !」

しかし、果して、アソコをどのようにしてリハビリするのであろうか。



(続く)




2017年6月16日金曜日

【野獣会、再び?】六本木に『ケダモノ』、現る!(その10)




「そう、人間鹿の『野獣』に『YOU』たちはゾッコンなのですよ。今、巷では六本木に『野獣会』復活か、という噂が流れていますが、その『野獣会』復活の正体は人間鹿のことだと思います」
そうか、そうだったのか………特派員の衝撃の報告を聞いたエヴァンジェリスト氏は、今や可愛いハリネズミのように縮こまってしまった自分のアソコを思い、項垂れたのであった。




==========================


『レッスン』を終えた人間鹿は、ホテルの窓から夜の六本木を眺めていた。

「ふーっ」

口から吐いた紫煙の先に幾つものネオンが瞬いていた。




「You are beast!」

『レッスン』場としたベッドの上で、ブロンド『YOU』は叫んだのであった。シャワーを浴びた彼女は、先にホテルを後にしていた。

「…….my boyfriend……..」

ブロンド『YOU』が早口で云った英語は、殆ど聞き取れなかった。『my boyfriend』だけは聞こえたような気がしたので、『カレシが待ってるから….』とでも云っていたのであろう。

「エヴァさんっていい加減だなあ」

会社の先輩であるエヴァンジェリスト氏は教えてくれたのであった。

「英語力を身につけたかっらた、『ピロー・トーキング』が一番だぜ」

毎週木曜日の朝に、会社で外国人と電話会議をすることになったものの、英語力がなく苦しんでいる人間鹿に、エヴァンジェリスト氏はアドバイスをしてくれたのだ。

「イノキさんは、公式の場では通訳をつけて発言するようにしているが、英語の日常会話には苦労はされていないはずだ。最初の奥さんは、つまり、ミツコさんの前の奥さんはアメリカ人だったんだ」

イノキさんのことになると、エヴァンジェリスト氏の言葉には熱がこもる。

「イノキさんは、『ピロー・トーキング』で英語を覚えたんだ」

『タイチョー(隊長)、タイチョ-(体調)が悪いんですが』といった笑えないギャグを飛ばしまくっている先輩のアドバイスに従ってもなあ、とは思いつつも、藁にでもすがる思いであったのだ。

外国人との電話会議はそれ程に苦痛で、何とか英語力を身につけたかったのだ。

そこで、人間鹿こと、アオニヨシ氏は、毎夜、六本木に繰り出した。会社からあまり遠くないところで、外国人が多く集まる場所と云えば、六本木であろう、と思ったのだ。

ロアビル近くで、

「Why did you come to Japan?」

と『YOU』の声をかけ、ミッドタウン前の路地を入ってすぐ辺りの静かな場所では、

Where are you from?」

とまた別の『YOU』に話し掛け、芋洗坂にいた『YOU』には

I have a pen. I have an apple…..」

と流行り言葉も使ってみた。

そうすると、『YOU』たちは、面白いように英語の『個人教授』を引き受けてくれた

勿論、大した英語は喋れないので、

「Private lesson, OK?」

しか云えなかったが、それでも『YOU』たちは人間鹿に付いて来たのである。

彼女たちは、人間鹿の英語なんかまともに聞いていなかった。ただ、人間鹿の放つ独特の臭い、『野生』の臭いの虜になったのだ。

彼女たちはまた、人間鹿の下半身を見て一様に、

「Oh, incredible!」

と叫んだ。

『レッスン』はホテルで受けた。ホテルのベッドの上だ。

しかし、ブロンド『YOU』も、赤毛の『YOU』も、ブラック『YOU』もただ、

「I’m comming!」

とか、

「You are beast!」

等、限られた英語しか『教えて』くれなかった。

『YOU』たちは、人間鹿に『レッスン』して満足気であったが(『YOU』たちの方は、逆に人間鹿から『レッスン』を受けたと思っていたかもしれない)、アオニヨシ氏は不満が募るばかりであった(下半身は満足していたようであったが)。

覚えたての英語を木曜朝の電話会議で使ってみた。

「I’m comming!」

と云ったところ、電話の相手の『YOU』は、

「What?」

と云い、電話会議の同席していた女性上司は、顔を赤らめた。

「You are beast!」

と云うと、やはり同席していた同僚に口を抑えられ、その日の会議中、オアニヨシ氏の口は塞がれたままであった。

「エヴァさんっていい加減だなあ。でも、それを信じたオレが馬鹿ってことか、まあ、『鹿』だけにな」

『ピロー・トーキング』を勧めたエヴァンジェリスト氏の言葉を真に受けた自分を責めた。

しかし、人間鹿はその夜も、『ピロー・トーキング』を求めて六本木の夜に繰り出し、ブロンド『YOU』から、『レッスン』を受けたのであった。

「You are beast!」

その夜のブロンド『YOU』もその言葉くらいしか教えてくれなかった。しかし、『レッスン』したことで自分だけは満足して帰って行ったのだ。

「エヴァさんっていい加減だなあ」

と思いつつも、人間鹿は明日の夜も六本木に現れるのだ。


…….こうして、六本木に『野獣会』復活、と云う噂が流れるようになったのであった。

そして、その噂を聞きつけ、『野獣会』入りを目指して夜の六本木に来る若者たちがいたのだ。

自分の『ケダモノ』を持て余している若者たちである。


(続く)



2017年6月15日木曜日

【野獣会、再び?】六本木に『ケダモノ』、現る!(その9)




人間鹿ことアオニヨシ氏は、昼間の六本木ヒルズ辺りで目撃された時には、まさに人間鹿で、頭部が鹿で体が人間であったが、夜、ロアビルやミッドタウン近くに、そして、芋洗坂に現れた時には、頭部と体が逆になっていたという。頭部が人間で、体部分が鹿になっていたというのである。

特派員は報告した。


「そうなのです。体部分が、と云うか、下半身(アソコが)が『野獣』に戻っていたのです。しかし……しかし、妙なのです…….」




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「しかし……しかし、妙なのです…….」

特派員は首を傾げて、エヴァンジェリスト氏に向け、呟いたのであった。

「人間鹿は、『YOU』と見たら、片っ端から声をかけていました。でも、妙なのです。声を掛けた相手が、フランス人やドイツ人だと、それ以上、話かけることはせず、直ぐに次の『YOU』に移るのです」

うーむ、アオニヨシは、フランス人やドイツ人が嫌いだったかなあ?

「イタリア人やスペイン人、ポルトガル人も駄目のようでした」

ヨーロッパ人が駄目なのか?

「いえ。正確に申しますと、フランス人やドイツ人、イタリア人が駄目というよりも、フランス語、ドイツ語、スペイン語しか話さない相手を避けていました。英語を流暢に話せるのであれば、フランス人でもドイツ人でも、ルーマニア人でもインド人でもいいみたいでした」

まあ、アオニヨシにフランス語やドイツ語が話せるとは思えないから、分らぬでもない。とはいえ、英語が達者だった記憶はないが。

「そうなんです。人間鹿の英語は酷いものです。『Why did you come to Japan?』と訊いた後は、『Where are you from?』『I have a pen. I have an apple.....』くらいしか云えていませんでした」

そんな英語力で『YOU』をナンパなんて烏滸がましいやつだ。

「ところが、人間鹿は、毎夜のように、ブロンド『YOU』たちとミッドタウン方面のホテルに消えていくのです。腕を組んで歩く『YOU』の方が背が高く、人間鹿の方が引っ張っていかれているようにも見えました」

そ、そんなはずがない。老いたとはいえ、まだ『原宿のアラン・ドロン』とも云われた美貌の名残りのあるビエール・トンミー氏ならまだしも、アオニヨシが、あの程度の美貌と貧弱な英語力で『YOU』を虜にするとはてても思えない。

「あ~。アナタは何も分っていらっしゃらない。人間鹿には、アナタもビエール・トンミー氏も敵わない『ケダモノ』の『部分』があるのです。人間鹿のアソコは、まさに『野獣』そのものなのです

うっ!そうか、そうだったのか!確かに、アオニヨシは、iPhoneを首から下げ、Yシャツの胸ポケットに入れず、それをそのまま垂らし、股間にあてバイブレーションで鍛えていたのであった。




「そう、人間鹿の『野獣』に『YOU』たちはゾッコンなのですよ。今、巷では六本木に『野獣会』復活か、という噂が流れていますが、その『野獣会』復活の正体は人間鹿のことだと思います」




そうか、そうだったのか………特派員の衝撃の報告を聞いたエヴァンジェリスト氏は、今や可愛いハリネズミのように縮こまってしまった自分のアソコを思い、項垂れた。

しかし、世には、まだまだ自分の『ケダモノ』を持て余している若者たちがいたのであった


(続く)