2017年11月20日月曜日

「iBookですか?」[その14](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



「iBookですか?」

2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便の機内で、エヴァンジェリスト氏は、スチュワーデス(CA)に、そう声を掛けられた。

「ええ」
「いいですよねえ。アタシ、迷ったんです。Windows使ってるんですけど、iBookに切換えようかと思って……..でも、何か、勇気がなくって…….」
「ああ」
「いいんでしょう?」
「ええ、いいですよ」
「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう

『ですう』というスチュワーデス(CA)の言葉遣いは、もうスチュワーデス(CA)のそれではなく、恋人に対して、とまではいかないものの、親しい人に対する物の言いようであった。






「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう
「ええ、使い易いですよ。全然違います」
「ですよねえ。いいなあ」

スチュワーデス(CA)は、完全に自分の立場を忘れていた。彼女の姿を見ず、その言葉を聞いただけであれば、周囲の乗客は、OLが憧れの上司に甘えている、と思ったであろう。

「機会があれば、切替えて下さい」
「ええ…………」

機会があれば私がセットアップもお手伝いしますし、その後も分らないことがあればサポートしますよ、とは、常識を持ち、理性のあるエヴァンジェリスト氏は云わなかった。



「ええ…………」

と云ったまま、スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏の席の横にまだ立ったままでいた。


(続く)





2017年11月19日日曜日

「iBookですか?」[その13](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便でのことであった。

エヴァンジェリスト氏は、離陸前に眠りに落ちていたが、飛行機が水平飛行に入り、ベルト着用サインが消え、機内での飲み物サービスが始まる頃に目を覚ました。

りんごジュースをもらい、飲み干すと、前の席の背からテーブルを下ろし、膝の上に置いていたiBookをその上に置き、仕事を始めた。

iBookで、メールを整理し、顧客提示用資料を作成していた。その時であった。

「iBookですか?」

突然、斜め後ろから、女性の声が聞こえてきた。

「?」

エヴァンジェリスト氏は、覗き込んでいたiBookから顔を上げた。






「iBookですか?」

そう声を掛けてきていたのは、スチュワーデス(CA)であった。彼女は、エヴァンジェリスト氏の席の横に立った。

「ええ」
「いいですよねえ。アタシ、迷ったんです。Windows使ってるんですけど、iBookに切換えようかと思って……..でも、何か、勇気がなくって…….」

スチュワーデス(CA)は、小首を傾げた。

「ああ」
「いいんでしょう?」

スチュワーデス(CA)の言葉遣いは、もうスチュワーデス(CA)のそれではなくなっていた。

「ええ、いいですよ」
「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう



『ですう』と、恋人に対して、とまではいかないものの、親しい人に対する物の言いようであった。


(続く)




2017年11月18日土曜日

「iBookですか?」[その12](垂涎のエヴァンジェリスト氏)




エヴァンジェリスト氏は、搭乗した飛行機で、スチュワーデス(CA)から、

「今日は、ハワイからですか?」

と、声を掛けられたことがあった。スチュワーデス(CA)は、憧れの(或いは、『一線』を越えた)同僚の機長と勘違いしたようであった。

「試験ですか?」

と、声を掛けられたこともあった。エヴァンジェリスト氏が、シショー・エヴァンジェリストに『講演』の仕方の指導する姿を、そのスチュワーデス(CA)が見たからであった。

いずれの場合も、スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏に特殊な感情を抱いたように見えた。

しかし、邪心のないエヴァンジェリスト氏は、彼女たちの『気持ち』に応えることはしなかった。

エヴァの友人であるビエール・トンミー氏がそこのことを知ったなら、

「もったいない!」

と、叫んだであろう。

そして、三度、

「もったいない!」

と、ビエール・トンミー氏が叫びそうな出来事が、エヴァンジェリスト氏の身に起きたのであった。

それは、2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便でのことであった……..






一年中、出張ばかりしており、飛行機に乗り慣れているエヴァンジェリスト氏は、搭乗すると、離陸する前から着席したまま眠りに落ちる。

しばらくして、飛行機が水平飛行に入り、ベルト着用サインが消え、機内での飲み物サービスが始まる頃になると、目を覚ます。

いやしい男である。ジュースを飲みたいのであろう。エヴァンジェリスト氏はいつも、りんごジュースを頼むのだ。

まあ、ビエール・トンミー氏よりはマシであろう。

ビエール・トンミー氏も、水平飛行に入り、ベルト着用サインが消えた頃に目を覚ます。彼の場合は、飲み物目当てではなく、スチュワーデス(CA)目当てだ。ビエール・トンミー氏は、スチュワーデス(CA)の胸を見る。脚をみる。お尻も見る。助平爺め。


………2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便でも、エヴァンジェリスト氏は、離陸前に眠りに落ち、飛行機が水平飛行に入って、ベルト着用サインが消え、機内での飲み物サービスが始まる頃に目を覚ました。

りんごジュースをもらい、飲み干すと、前の席の背からテーブルを下ろし、膝の上に置いていたiBookをその上に置き、仕事を始めた。

エヴァンジェリスト氏は後に(2016年に)、仕事依存症と診断されることになるが、この頃(2002年当時)、既に仕事とプライベートの別が殆どなく、寝ていない時は殆ど仕事をしていたのだ。

iBookで、メールを整理し、顧客提示用資料を作成していた。その時であった。

「iBookですか?」

突然、斜め後ろから、女性の声が聞こえてきた。

「?」

エヴァンジェリスト氏は、覗き込んでいたiBookから顔を上げた。



(続く)






「iBookですか?」[その11](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



「試験ですか?」

搭乗した飛行機のスチュワーデス(CA)が、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきた。

その飛行機で、エヴァンジェリスト氏は、上司であるシショー・エヴァンジェリストと『シショー’s シート』(スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席)に座っていた。

しかし、その時、シショーは、前(前の席に座るスチュワーデス)を見る余裕がなかった。

シショーは、部下ではあるがエヴァンジェリスト氏に『講演』の内容、仕方について、教えてもらっていたのだ。

エヴァンジェリスト氏は、営業であるが、自身の取扱商品をを購入されたお客様社員向けに行なっており、その『講演』をシショーもされることになったのだ。

二人の前には、席に着いたスチュワーデス(CA)が美脚を見せ、二人の方を見て、微笑みを浮かべていたが、シショーは、前の席に座ったスチュワーデス(CA)を美脚に目もくれず、

「エヴァちゃん、ここなんだけどさあ…..」

とか、

「ここは、これでいいの?」

等と、フライトの間中、エヴァンジェリスト氏に質問ばかりしていたのだ。

そして、飛行機が目的地の空港に着陸し、席の上の手荷物入れから取り出した鞄に『講演』用の資料を入れようとしていた時に、二人の前の席にいたスチュワーデス(CA)が、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきた。

「試験ですか?」
「あ、いえ、そうではないんですが」
「大変ですねえ。ふふ」
「ええ、まあ」
「お疲れ様でした。ふふ」

スチュワーデス(CA)は、もっとエヴァンジェリスト氏と話したい様子であったが、その時、出口の扉が開いた。

邪心のないエヴァンジェリスト氏であったが、その時のスチュワーデス(CA)の『異変』に気付かないではなかった。

スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏をどんな男と思っていたのであろうか?






『シショー’s シート』のすぐ横の扉が開き、そこからボーディーング・ブリッジに足を踏み出すエヴァンジェリスト氏の背中を、そのスチュワーデス(CA)は凝視めた。

そして、スチュワーデス(CA)は、自身の唇から濡れた舌を少し出し、エヴァンジェリスト氏にもその横に立つシショー・エヴァンジェリストにも他の誰にも気付かれぬよう、その舌で、唇に塗ったピンクの口紅をそっと舐めた。

そうスチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏をどんな男と思っていたのであろうか?彼女の眼は、エヴァンジェリスト氏の背中をどんな思いで追ったのであろうか?


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隣に座っていた男の方が明らかに歳上だが、その男に対して、何やら難しそうなことを教えている。ハンサムな人気大学教授であろうか?

大学教授ではないが、何かの関係の文化人で、テレビでコメンテーターでもしている人であろうか?そう云えば、何かのテレビ番組でお見かけしたことがあるような気もする。

独身だろうか?左手薬指に指輪をしていらっしゃらない。いや、結婚していてもいなくても、そんなことは構わない。

今晩は、お泊りなのだろうか?どちらのホテルなんだろう?もし、自分のホテルと一緒で、たまたま、そう、たまたまホテルのロビーでお会いしたら…….

「あら、今日のフライトのお客様ですわね」

その時は、思い切って、そう声を掛けてみよう

「あ!スチュワーデスさんですね」
「ええ」
「これもご縁ですから、ホテルのバーで一杯、如何ですか?」




そう云われたら、お断りはしないでおこう。お酒は弱い方ではないが、今晩は酔ってしまいそうだ。酔いはしなくとも、酔ったふりをしよう。

酔ってしまったら、気付いた時、自分はどこにいるのだろう………

或いは、酔ったふりをして、あの方に我が身をお任せしたら、どこに連れて行かれるのだろうか?

ホテルにチェックインしたら、部屋で直ぐに、下着を新しいものに替えておこう。備えあれば憂いなしだ。

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........その場に、ピエール・トンミー氏が居合せたら、そのスチュワーデス(CA)の表情から彼女の心理をそんな風に読み取ったかもしれない。

そして、ピエール・トンミー氏は、エナメル質を損傷させる程、歯軋りをしたであろう。

しかし、エヴァンジェリスト氏は、何事もなかったかのように(実際に、何事もなかったのではあるが)、飛行機を降りた。

そして、到着した出張先のホテルで、スチュワーデス(CA)に遭遇することもなかった。

スチュワーデス(CA)から、

「今日は、ハワイからですか?」

と声を掛けられようと、

「試験ですか?」

と声を掛けられようと、エヴァンジェリスト氏の貞操は守られたのであったが、三度、エヴァンジェリスト氏に『危機』が訪れたのであった。

それは、2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便でのことであった……..


(続く)






2017年11月17日金曜日

「iBookですか?」[その10](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



シショー・エヴァンジェリストとエヴァンジェリスト氏とが、一緒に地方に出張した往路便の飛行機の機内で、二人は並んで座っていた。

折角、『シショー’s シート』(スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席)に座っていたのに、その時、シショーは、前を見る余裕がなかった。

「エヴァちゃん、ここなんだけどさあ…..」

とか、

「ここは、これでいいの?」

とか、

「ここのところ、どうして……」

と、フライトの間中、エヴァンジェリスト氏に質問ばかりしていたのだ。

シショーは、部下ではあるがエヴァンジェリスト氏に『講演』の内容、仕方について、教えてもらっていたのだ。

エヴァンジェリスト氏は、営業だが、『講演』もしていた。今も(2017年)、『講演』活動をしている。

取扱商品に関連した『講演』を、その商品を購入されたお客様社員向けに行なっているのだが、その『講演』をシショーもされることになったのだ。

二人の前には、席に着いたスチュワーデス(CA)が美脚を見せ、二人の方を見て、微笑みを浮かべていたが、シショーは何もご覧になっていないし、何も感じてはいらっしゃらない。

「もったいない」

エヴァンジェリスト氏は、そう思った。

「ふうう……そうかあ……..」

シショーは、まだ『講演』の自信がないようであった。

「ここのところ、どうして……」

そうしている内に、飛行機は目的地の空港に着陸した。






「ふうう……….」

目的地の空港に着陸し、ベルト着用サインが消えると、シショー・エヴァンジェリストは、資料をたたみ、ため息をついた。

「エヴァちゃん、有難う」
「いいえ、大丈夫ですか?」
「まあ、なんとかなるさ」


二人は立ち上がり、席の上の手荷物入れからそれぞれ鞄を取り出した。

シショーは、鞄を席に置くと、

「ふうう……….」

と、再び、ため息をつくと、鞄を開けた。

そして、シショーが、ゆっくりと資料をその中に入れようとしていた時であった。

「試験ですか?」

二人の前にいたスチュワーデス(CA)が、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきた。

エヴァンジェリスト氏は、以前、多分、同僚の機長と勘違いされてか、スチュワーデス(CA)から声を掛けられたことがあった。

しかし、その時の、

「試験ですか?」

は、人違いして声を掛けたものではなかった。

スチュワーデス(CA)は、ビジネス・スマイルではないスマイルを頬に浮かべ訊いてきたのだ。

「試験ですか?」
「あ、いえ、そうではないんですが」
「大変ですねえ。ふふ」
「ええ、まあ」
「お疲れ様でした。ふふ」

スチュワーデス(CA)は、もっとエヴァンジェリスト氏と話したい様子であったが、その時、出口の扉が開いた。

邪心のないエヴァンジェリスト氏であったが、その時のスチュワーデス(CA)の『異変』に気付かないではなかった。

スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏をどんな男と思っていたのであろうか?


(続く)





2017年11月15日水曜日

「iBookですか?」[その9](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



飛行機の機内がまだ全面禁煙ではなかった頃の話である。

スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席(通称:『シショー’s シート』)が大好きなシショー・エヴァンジェリストは、例えその席が喫煙席であったとしてもそこに座ることを選択された(シショーは、タバコをお喫いにならない)。

「シショーは、スチュワーデス(CA)がお好きなのだ」
「シショーは、スチュワーデス(CA)とお話をされたいのだ」

エヴァンジェリスト氏を含む会社の部下たちは、そう囁き合った。

しかし、それは、誤解である。

シショーが、『シショー’s シート』を選ぶのは、閉所恐怖症だからである。閉所恐怖症だから、前が空いているその席がいいのだ。

だから、『シショー’s シート』は、スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席でも、通路側だ。窓側の席は、出っ張りがあるので、狭いところが苦手なシショーは選択しない。

尤も、シショーは、

「スチュワーデス(CA)と話するのがいいんだよね。へへ」

と仰言ったこともあり、疑惑は残る。

「だってね。スチュワーデス(CA)って、地方の美味しい店、色々と知っているんだよ。出張先の街のいい店が、分るんだよ、彼女たちと話してると」

という言い訳はされてはいたが。

そんなシショー・エヴァンジェリストとエヴァンジェリスト氏とが、またある時、一緒に地方に出張した。

往路便の飛行機の機内で、二人は並んで座っていた………






シショー・エヴァンジェリストとエヴァンジェリスト氏とは、普段、必ずしも飛行機で並びの席に座らない。

しかし、その時は、二人が並んで座る必要があった。

エヴァンジェリスト氏の方にその必要はなかったが、シショーとしては、どうしてもエヴァンジェリスト氏と並んで座りたかった。

エヴァンジェリスト氏に、教えを請いたかったのだ。『講演』について、エヴァンジェリスト氏に教えてもらいたかったのだ。

エヴァンジェリスト氏は、営業であるが、『講演』もしていた。今も(2017年)、『講演』活動をしている。

取扱商品に関連した『講演』を、その商品を購入されたお客様社員向けに行っているのだ。

その『講演』をシショーもやりたい、と云い出されたのだ。

ついては、エヴァンジェリスト氏の指導を受けようということなのである。

部下ではあるが、エヴァンジェリスト氏の方が、部署に長くおり、商品や市場についても詳しい。

「エヴァちゃん、ここなんだけどさあ…..」

『シショー’s シート』に着くなり、シショーは、『講演』資料のページをめくり、エヴァンジェリスト氏に訊いてきた。

「ああ、そこはですねえ…..」

と、エヴァンジェリスト氏が資料を指差して説明を始めると、シショーは、説明内容を必死に資料に書き込まれた。

折角、『シショー’s シート』に座っているのに、その時は、シショーは資料に目を落としたままで、前を向こうとしなかった。

フライト中、ずっと、エヴァンジェリスト氏に質問し、資料にメモを書く、その繰り返しであった。

二人の前には、席に着いたスチュワーデス(CA)がいた。すらっとした脚を斜めにして揃えていた。

しかし、スチュワーデス(CA)の美脚も、その時のシショーの目には入らなかった。

「ここは、これでいいの?」

シショーは、2ヶ月後に初の『講演』をする予定になっていたのだ。

「ええ、それでいいと云えばいいのですが….」

と答えながらも、エヴァンジェリスト氏の目には、スチュワーデス(CA)の美脚が目に入っていた。

美脚のスチュワーデス(CA)が、自分たちの方を見て、微笑みを浮かべていることも感じていた。

しかし、シショーは何もご覧になっていないし、何も感じてはいらっしゃらない。

「もったいない」

エヴァンジェリスト氏は、そう思ったが、

「ふうう……そうかあ……..」

シショーは、まだ『講演』の自信がないようであった。

「ここのところ、どうして……」




そうしている内に、飛行機は目的地の空港に着陸した。



(続く)







2017年11月14日火曜日

「iBookですか?」[その8](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



出張帰りのある地方空港でのことであった。

エヴァンジェリスト氏とシショー・エヴァンジェリストとは、仕事が予定より早く終ったので、一つ早い飛行機便で帰京することとした。

予約変更は難なくできたものの、問題が生じた。

座席について、シショーは、当然、『シショー’s シート』を希望したが、『シショー’s シート』は、喫煙席の分しかなかったのだ。『シショー’s シート』とは、スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席のことである。

「エヴァちゃん、どうする?

とシショーに訊かれ、エヴァンジェリスト氏は、

「あ、私は禁煙席にして下さい。シショーは、お好きになさって下さい」

と即答した。

「あ、そ……」

と肩を落としたシショーは、

「じゃ、私も禁煙席にして下さい」

と、JALのグランドスタッフに、そうお願いしたのであったが……..






JALのグランドスタッフに一便早い飛行機の禁煙席をとってもらったエヴァンジェリスト氏とシショー・エヴァンジェリストは、JALのカウンターを離れ、空港ビル2階の出発フロアへのエスカレターに向って歩いて行った。

JALのカウンターを離れ、10歩程行ったところで、エヴァンジェリスト氏が、ふと横を見ると、並んで歩いていたはずのシショーがいない。

振り向いて見ると、3-4歩後ろで、シショーが立ち止っていた。その顔にはなんだか悲愴感が漂っていた。

「エヴァちゃん……..」

シショーはため息交じりの声でそう云った。

「俺、やっぱりあの席にするわ。喫煙席でもいいから」

そう云うと、シショーは、JALのカウンターに戻って行った。

しばらくして、カウンターを離れ、JALの細長いチケットを片手にひらつかせながら、シショーはエヴァンジェリスト氏のもとに戻ってきた。

「替えてもらったよ」

シショーの口元が緩んでいた。

「ああ、良かったですね」
「エヴァちゃん、君はいいのかい?」
「ええ、私は、タバコは嫌なので」
「悪いねえ、俺だけで」

何が悪いのか分らなかったが、エヴァンジェリスト氏は、敬愛する上司がご満足でいらっしゃるなら、何が悪かろうと良かろうと、構わなかった。

「いやね、俺、狭いところ本当にダメなんだよ」

そのことはもう存じ上げていた。

「俺ね、閉所恐怖症なんだよ」

それもよく存じ上げている。

「だからね、あの席がいいんだ。でも、通路側だよ。窓側はさ、出っ張ってるやつがあるじゃない。あれがダメなんだよ。何しろ、俺、閉所恐怖症だからさあ」

シショーが繰り言が多いことは承知していたが、少々しつこい、と感じたものの、エヴァンジェリスト氏は一言、答えた。

「ああ、良かったですねえ」
「ああ、良かったよお、本当に」

こうして、シショー・エヴァンジェリストは、憑き物が取れたかの如く、軽やかな足取りで出発フロア(2階)へのエスカレーターに向ったのであった。



それからしばらくしたある日、エヴァンジェリスト氏はまた、シショー・エヴァンジェリストと一緒に地方出張をした。

往路便の飛行機の機内で、二人は並んで座っていた………


(続く)