2020年12月13日日曜日

バスローブの男[その45]

 


「トンミー君、彼女、送って行ってくれよな!」


マーケティング部の新システム稼働開始の打上げがお開きとなった時、マーケティング部の部長が、ビエール・トンミー氏の肩をポンと叩き、同僚の女性社員と談笑するマダム・トンミーに視線を送り、そう云った。


「送り狼に……ふふ……」


と、笑みをこぼし、部長は言葉を続けた。


「……なっていいぞ!な、頼んだぞ、送り狼!」


しかし、部長は知らなかった。ビエール・トンミー氏の好男子然と着こなしたスーツの下は、もう毛むくじゃらになっていたことを。


「はい!」


と答えたビエール・トンミー氏の口の端から溢れた犬歯が、光った。『送る』前からもう『狼』になっていたのだ。





………それから30分余り後であった。渋谷の坂道を登る一組の男女がいた。


「(うーっ!)」


男は、空を見上げ、心の中で咆哮を上げた。その夜は、満月であった。



(続く)



2020年12月12日土曜日

バスローブの男[その44]



「(ううーっ!)」


ビエール・トンミー氏は、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』の充血し始めた両眼に『獣』を見た。


「(これはあ………)」


マーケティング部の新システム稼働開始の打上げが始まったところである。システム開発部で新システムを開発したビエール・トンミー氏は、新システム稼動の功労者として、共に紹介されている新システムの操作を習得したマーケティング部のマダム・トンミーと並んで立ち、2人は凝視め合っていた。


「お似合いだよ、ご両人!」


部員たちから、掛け声がかる。


「おいおい、今日は新システム稼動の打上げじゃなくて、結婚披露宴かよお!」


部員たちは、凝視め合う2人の間に『戦い』が始まっていることに気付いていなかったが、結果として、彼らは2人の未来を予見していたのだった。


しかし……


「(喰ってやるぞ、『獣』め!俺こそ、『獣』なんだぞー!)」


ついに、『原宿の凶器』が、その牙を剥いた。


「(負けないわよ!『凶器』だってなんだって受けて立つわ!)」


マダム・トンミーも、『原宿のマドンナ』というよりも『原宿のアマゾネス』と化していた。




(続く)



2020年12月11日金曜日

バスローブの男[その43]

 


「(タッグもいいけど、やっぱり戦いたい!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、マーケティング部の新システム稼働開始の打上げが始まろうとしているにも拘らず、部員の人たちを前に並んで立つシステム開発部のビエール・トンミー氏との『戦い』のことしか頭になかった。


「(トンミーさんの凶器攻撃を受けてみたい!)」


新システム稼動の功労者として、新システムを開発したシステム開発部のビエール・トンミー氏と共に並んで紹介されていたが、部長が2人を称して使った『最強タッグ』という言葉であるとか、その言葉を受けてビエール・トンミー氏自身も口にした『これからもずっとタッグを組んで欲しい』という言葉に、プロレス好きの彼女の魂が燃えたのだ。


「(タッグ・パートナーだって、いつ敵になるか分らないのが、プロレスだわ)」


『原宿の凶器』と呼ばれるビエール・トンミー氏がどうやら股間に隠し持っているらしい『凶器』が、気になったのだ。


「(長州だって、藤波に『俺は、お前のかませ犬じゃない!』って云ったんだもの。2人は、タッグ・パートナーという程の関係ではなかったけど、敵ではなかったのに、ある日、突然、リング上で藤波に牙を剥いたんだから)」





(続く)



2020年12月10日木曜日

バスローブの男[その42]

 


「まあ!」


マーケティング部の新システム稼働開始の打上げをしている居酒屋で、新システム稼動の功労者として、新システムを開発したシステム開発部のビエール・トンミー氏と共に並んで紹介されていた『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏から『これからもずっとタッグを組んで欲しい』と云われ、照れて俯いた。で、その時、見た。


「(まあ!)」


乾杯前のビールを入れたコップで隠されていたビエール・トンミー氏の股間に、膨らみを目撃したのだ。


「(これね!やはり、そこに凶器を隠してらっしゃるのね!)」


と、マダム・トンミーの視線が、自らの股間に据えられているのを知ったビエール・トンミー氏は、慌てて、


「いや、これは、その…」


ビールをより股間に近付けた。


「(やっぱり一戦を交えたい!)」


と思うマダム・トンミーの顔面は、耳まで真っ赤になった。


「(君のせいなんだ!んもう!君と一戦を交えたい!)」


ビエール・トンミー氏も、マダム・トンミーが思ったのと同じ言葉を、でも少々違う意味合いで、心の中で叫んだ。




(続く)


2020年12月9日水曜日

バスローブの男[その41]

 


「(あんなのプロレスではないわ!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、全日本プロレス批判を口の中で呟いた。ビエール・トンミー氏と自分とを『最強タッグ』と褒められたが、『最強タッグ』、つまり、『世界最強タッグリーグ戦』を開催するのは、全日本プロレスであり、新日派(新日本プロレス好き)の彼女には、それは賞賛の言葉になっていなかったのだ。


「(でも…トンミーさんとタッグ・チームって、嬉しいわ。ふふ)」


マダム・トンミーに笑顔が戻った。マーケティング部の新システム稼働開始の打上げをしている居酒屋で、マーケティング部の部長から、新システムを開発したシステム開発部のビエール・トンミー氏と共に、新システム稼動の功労者として紹介されたところであった。


「ごめんね、ボクなんかとタッグだなんて」


隣に立つビエール・トンミー氏が、なんだか落ち着きを失っているような様子のマダム・トンミーにそう声を掛けた。


「ええ?そんなことありませんわ。光栄ですわ」


マダム・トンミーは、自分より10cmは背の高いビエール・トンミー氏に上目遣いで答えた。


「(んぐっ!可愛いい!)」


ビエール・トンミー氏は、思わず『反応』した股間を、まだ乾杯前のビールを入れたコップで隠し、動揺を誤魔化すように、言葉を継いだ。



「ああ、そう!良かった!じゃあ、これからもずっとタッグを組んで欲しいな」



(続く)




2020年12月8日火曜日

バスローブの男[その40]

 


「『原宿の凶器』が開発したシステムを、『原宿のマドンナ』が習得し、今、我々は、新たなマーケティングの武器を手にしたのだ。新システムの稼働は、この2人がタッグを組んだことで実現したんだ。有難う、ご両人!」


と云うと、マーケティング部の部長は、自分の隣に結婚披露宴の新郎新婦さながらに並んだ立つビエール・トンミー氏と『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』とに向け、拍手を送った。そこは、マーケティング部の新システム稼働開始の打上げをしている居酒屋であった。


「よっ、最強タッグ!」


という掛け声もかかったが、マダム・トンミーは、眉を顰めた。


「(違う!『最強タッグ』は、全日だわ。私、全日は好きじゃない!)」


当時の猪木率いる新日本プロレスのプロレスが好きで、全日本プロレスは好きではなかった。『世界最強タッグリーグ戦』を開催するのは、全日本プロレスであった。


「(全日のプロレスは、プロレスじゃないわ。私、見てるわ、技がヒットする瞬間を)」


マダム・トンミーは、全日本プロレスをプロレスと認めていなかったが、時々、テレビで全日本プロレスを見ることはあった。見もしないで批判することはしたくなかったのだ。


「(知ってるのよ、ラリアットなんかの技がヒットする瞬間、技を受ける方は、さっと、少し、ほんの少しだけだけど、体を後ろに引くの。でも、凄く技が効いたフリをするのよ。技をかける方もそれを分った上での技のかけかたをするのよ!)」




マダム・トンミーは、独り憤慨して鼻の穴を膨らませた。



(続く)



2020年12月7日月曜日

バスローブの男[その39]

 


「(お手合せ願いたいわ!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、そう思った。マーケティング部の新システム稼働開始の打上げをしている居酒屋で、彼女のすぐ横に、マーケティング部の部長と共に立つビエール・トンミー氏の股間に目を据えたままであった。


「(凶器攻撃、望むところだわ!)」


プロレス好きのマダム・トンミーは、『原宿の凶器』と呼ばれるビエール・トンミー氏が股間に隠す『凶器』を、栓抜きかボールペン、もしくはメリケンサックといったプロレスラーが使う凶器と思い込んでいた。


「(よし!)」


と、マダム・トンミーは、歯を食いしばり、ビエール・トンミー氏の凶器攻撃を受けて、額から出血しても立ち向かう自身の姿を思い描いていた時であった。




「で、みんな、今回の新システム稼動にあたっては、『原宿の凶器』トンミー君に相応しいタッグ・パートナーがいたんだ」


と、マーケティング部の部長が口にした『タッグ・パートナー』という言葉に、マダム・トンミーは、思わず反応した。


「え?」


と口を開けたマダム・トンミーを部長は指して、言葉を続けた。


「『マーケティング部の華』であり、『原宿のマドンナ』でもある彼女だ!さあ、立って」


と促され、マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏の横に立った。



(続く)