2021年1月16日土曜日

バスローブの男[その75]

 


「(円形ベッド!...)」


ようやく眼を全開させた『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『今』自分が寝ているベッドが、円形であることを知った。


「(そう、『チョチョシビリ』!)」


ビエール・トンミー氏によって連れ込まれた『逆さクラゲ』の部屋にあったベッドが円形であり、アントニオ猪木が、1989年4月24日、東京ドームで『チョチョシビリ』と異種格闘技戦を行った時のリングが、ロープなしの円形リングであったことから、その円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏を『チョチョシビリ』の得意技『裏投げ』で打ち負かそうと考えたことを思い出した。


「(でも…窒息しそうだった…)」


『裏投げ』でなければ、『裏投げ』に似たルー・テーズ流の『バックドロップ』でもいい、と考えている隙に、ビエール・トンミー氏から窒息技をかけられたことを思い出した。自らの口が、ビエール・トンミー氏の口で塞がれたのだった。


「(『鉄の爪』も!)」


窒息技をかけられたまま、左手で右臀部に対して、右手で左『胸』に対してクロー攻撃を掛けられ、クローを得意とした『鉄の爪』フリッツ・フォン・エリックのことを思い出したが、そのクローは、ただ痛いだけではなく、


「(痛いっていうより…んぐっ!)」


と、全身を走った稲妻のような『異変』に再び襲われ、白眼を剥きかけながら、


「(テーズのフライング`ボディシザース・ドロップの変形…)」


を掛けられたように、ビーエル・トンミー氏に乗っかかられたまま、ベッドの上に倒れ込んだことを思い出した。


「(そう、メリー・ゴーラウンドでもないのに…)」




と、倒れ込んだ円形ベッドの『リング』が、回転し始めたことに今更ながら驚愕し、


「(トンミーさんだったら、何をやっても許されるんだわ!)」


と、前田日明の『猪木だったら、何をやっても許されるのか』という言葉に倣った言葉をあらためて口中で発した。ビエール・トンミー氏に、次々と既成概念を打ち破ってきたアントニオ猪木を見ていたのだ。



(続く)




2021年1月15日金曜日

バスローブの男[その74]

 


「(9450だったわ…)」


『逆さクラゲ』の部屋のベッドにシーツにくるまり、半開きだった眼が段々、全開近くなって来た『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、思い出した。マーケティング部の部屋の壁際に置かれたパソコンFACOM9450の前に、ビエール・トンミー氏と並んで座る自分の姿である。


「(トンミーさんが開発してくれて…)」


そうだ、マーケティングの為のシステムをビエール・トンミー氏が開発してくれたのだった。そして、そのシステムの操作をFACOM9450で、ビエール・トンミー氏から教えてもらったのだ。


「(臭かったああ….)」


操作を教えるビエール・トンミー氏が放つ得も云われぬ臭気が、鼻腔に蘇る感覚に襲われた。が、それは単なる感覚ではなく、同じ臭気がマダム・トンミーが今包まっているシーツの中にも篭り、彼女の胸元から鼻腔へと上って来ていたのだった。


「(結婚披露宴みたいだなんて…)」


マダム・トンミーは、今また頬を染めた。マーケティングの為のシステムが完成した打上げが渋谷の居酒屋で開かれ、マーケティング部の部長から、新システム稼動の功労者として、部員たちを前に、ビエール・トンミー氏と並んで立った時、新郎新婦のようだと冷やかされたのだったが、そんなことよりも、


「(まさか、あんなところに凶器を隠してるなんて!)」


と、マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏の股間に視線を注ぎ、そこに凶器を持つビエール・トンミー氏と一戦交えたい気持ちに駆られていたことを思い出した。


「(狼?...)」


打上げの後、自分を送って行くビエール・トンミー氏と円山町に登る坂道で、自分の肩を抱くビエール・トンミー氏が、狼に見え、プロレスラー『ウルフマン』に変身したのだと思っていた、その時に、その『ウルフマン』に、ピンクとオレンジとブルーのネオンサインに包まれた建物に連れ込まれたのだった。


「(『逆さクラゲ』!)」


そこが、念願の『逆さクラゲ』と悟ったものの、酔いが回り、次に眼を開けた時、猛烈な獣臭に『うっ!』と思わず、えずいたが、今、再び、


「うっ!」


えずき、今包まっているシーツの中から登って来ている臭気が、その時の獣臭と同じものであることを知った。





(続く)




2021年1月14日木曜日

バスローブの男[その73]

 


「(ああ、『逆さクラゲ』!)」


まだ半開きの眼のままの『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ようやく、自分がいるのが、『逆さクラゲ』であることを思い出した。


「(そうだわ、『お局様』と…)」




マダム・トンミーは、社内の女性社員の憧れの的で『原宿のアラン・ドロン』と呼ばれるビエール・トンミー氏が、人事総務部の古株の女性社員である『お局様』と池袋西口の『逆さクラゲ』から出てくるのを見たという噂があると聞いたことを思い出した。


「(『ラブホテル』…)」


『逆さクラゲ』とは、『連れ込み宿』のことで、今でいう『ラブホテル』であることを同僚のトシ代に教えてもらったことを思い出した。そして、『ラブ』つまり『愛』を確かめ合う場所であることも。


「(そう、『組んず解れつ』だったわ)」


『愛』を確かめ合う為に、ベッドの上で『組んず解れつ』する場所であることも思い出した。そして、『組んず解れつ』とは、つまり、プロレスすることであると知ったことを(誤解であるが)、思い出した。


「(『原宿の凶器』!)」


更に、プロレスと云えば、凶器がつきものであり、ビエール・トンミー氏は、『原宿の凶器』とも呼ばれていることを、やはり同僚のトシ代に教えてもらったことを思い出した。


「(トンミーさん…プロレス……)」


『原宿の凶器』ということは、やはりビエール・トンミー氏はプロレスをするのだ、と確信したことが、脳裏に蘇って来た。


「(『お局様』とだけでなく、私とも一戦を、って….)」


ビエール・トンミー氏とプロレスをし、ヘッドロックに捉えられ、レフェリーの眼を盗んだ凶器攻撃で、額を突枯れる姿を想像し、余りの興奮にお漏らしをしそうになった感覚を今、再び感じ、マダム・トンミーは、自分の身を包んでいるベッドのシーツの中で、両脚を窄めた。





(続く)




2021年1月13日水曜日

バスローブの男[その72]

 


「(え?ルー・テーズ?)」


ベッドに片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せた『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、自身の半開きの眼が捉えた仁王立ちする男のことを、最初、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』かと思った。


「(違う….猪木さん?)」


『ルー・テーズ』が白いガウンを着た姿(写真)は、見たことがなかったからだ。仁王立ちする男は、白いガウンを着ていたのだ。少なくとも、マダム・トンミーにはそう見えた。そして、アントニオ猪木なら、白いガウンも着ていたはずだったのだ。


「(でも、『闘魂』って書いてない…)」


そうだ、仁王立ちする男の白いガウン(と見えるもの)には、猪木の白いガウンなら書かれているはずの『闘魂』という文字が書かれていなかった。


「(じゃあ、誰?)」


マダム・トンミーは、徐々に眠りから覚醒して来ていた。


「(ここは、どこ?)」


そして、自分が寝ているのが、円形ベッドであることを知った。




「(どうして、ベッドが丸いの?)」


円形ベッドは、そして、円形ベッドがある部屋は、ピンクの照明に満たされていた。


「(ピンクの照明?)」



(続く)



2021年1月12日火曜日

バスローブの男[その71]

 


「(あら?私、どうしたのかしら?)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、猛獣と化したビエール・トンミー氏によって、サッシュ・ブラウスを取られたことも、更に、その下に着けていた胸に当てていたものまでをも取られたことも、あくまでプロレスの一環と捉えながらも、ファン、観客が想像だにしないことまでやってのけるアントニオ猪木を超えるものと感嘆し、そこにマーケティングの極意さえも見ていたのであったが…..


「(攻撃されているのに、なんだか、とっても….んぐっ!)」


会社でマーケティング部所属のマダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏がマーケティングの達人であることに喜びを覚えていたが、『歓び』も感じ始めていたのだ。


「(あらああ!.......んぐっ!)」


と、またまた三白眼になった時、


「(ひゃっ!...んん?冷やっ!)」


下半身に寒さを感じた。




「(ええ?ええ?ええー!!!!!!)」


…..そうして、マダム・トンミーは、『原宿の凶器』の真の怖さを、『原宿の凶器』の真の姿を、ビエール・トンミー氏が何故、『原宿の凶器』と呼ばれるのかを知ることになったのであった。


「うおおおおおおーおおおー!」



(続く)




2021年1月11日月曜日

バスローブの男[その70]

 


「(ええ、そう。でも、これこそがマーケティングの極意だわ!)」


マーケティング部に所属する『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏の所業にマーケティングの極意を見たのだ。


「(市場の創造ね!競合のない状態を創り出すことよ!)」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、猛獣と化したビエール・トンミー氏によって、サッシュ・ブラウスを取られたことを、マダム・トンミーは、入場時のリング衣装を剥ぎ取るプロレスの一環と捉えていたが、更に、その下に着けていた胸に当てていたものまでをも取られるに至り、ファン、観客が想像だにしないことまでやってのけるアントニオ猪木を超えるものをビエール・トンミー氏に見たのだ。


「(市場調査をして顧客のニーズを汲み取るがマーケティングではないわ。お客様って、自分が何が欲しいか知らないものよ。そうよ、顧客に媚びてては、いいモノは提供できないわ!)」


マダム・トンミーは、その時点でもまだ、ビエール・トンミー氏とその時しているものをプロレスと理解しながらも(勿論、それは誤解であったが)、その『プロレス』の中にマーケティングの極意が隠されていると感じ取ったのだ。


「(トンミーさんって、相手が、ええ、私が想像もしなかった、望みもしなかったことを仕掛けてらしたのね!トンミーさんって、システム開発部なのに…あ、でも)」


と、今は会社のシステム開発部のエリート社員であるビエール・トンミー氏が、実は、かのハンカチ大学の商学部出身であることを思い出した。ハンカチ大学には、日本のマーケティング界に聳え立つマサ・オウーノ教授が教鞭をとっていたことを聞いたことがあった。


「(トンミーさん、アナタ、コンピューターにも詳しくて、でも、マーケティングの真髄もご存じなのね!)」


しかし、マダム・トンミーは、知らなかった。ビエール・トンミー氏が、マサ・オウーノ教授が教鞭をとっていた教室の隣の教室で学んだことがあるだけであることを。




「(ええ、私、想像もしなかった、望みもしなかったことを仕掛けられて……でも、嬉しい!...というか….)



(続く)




2021年1月10日日曜日

バスローブの男[その69]

 


「(ひゃっ!)」


胸が冷たさを感じた。『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』が、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、猛獣と化したビエール・トンミー氏の口臭によって、『うっ!臭い!臭いけど…』と、ダブル・ミーニングに意識を失いかけていた時であった。


「(へ?)」


胸に当てていたものが取られたことを感じた。だから、胸に冷たさを感じたのだ。


「(ま、まさかあ!)」


プロレスで、入場時のリング衣装を剥ぎ取られることはあるものなので、サッシュ・ブラウスを取られたことは驚きはしたものの、想定内の展開ではあったが、まさに、『ま、まさかあ!』で、試合着まで剥ぎ取られるとは思っていなかったのだ。


「(怖い!トンミーさんって、怖い!でも凄い!猪木さん以上だわ。第一回IGWPの決勝というそれ以上に大事な試合はないという試合で、ハルク・ホーガンに負けてみせた猪木さんを超えてるわ!」


マダム・トンミーには、アントニオ猪木と戦うビエール・トンミー氏の姿が見えてきていた。




「(カリスマ中のカリスマだった当時のボクシング世界ヘビー級チャンピオンのモハメッド・アリと戦うなんて、誰も信じやしなかった一戦を実現させたり、ソ連のアマチュア・レスラーたちをレッドブル軍団としてプロレスのリングに上げたり、イラクの人質解放をを実現した猪木さんでもできなかったことよ!)」


胸が露わにされたことを忘れ、いや、そのことは忘れてはいたのではなく、むしろ、そのことで興奮の極みに達しようとしていた。


「(まさか、こんなことをされるなんて思いもしなかったわ!)」



(続く)