2021年12月21日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その84]



「『庄屋』という言葉は、『荘園(庄園)』から来ているらしい」


と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『荘園(庄園)』と書いた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、そこに『庄屋』なる存在も出てきたのであった。


「『荘園(庄園)』って聞いたことあるだろ?」


という『少年』の父親の質問に、『少年」は直ぐに答えた。


「奈良時代とか平安時代の土地のことだったと思う」


『少年』は、社会科で『荘園』のことは習っていた。


「まあ、だいたいそんなもんだな。農地とか 農村の地域だったり、その所有を認める制度のことだな。『庄屋』は、その『荘園(庄園)』の屋敷ということからできた言葉らしい。『名主』は、やはり奈良時代とか平安時代に土地の所有者というか経営する人が自分の名前をつけた『名田』(みょうでん)というものがあり、それが荘園の基本的な単位となって、その『名田』を経営する人のことを『名主』(なぬし)と書いて『名主』(みょうしゅ)と呼ぶようになったんだそうだ。それが、後に、『庄屋』と同じ意味、立場の人を指すようになったようなんだ」


と、『神聖ローマ帝国』のこと等、世界史に詳しい『少年』の父親が、今度は、日本史の解説をする。




「『肝煎り』は、肝を煎る、つまり、心を焦がすとか、物凄く神経を使う、という言葉から来ていて、世話役、という意味で、これも、つまり『庄屋』と同じ意味、立場の人のことをいうのさ。今でも、『誰々の肝入り』で、という云い方をするが、それは、誰々が特に熱心に取り組む、なんて意味だ」

「で、その『庄屋』が、『所請状之事』を作ったんだね。でも、『所請状之事』ってどんな書類なの?」


と、『少年』が、父親の話す内容が派生的に、そして更に派生的にと、展開していく中で、元のテーマを忘れず、質問をした時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女のその母親が、


「ああ、『星由里子』のことなんねえ」


と、夫に向け、呆れた云い方をした。夫が、『すみちゃん 』と云ったのは、映画『若大将』シリーズのマドンナ役で、すき焼き屋『田能久』の娘を演じる女優のことと理解したのだ。


「まあ、『星由里子』は綺麗じゃけどねえ。ウチの次くらいに」


と、ちょっと下顎を突き出すような惚けた仕草をしてみせた。


「はああ~ん?お前、何、寝ぼけとるんならあ」


と、今度は、夫の方が、妻に向け、呆れた云い方をした。



(続く)




2021年12月20日月曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その83]

 


「『シーボルト』には娘がいたんだ、日本に」


と、『少年』の父親は、『少年』が想定していなかった状況を語り始めた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、ドイツ人の医者ながらも、オランダ人として、日本に入国しようとしたところ、日本側の通訳からオランダ語の発音が変だと怪しまれたものの、自分は『山オランダ人』(山岳地方に住むオランダ人)だ、と誤魔化したようだ、と説明し、更には、『シーボルト』の娘も自分の父親のことをオランダ人だと思っていたようだ、と云い出していた。


「日本に?」


『少年』には、『シーボルト』に、日本に娘がいた状況が飲み込めない。


「『シーボルト』は日本人女性との間に女の子をもうけたんだ」

「へええ、『シーボルト』は、日本で日本の女性と結婚したんだね」

「うーむ…結婚かあ…」

「結婚せずに子どもができたの?」


と、云いながら、『少年』は、自分にしか分らない程度に頬を薄紅に染めた。子どもがどのようにしてできるか、朧げながら知ってきていたのだ。


「ビエール、結婚ってなんだ?」

「え?」

「どうすれば結婚したことになるんだ?」

「それは、役所に結婚の届を出すんじゃないの?....あ!江戸時代には、そんな届はなかったんだ!」




「いや、江戸時代にも届はなくはなかったんだ。今は、役所に婚姻届を出すんだが、江戸時代には、『所請状之事』(ところうけじょうのこと)と読むのかなあ、それと『離旦證文』(りたんしょうもん、か、りだんしょうもん)と読むんだと思うが、その2つの書類が必要だったんだ」


と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『所請状之事』、『離旦證文』と書いた。


「『所請状之事』というのは、庄屋が作る書類なんだ。庄屋は、知っているだろ?」

「うん、今でいう町長さんとか村長さんのことでしょ」

「その通りだ。関東では、『名主』と呼ぶところが多かったようだし、地方によっては、『肝煎り』と呼ぶところもあったようだがな」


と、『少年』の父親は、またまた、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『庄屋』、『名主』、『肝煎り』と書いた時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女のその母親が、


「たぬき~?」


とすッとぼけたような声を出した。


「何、云いよるんならあ。『たぬき』じゃのうて、『たのきゅう』じゃ」


少女の父親が、呆れたような表情で妻に答えた。


「何が、楽しゅうなんか、知らんけど、それがどしたん?」

「『田能久』(たのきゅう)は、すき焼き屋じゃけえ」

「アンタあ、食い意地が張っとるねえ。さっき、お好み焼き食べたばっかりじゃないね」

「お好み焼き屋に、『すみちゃん 』はおらんけえのお」



(続く)




2021年12月19日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その82]

 


「『山オランダ人』は、実は、あながち単なる嘘とも云えないんだ」


と、『少年』の父親は、息子に対して、それまでの自らの説明を否定するようなことを云い出した。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、ドイツ人の医者ながらも、オランダ人として、日本に入国しようとしたところ、日本側の通訳からオランダ語の発音が変だと怪しまれたものの、オランダで一番高い山は、宇部市の『霜降山』くらいの高さに過ぎないものしかないくらいに、オランダは『低い国』だったが、当時はまだオランダ事情に疎かった日本人に対して、自分は『山オランダ人』(山岳地方に住むオランダ人)だ、と誤魔化したようだ、と説明していたのだ。


「ええ!?『山オランダ人』なんて、高い山のない『ネーテルラント』にいる訳ないんじゃないの」


未だ穢れを知らない『少年』は、嘘を許せない。




「大まかな分類なんだが、オランダ語は、『低地ドイツ語』とも云われ、オランダ人を、『低地ドイツ人』とも云うらしいんだよ」

「ええー~!オランダが、『低地ドイツ』だから、逆に、オランダから見たら、ドイツは『高地オランダ』、つまり『山オランダ』ということ?」

「実際のところは分らないが、『シーボルト』が、自分のことを『山オランダ人』と云って、日本人通訳を誤魔化した時、オランダ人は『低地ドイツ人』とも云われることが頭をよぎっていた可能性はあると思うよ」

「でも、やっぱり『山オランダ人』なんて嘘だと思うけど、日本人通訳は、それを信じたんだね」

「日本人通訳だけではないんだ。『シーボルト』の娘も、自分の父親のことをオランダ人だと思っていたようなんだ」

「え?『シーボルト』の娘?」


と、『少年』が、父親からの『シーボルト』の説明の中に急に、知らない登場人物が現れ、唖然としている時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女のその母親が、


「はあん?どこに『坂本スミ子』がおるん?」


と、当時、『ラテンの女王』として人気のあった歌手の名前を出して、自分の夫に訊いた。


「何?何が、『坂本スミ子』なんや?」


夫が、妻に訊き返した。


「アンタが、『すみちゃん』云うたじゃないね」

「何云いよるんなら、『坂本スミ子』は、『おスミ』じゃろうが」

「なら、何なん、『すみちゃん』いうんは?」

「『田能久』よお」



(続く)




2021年12月18日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その81]

 


「『霜降山』くらいの山に住んでいて、麓の人と言葉が違うなんてことないと思う」


と、『少年』は、誰に対して、というものではなかったが、広義の言葉を口にした。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、ドイツ人の医者ながらも、オランダ人として、日本に入国したことを説明したところ、『少年』は、『シーボルト』がオランダ語はできたのか、という疑問を抱き、『少年』の父親は、『シーボルト』が日本入国にあたり、日本側の通訳からオランダ語の発音が変だと怪しまれたのを、自分は『山オランダ人』(山岳地方に住むオランダ人)だ、と誤魔化したようだが、オランダで一番高い山は、宇部市の『霜降山』くらいの高さに過ぎない、と説明したのだ。


「『霜降山』くらいの山が、山岳地方の山って云えるの?」


『少年』は、『霜降山』を思い描きながら、質問した。もう何日か後であったなら、『少年』は、


「キングコングなら『♫おおき~なやま~をひとまたぎ』くらいの山だと思う、『霜降山』は」




と、唄混じりで云ったかもしれない。1967年4月5日から、アニメの『キングコング』が始まり、小林亜星が作詞・作曲した主題歌が、『少年』の印象に強く残ることになるからであるが、その時はただ、こういうだけであった。


「山岳地方って、高い山が幾つも続いているような高い地方のことでしょ」

「その通りだ。『ネーデルラント』には、山岳地方と呼ばれる程に高い山はないんだ」

「じゃあ、『シーボルト』は、嘘をついたんだね。いや、オランダ人だ、と云うこと自体が嘘だけど」

「でも、当時の日本人は、オランダ、つまり、『ネーデルラント』のことを詳しく知らないから、『シーボルト』が自分のことを『山オランダ人』というのを鵜呑みしてしまったんだろう。オランダ商館長がそう云ったとも云われているがね」「今からしたら、笑い話のような嘘だね」

「面白い嘘といえばそうなんだが….」


と、何やら『少年』の父親が含みを持たせた云い方をした時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女の隣で、


「すみちゃん…」


と、少女の父親が、横断歩道の反対側を見ながら、口を半開きにしたまま、そうため息をついた。自分の妻が、


「もう、アンタになんか見せたげんけえ。見せるんじゃったら、あそこの『キャップ』みたいな人にじゃ」


と、横断歩道の反対側にいる『少年』の父親を指差した時、その側にいる女性(『少年』の母親)に魅入ってしまったのだ。少女の母親は、『少年』の父親を、当時、人気番組となっていたテレビ・ドラマ『ザ・ガードマン』の『キャップ』こと『高倉隊長』、つまり、宇津井健と見たが、少女の父親も、『少年』の母親を誰か有名女性と見たようであったのだ。


「ふぁ~、綺麗じゃのお」



(続く)





2021年12月17日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その80]



「『シーボルト』は、自分のことを『山オランダ人』だと云ったのさ」


と、『少年』の父親は、妙な言葉を口にした。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、ドイツ人の医者ながらも、オランダ人として、日本に入国したことを説明したところ、『少年』は、『シーボルト』がオランダ語はできたのか、という疑問を抱き、『少年』の父親は、『シーボルト』が日本入国にあたり、日本側の通訳からオランダ語の発音が変だと怪しまれたのを変な理屈で誤魔化した、と説明していたのだ。


「え、『山オランダ人』?何、それ?」


『少年』は、聡明な父親の言葉らしくない妙な表現に、眉を顰めた。


「山岳地方に住むオランダ人とでもいう意味だろう。だから、オランダ語が訛っている、と云いたかった、というか、そういうことにして、自分はオランダ人だと誤魔化そうとしたようだ」

「でも、『ネーデルラント』は『低い国』なんでしょ?山なんてあるの?」

「なくはないようだ。『ファールゼルベルク』という山があって、『ネーデルラント』で一番高い山なんだ。ビエール、『霜降山』を覚えてるか?」

「え?『霜降山』?宇部の?」

「そうだ。『ネーデルラント』で一番高い山の『ファールゼルベルク』は、『霜降山』より少しだけ高い山なんだ」

「ええー!『霜降山』って、遠足で行くような山だよ」




「そうだ、『霜降山』は、標高250メートルくらいだったと思う。『ファールゼルベルク』も、海抜300メートル少ししかないようなんだ」

「ええ!?海抜300メートル少ししかないの?あ、いや…『海抜』?『標高』じゃないの?」

「ああ、『海抜』と『標高』とは、厳密には違うんだ。『標高』は、東京湾の海面を基準にした高さなんだが、『海抜』は近隣の海面を基準にした高さだ。でも、日本では、全部ではないけど、殆どどこでも東京湾の海面を基準にした高さを使っているから、『海抜』と『標高』とは、実質的には同じと云っていいんだ。まあ、『海抜』にしろ『標高』にしろ、『ネーデルラント』で一番高い地点は、『霜降山』の頂上くらいのところ、ということなんだ」


と、『少年』の父親が、息子の理解を得やすいように、オランダの山と前日まで住んでいた宇部市にある山とを比較している時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女の隣で、


「広島にも、『キャップ』みたいに渋い男がおったんじゃねえ」


と、少女の母親が、横断歩道の反対側を見ながら、口を半開きにしたまま、そうため息をついた。


「え?」


少女とその両親のすぐ近くで、同じく信号待ちをいていた、手に『天満屋』の紙袋を持つ20歳代後半と思しき女性が、少女の母親の方に顔を向けた。


「(今、このお母さん、『キャップ』云うてじゃった)」


そう、横断歩道の反対側にいる『少年』の父親を、当時、人気番組となっていたテレビ・ドラマ『ザ・ガードマン』の『キャップ』こと『高倉隊長』、つまり、宇津井健と見間違うたあの女性である。


「(『キャップ』見とってじゃ)」


少女の母親も、自分と同じで横断歩道の反対側にいる『少年』の父親を凝視めていることを確認した。


「(でも、『キャップ』は渡さんけえ。それに、ご主人がおるじゃろうに)」


と、少女の父親を見たところ、父親も惚けた表情になっていた。



(続く)




2021年12月16日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その79]

 


「『ネーデル』(Neder)は、『低い』という言葉で、『ランド』(land)は、『国』とか『地域』という意味だと思う」


と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『Neder』、『land』と書いた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、ドイツ人の医者ながらも、オランダ人として、日本に入国したことを説明したところ、『少年』は、『シーボルト』がオランダ語はできたのか、という疑問を抱き、『少年』の父親は、『シーボルト』は、オランダ語ができたといえばできたようだ、と説明し、オランダとドイツとの関係を説明しながら、『オランダ』の正しい国名『ネーデルラント』の説明をしていた。


「ああ、『オランダ』って、いや、『ネーデルラント』って、海抜ゼロメートル以下の土地が多いからだね」


『少年』は、今なら(2021年の今なら)、『池上彰』の『ニュースそうだったのか!!』等の番組の優秀な生徒となれるであろうような発言をした。


「そうだ。『ネーデルラント』の国土の4分の1は、海抜ゼロメートル以下だそうだからな。だから、『オランダ』のことは、フランス語でも『ペイ・バ』と呼ぶんだ」


と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『Pays-Bas』と書いた。


「『ペイ』(Pays)は『国』で、『バ』(Bas)は『低い』という言葉だ。つまり、『低い国』だな。『アフシュライトダイク』という世界最大の堤防が、『ネーデルラント』にはあるくらいなんだ。『アフシュライト』が『締め切る』という意味で、『ダイク』が『堤防』だ。海だったところに、堤防を作って湖を作ったんだそうだ」


と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『Afsluitdijk』と書いた。




「でも、『ネーデルラント』が『低い国』であることを江戸時代の日本人は知らなかったんだろうな」

「え?それって、どういうことなの?」

「『シーボルト』が、オランダ人だとして日本に来た時、日本の通詞、まあ、通訳だな、その通訳が、『シーボルト』のオランダ語の発音が変だ、と思ったらしいんだ」

「そりゃそうだよね。『シーボルト』はドイツ人だもの」

「しかし、『シーボルト』は、その疑惑を上手く、というか、変な理屈で誤魔化したんだそうだ」

「変な理屈って?」


と、『少年』とその父親の会話が、ようやく『シーボルト』の話題に戻ってきた時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女の隣で、


「アンタあ、高校生の娘に何、云うんね!」


と、少女の母親が、夫を叱責していた。


「マリリン・モンローのああようなんの、どこがエエんね」


少女の父親が、少女が『トニー.カーチス』の名前を出したことから、『トニー.カーチス』が映画で共演した『マリリン・モンロー』のことが喚起され、『マリリン・モンロー』が、映画『七年目の浮気』の中で、地下鉄の通気口の上に立ち、スカートがめくれ上がったことを思い出しては、涎を流さんばかりとなっていたのだ。


「そりゃ、お前のより良かろうがあ」

「もう、アンタになんか見せたげんけえ。見せるんじゃったら、あそこの『キャップ』みたいな人にじゃ」


と、少女の母親は、横断歩道の反対側を指差した。



(続く)






2021年12月15日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その78]

 


「『ダッチ』(Dutch)というのは、『ドイツ語』とか『ドイツの』という意味のオランダ語『Duits』(ダウチ)やドイツ語『Deutsch』と語源が同じで」


と、『少年』の父親は、また手帳を取り出して開き、そこに、自身のモンブランの万年筆で、『Dutch』、『Duits』、『Deutsch』と書いた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、ドイツ人の医者ながらも、オランダ人として、日本に入国したことを説明したところ、『少年』は、『シーボルト』がオランダ語はできたのか、という疑問を抱き、『少年』の父親は、『シーボルト』は、オランダ語ができたといえばできたようだ、と説明し、オランダとドイツとの関係を説明しようとしていた。


「オランダは、神聖ローマ帝国、つまりドイツだな、その一部だった時期もあるから、イギリスから見たら、オランダもドイツもなく、その辺りにいる民族は、『ダッチ』(Dutch)だったんだろう」


と、『少年』の父親は、冷静に説明をしたが、


「オランダからしたら、失礼な話だよね。自分たちのことをイギリスから勝手に、『ダッチ』(Dutch)って、ドイツみたいなことを云われて」


聡明とはいえ、まだウブであった『少年』は、義憤にかられ、鼻腔を拡げた。


「というビエールの『オランダ』という云い方も失礼かもしれないんだぞ」

「え!?......」


非難の矛先が、まさか自分に向いてくるとは思ってもいなかった『少年』は、そこで絶句した。


「『オランダ』の正式な国名は、『オランダ』ではないんだ。正しくは、『ネーデルランド』、いや、オランダ語では、『ネーデルラント』なんだ。まあ、『オランダ』自身が、『オランダ』という呼び方も使ってはいるんだがな」

「あ、『ネーデルランド』って聞いたことがあるような気がする」

「『オランダ』という名前は、『オランダ』、いや、『ネーデルラント』の12の州の中の、『北ホラント州』と『南ホラント州』とを示しているだけなんだ」

「どうして、一部の州の名前が、国の名前みたいに使われるようになったの?」

「『北ホラント州』と『南ホラント州』のは、首都のアムステルダムやロッテルダムとかハーグといった『ネーデルラント』の中心的な都市があったからのようだ」

「じゃあ、今度から、『オランダ』とは呼ばず、『ネーデルラント』と呼ぶようにするね。でも、『ネーデルラント』って、どういう意味なの?」


『少年』はその時、50年余り後に(2020年に)、国名の通称としての『オランダ』(Holland:ホラント)の使用を禁止することになると予知していた訳では勿論ない。


「おお、それもいい質問だな」


『少年』の父親は、またまた、今なら(2021年の今なら)、『池上彰』風とも云える言葉を発したその時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女の隣で、


「地下鉄の通気口よお。ふふんっ」


と云った少女の父親の口の左端からも、涎が流れたかのように見えた。




「『七年目の浮…」


とまで口にしたとき、それまで黙っていた少女の母親が、


「アンタあ、何云いよるん!」


と、語気強く夫を叱責した。



(続く)