2022年4月18日月曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その202]

 


「ああ、『スカラベ』、つまり『フンコロガシ』が、古代エジプトの人たちには、太陽神のように見えたようなんだ」


と、『少年』の父親は、落ち着きを取り戻し、解説を始めた。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っていルところであった。


「え、『太陽神』?太陽を神のように崇める、っていう?」


と、『少年』が、やや自信なさげに口を開いた。


「そうだ。『フンコロガシ』が、糞を丸めて転がしていく様を、古代エジプト人は、そうだなあ、運動会の玉転がしみたいにじゃないかと思うが、太陽を押していく、つまり、太陽を運行させる神『ケプリ』に見立てたようなんだ」




「ああ、そうなんだねえ。小さな虫が丸めた糞を押す姿が、太陽の運行に見えたなんて、昔のエジプトの人って、想像力が凄いね」

「勿論、本当のところは知らないんだが、逆かもしれないんだ」

「逆って?」

「『フンコロガシ』の幼虫は、糞の中でその内部を食べて育って、成虫になると出てくるらしいんだ。そこで、古代エジブトでは、『フンコロガシ』のことを、『出現する』という意味の『ケペレル』と呼んでいたらしいんだよ。『ケペレル』が、まあ、『ケペル』や『ケプリ』という発音というか云い方になったんじゃないかと思う」

「ああ、『ケペル先生』の『ケペル』だね」


『少年』は、さっきまで乗っていた『青バス』(広電バス)の中で父親に、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来について、訊き、少年』の父親は、昔の2人の天文学者の名前、『ケプラーと『コペルニクス』とを掛け合わせたのではなかったか、と答えていた。しかし、もう一つ、『ケペル』の名前の由来として、スカラベ』を、つまり、『フンコロガシ』を挙げていたのである。


「そこでだ。そこから、逆に、『フンコロガシ』が糞を丸めて転がしていくように太陽を運行させる神のことを『ケプリ』と呼ぶようになったのかもしれない」

「そうなんだねえ。でも、『ケペル先生』の『ケペル』は、『フンコロガシ』じゃなくって、ケプラーと『コペルニクス』とを合せたものの方がいいなあ。ううん、『フンコロガシ』馬鹿にしているんじゃないんだよ。『フンコロガシ』だって、神なんだしね。でも、父さんは、『ケペル先生』よりもっと色んなこと知っているから、玉転がしをする神様っていうより、ケプラーや『コペルニクス』みたいな学者のような感じが似合っていると思うんだ。ボクも父さんのような『ものしり』になりたいなあ」

「いや、『ものしり』なんかにならなくっていいんだ」


と、『少年』の父親は、『少年』に対してというよりは、己に対してのように、そう云った。



(続く)




2022年4月17日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その201]

 


父さんは、がっかりだ…」


と云って、『少年』の父親は、両の肩を落とした。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っていた。


「え…?」


と、『少年』は、母親に続けて、父親からも叱責を受け、大きく戸惑った。糞を転がす虫『フンコロガシ』を古代エジプト人が崇拝していたことに驚いたことで、父親から怒られていることは理解してはいたが、何故、そのことで怒られるのか、判らなかったのだ。『少年』は、さっきまで乗っていた『青バス』(広電バス)の中で父親に、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来について、訊き、少年』の父親は、昔の2人の天文学者の名前、『ケプラーと『コペルニクス』とを掛け合わせたのではなかったか、と答えていた。しかし、もう一つ、『ケペル』の名前の由来として、スカラベ』を、つまり、『フンコロガシ』を挙げていた。


「糞尿を取り扱う人に対して、そんな見方をしていたのか!」

「でも…『フンコロガシ』って、虫だけど…」

「糞尿を処理してくれる人がいないと、ウチの便所は、ウンコで溢れてしまうんだぞ。今度の牛田の家の便所は、汲み取り式だからな」

「え?水洗じゃないの?」


前日まで住んでいた宇部市琴芝の家のトイレは、水洗であったのだ。しかし、日本の住宅の多くがまだ汲み取り式のトイレの時代であった。


「父さんは、人を差別したり、偏見を持ったりする子にビエールを育てた覚えはない!職業に貴賎はない!」

「え?『フンコロガシ』が、糞を転がすのって、職業だったの?」

「うっ…職業ではなく、糞を安全なところまで持って行って食べる為だ」

「『フンコロガシ』って、糞を転がすだけじゃなく、食べるんだね」

「それがいけないか!我々、人間だって、糞尿をかけられて育った野菜なんかを食べてきているではないか」


まだ、畑に肥溜めが残っている時代であった。




「それどころか、人間は、動物や植物を殺して食べて生きているんだぞ」

「うん、ごめんなさい。『フンコロガシ』にも謝る。でも、古代エジプトの人は、どうして『フンコロガシ』を崇拝していたの?」


と、『少年』は、改めて疑問を父親に投げた。



(続く)




2022年4月16日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その200]

 


「え?『スケベ』?」


という『少年』の言葉に、他の乗客たちの視線が、『少年』とその家族に向いた。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「まあ、何を云うの!降りるわよ」

と、『少年』の母親は、頬の皮膚の下を強い朱に染めて、『少年』の肩を抱えるようにしてバスを降りた。『少年』の父親と『少年』の妹が続いた。


「『洋子』ちゃん…」


広島の進学校である広島県立広島皆実高校の出身で、『ハンカチ大学』の商学部に在籍しているようである青年が、他の誰にも聞き取れない程度の小さな声で呟いた。『少年』の妹が、彼には、前年(1966年)にテレビ・ドラマ化もされた三浦綾子・原作の『氷点』のヒロインの少女『陽子』を演じる『内藤洋子』に見えていたのであった。


「ビエ君らしくないわ。あんなこと云うなんて」


バスを降りた『少年』の母親は、『少年』に悲しげな顔を向け、そう云った。学業優秀で品行方正な『少年』を叱ることなんてまずなかった『少年』の母親にとって、公衆の面前での『少年』の言葉はショックだった。


「だって、父さんが…」


『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、『少年』は項垂れたまま、左右の脚を交互に前に出していった。


「父さんの発音が悪かったかな。すまん、すまん」


『少年』の父親が、『少年』を庇う。


「『スカラベ』って云ったんだ」

「『スカラベ』?」

「ああ、『フンコロガシ』のことだ。知っているだろ、『フンコロガシ』は?」

「知ってるけど、どうして、『ケペル先生』が、『フンコロガシ』なの?」


『少年』は、『青バス』の中で父親に、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来について、訊き、少年』の父親は、昔の2人の天文学者の名前、『ケプラーと『コペルニクス』とを掛け合わせたのではなかったか、と答えていた。しかし、もう一つ、『ケペル』の名前の由来として、スカラベ』を、つまり、『フンコロガシ』を挙げたのだ。




「古代エジプト人は、『フンコロガシ』を創造の神として崇拝していたんだ」

「ええー!『フンコロガシ』を!?だって、『フンコロガシ』って、糞を丸めて転がしていくんだよ」

「そうだな。だから、まさに『フンコロガシ』という名前がつけられているんだ」

「そんな糞を転がす虫を崇拝していたなんて!」

「おい!」


会社でも家庭でも温厚な『少年』の父親が、珍しく声を荒げた。



(続く)




2022年4月15日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その199]

 


「え?『コペルニクス的転回』?」


と、『少年』は、父親が云った言葉を鸚鵡返しした。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。しかし…


「『コペルニクス』が、でんぐり返しをしたの?」


と、『少年』は、父親同様、聡明ながらも、まだ小学校を卒業したばかりの子どもらしい発想をしてみせた。『少年』は、父親に、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来について、訊き、少年』の父親は、昔の2人の天文学者の名前、『ケプラーと『コペルニクス』とを掛け合わせたのではなかったか、と『少年』に教えていた。




「まあ、でんぐり返しをしたようなものだな。上のものを下に、下のものを上にする、そう、価値観を全くひっくり返すことを『コペルニクス的転回』というんだからな」

「ああ、そういうことなんだね。でも、みんなが云っていることと違うことを考えたり、云ったりするのって、なかなかできないよね」

「そうだ。人間って、固定観念に縛られているからな」

「そんな『転回』ができた『コペルニクス』って、やっぱり凄い人なんだね。『物知り博士』は、2人ともとっても凄い『ケプラー』と『コペルニクス』とを合わせたくらい凄いから、『ケペル先生』って名前になったんだね」

「はっきりは覚えていないが、そうだったんじゃないかとは思う。でもな、ひょっとしたら、なんだが、『スカラベ』からきているのかもしれない」


と、『少年』の父親がまた、『少年』が聞きなれない言葉を発した時、


「降りるわよ


と、『少年』の母親が、バスの中でまだ話し込んでいる夫と息子に声をかけた。



(続く)




2022年4月14日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その198]

 


「『地動説』というか、地球ではなく、太陽が中心になっているということは、古代ギリシャの、だから、紀元前の人である数学者で天文学者の『アリスタルコス』の方が、『コペルニクス』よりも先に唱えたんだそうだ」


と、『少年』の父親は、『少年』が聞いたこともない名前を、いや、多くの人が聞いたこともない古代の人の名前を出してきた。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「『コペルニクス』自身、自分が書いたものの中で、『アリスタルコス』について言及しているらしい。ただ、『天動説』が当り前だった時代に、『地動説』を唱えた『コペルニクス』は偉大であったことは確かだ」


と、『少年』の父親は、『アリスタルコス』から、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来の一つではないかと思われる天文学者『コペルニクス』へと話を戻した。


「『コペルニクス』も『異端審問』にかけられたの?」

「いや、かけられていない」

「え?どうして?同じように『地動説』を唱えたのに」

「うーん、そうだなあ、まあ、発表の仕方や、その考えが知られるタイミングもあったとは思う。『コペルニクス』の『地動説』が世に知られたのは、彼が死んだ後だともされているからな。でも、時代背景が違ったんだろう。『ガリレオ』の時代は、『宗教改革』の真っ只中で、カトリック教会は、自分たちの教えに反する考えに敏感だっただろうと思う」

「『宗教改革』?」

「ああ、キリスト教の改革だ。『カトリック』と『プロテスタント』って、聞いたことないか?」

「ああ、なんか聞いたことがあるような気がする」

「キリスト教は、元々は一つだったんだ。何しろ、キリストの教えから始った宗教だからな。その元々のキリスト教が、ローマ帝国の東西分裂によって、『東方教会』と『西方教会』とに別れるんだ。その『東方教会』から、今のギリシャ正教とかロシア正教といった『正教会』という教派になるんだ」


と、『少年』の父親は、取り出したままにしていた手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『正教会と書いた。


「ああ、よくは知らないけど、『東本願寺』と『西本願寺』みたいな感じだね」

「いやあ、それはどうかなあ。まあ、『西方教会』の方は、更に、『宗教改革』によって、『カトリック』と『プロテスタント』に別れるんだ。宇部の家の近くに、『カトリック宇部教会』という教会があったのを覚えていないか?」

「ああ…あったような気も」

「線路の反対側には、『ルーテル宇部教会』というものあったんだが、それは覚えていないかなあ?」

「うーん…知らない」

「『宗教改革』は、そうだなあ、簡単に説明すると、『西方教会』のキリスト教が、『ローマ・カトリック』と呼ばれるようになったんだが、段々、儀式化したり形骸化したことに反対したもので、ドイツの神学者だった『マルティン・ルター』から始ったものなんだ。『ルーテル宇部教会』の『ルーテル』って、『ルター』をドイツ語読みしたものだ。その『宗教改革』の結果、『カトリック』から離れた教会の『プロテスタント』ができたんだ。『プロテスタント』って、『抗議する者』という意味だ。『カトリック』は、普遍的とか全般的、というギリシア語からきているそうだが」




「ああ、そんなキリスト教が分裂しそうで揉めている時に、『ガリレオ』は教義に反する『地動説』を唱えたから、問題になったんだね」

「そうだ。でもな、『地動説』は、それまでの概念を完全に覆す程の新しい考えだから、それを『ガリレオ』より先に唱えた『コペルニクス』は大したものだと思うぞ。何しろ、『コペルニクス的転回』という言葉があるくらいだからな」


と、『少年」の父親が、話を『コペルニクス』に戻した時、


「着いたよ」


と、『少年』の妹が、バスの中でまだ話し込んでいた父親と兄に声をかけた。



(続く)




2022年4月13日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その197]

 


16世紀から17世紀にかけてというのは、安土桃山時代から江戸時代の初めの頃だな」


と、『少年』の父親は、考えを巡らせることもなく、『少年』の疑問に答えた。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「『ケプラー』が生れた1571年は、信長が比叡山を焼き討ちにした年だ」

と、『少年』の父親は云ったが、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の『ケペル先生』の『ケペル』の名前の由来の一つではないかと思われる天文学者『ケプラー』から『織田信長』、『比叡山焼き討ち』へと話を派生していってしまうと思ったのか、『少年』は、次の問いを父親に投げた。


「『ケプラー』が凄い人だっていうことは、分ったけど、『ケペル先生』になったもう一人の『コペルニクス』って、どんなな人だったの?なんか聞いたことがるような気もするんだけど」

「そうかあ、聞いたことがないかなあ?『地動説』だよ」

「『地動説』って、地球が宇宙の中心だという『天動説』の反対で、地球が太陽の周りを回っている、という考えでしょ?」

「そうだ。知っていたか」

「でも、『地動説』って『ガリレオ』じゃないの?」

「確かに、『ガリレオ・ガリレイ』は、『地動説』を唱えたことで有名だな。そのことで、『異端審問』にかけられているしな」

「『イタンシンモン』?」

「ああ、『異端審問』は、いわば、『宗教裁判』だな」


と、『少年』の父親は、取り出したままにしていた手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『異端審問と書いた。


「中世のカトリック教会で、信仰に反する考えを持つ者を『異端』だとして裁判にかけたんだよ。当時は、地球が宇宙の中心だということが当然だと思われていたからな。そう、『天動説』だな。だから、『地動説』を唱えた『ガリレオ・ガリレイ』は、『異端審問』にかけられ、有罪になってしまったんだ」

「『それでも、地球は回っている』と云ったんだよね?




「おお、その言葉も知っていたか」

「だから、『地動説』って、『ガリレオ』じゃないの?」

「『ガリレオ・ガリレイ』よりもずっと前、90年くらい前に生れた『コペルニクス』という天文学者が先に『地動説』を唱えていたんだよ」

「へええ、『コペルニクス』という人が、最初に『地動説』を唱え、その後に、ガリレオ』も『地動説』を唱えるようになったんだあ」

「いや、最初ではないんだ」


と、またもや『少年』の期待というか想像を裏切るような言葉を『少年』の父親が発した時、


「着いたわよ」


と、『少年』の母親が、バスの中でまだ話し込んでいた夫と息子に声をかけた。



(続く)




2022年4月12日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その196]

 


『ケペル先生』の『ケペル』って、どういう意味なんだろう?」


と、『少年』は、父親を比した当時(1967年である)、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』の登場人物(人形だが)『ケペル先生』について疑問を持ってしまった。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「日本語は喋ってるけど、日本人みたいな名前じゃないし」


と、『少年』は、父親に投げかけようとしていた別の質問の前に、『ケペル先生』に囚われてしまった。八丁堀で見たデパート『天満屋』に関する話、更に、『天満屋』から派生した『シーボルト』や『狛犬』、『岡山』等々の話をようやく終え、『青バス』が牛田に着こうとしていたが、今、『少年』は、今度は、当時(1967年である)、NHKで放送されていた子ども向けの番組『ものしり博士』で、子ども向けに科学のこと、歴史のこと等、色々なことを解説する登場人物(人形だが)『ケペル先生』ついて話し始めてしまったのであった。


「『ものしり博士』は、あまり見たことはないが、『ケペル先生』の『ケペル』は、『ケプラー』と『コペルニクス』とを掛け合わせたんじゃなかったかなあ?」

「え?『ケプラー』?『コペルニクス』?」

「ああ…『ケプラーの法則』って、まだ習ってないかあ」

「『ケプラーの法則』?」

「『ケプラー』は、16世紀から17世紀にかけていたドイツの天文学者でな、『ケプラーの法則』は、その『ケプラー』が発見した惑星の運動に関する法則なんだよ」

「惑星の運動?」

「ああ、『ケプラーの法則』って、三つの法則があるんだ。一つが、惑星は、太陽を焦点の一つとした楕円の軌道を描く、というもものだ」

「焦点の一つ?って、ことは、太陽の他にもう一つ焦点があるの?」

「そうだ。楕円っていうのは、焦点が2つあるものだからな」

「もう一つの焦点には、何があるの?」

「何もないさ。正確には、そこには宇宙空間はあるが、ただそれだけさ」

「へ?何もないのに、焦点になっているの?」

「『ケプラー』も、もう一つの焦点に何もないことでがっかりした、とも云われているらしい。何もないのに、焦点になっているのはどうしてか、という疑問は、云い換えると、何故、楕円軌道になるか、ということなんだが、そこは、遠心力と太陽の万有引力との釣り合いの結果、ということになるんだ。そのことをちゃんと知りたかったら、大学の理学部に行った方がいいかもしれない。『ケプラー』自身、『万有引力』のことは知らなかったからな」

「ああ、『万有引力』って、『ニュートン』が発見したんだよね?」

「そうだ。『ニュートン』は、『ケプラー』より少し後の人だからな。『ケプラー』は『万有引力』のことは知らなかったが、『ケプラーの第一の法則』があったから、『ニュートン』は、『万有引力』を発見できたんだと思う」

「ということは、『ケプラー』ってやっぱり凄い人だね」

「そうだな。で、二つの目法則は、ある惑星と太陽との間の直線は、一定の時間に常に同じ面積を描く、というものだ」

「へええ…少しわかったような、でも、分からないような」

「三つ目の法則は、惑星の公転周期は太陽からの平均距離の三乗に比例する、というものだ」




「ああ…なんだか、惑星みたいに眼が回りそうだあ。でも、『ケプラー』って本当に凄い人だね。そんな難しいことを発見したなんて!それも、16世紀から17世紀にかけての頃の人なんでしょ?その時期って…」


と、『少年』が、自らの頭を少し、惑星のように回していた時、


「もうそろそろ着くよ」


と、『少年』の妹が、バスの中でずっと話し込んできた父親と兄に声をかけた。



(続く)