2022年6月17日金曜日

【緊急衝撃特報】ナンパ老人、危機一髪![その5]

 


おお、やはりそうであったか!」


と、独り合点したエヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏が、自らのオゲレツ欲を満たす為に(女性を連れ込む為に)、ベンツの船に19億円も注ぎ込んだのか、というビエール・トンミー氏を取材対象とする特派員にiMessageを送った。


「ビエールの奴、一時は、ワシ同様、石原プロ入りの噂もあったくらいだから、船の一艘や二艘、買っていたとしても不思議ではない」

「え?貴方に石原プロ入りの噂があったことは存じ上げていますが、あの方にも、石原プロ入りの噂があったのですか?」

「君は、アイツの特派員のくせに、そんなことも知らんのか」

「申し訳ありません。何しろ、最近、特派員になったものですから。しかし、今はもう、石原プロはありませんでしょ?」

「アイツはな、広島県立広島皆実高校の1年7ホームの時から、ワシに次ぐ美貌と頭脳とダンディさの持ち主として名を馳せていたのだ」

「なんですか、その『1年7ホーム』の『ホーム』って?」

「ああ、広島皆実高校ではな、今もそうかもしれんが、『クラス』のことを『ホーム』と呼んでいたのだ。その『1年7ホーム』でアイツとワシは一緒だったのだ。ワシらは、そこからの付き合いだ」

「その後、貴方は、『OK牧場大学』に入られ、『OKボーイ』となった。そして、石原プロが、石原裕次郎亡き後、渡哲也も病に苦しむようになり、経営が危ぶまれる段になって、石原プロの救世主と期待されたのですね?」

「まあ、世間はそう見ているようだな」

「しかし、貴方は、なかなか石原プロに入ろうとはしなかっと、と聞いています。それは、まき子夫人が、貴方の電話番号を知らず、貴方に電話をして石原プロ入りを頼んでこなかったから、とも聞いていますが、本当のところはどうなんですか?」

「ああ、そこんとこはノーコメントだ。それ以上、訊くなら事務所を通してくれ」

「おお、それですね!お得意のセリフだ。噂に聞いていました」

「まあ、なんにせよ、巷では、ワシがなかなか石原プロ入りしないから、ワシに次ぐスター候補生であったビエールに、石原プロ入りを期待するようになった、と噂したようだ。あくまで噂だがな」

「そうだったんですね!」

「確かに、あの頃のアイツの風貌は、石原プロの俳優らしさが漂っておったからな。ああ、そうかあ。あの頃にアイツ、免許を取ったんだな」




「え?免許?あの方が、運転免許を取られたのは、資料によると、『ハンカチ大学』在学中の23歳の頃でしたね?」

「それは、クルマの運転免許だろ」



(続く)




2022年6月16日木曜日

【緊急衝撃特報】ナンパ老人、危機一髪![その4]

 


「19億円くらいだったと思う」


『19億円』という金額を、エヴァンジェリスト氏は、ベンツの船『Arrow460-Granturismo』の値段を訊いてきたあの特派員に、こともなげにiMessageで伝えた。


「へっ、へっ、へえええ~!貴方、そんな金額をよくも平気で口にできますねえ!」

「いや、iMessageだから、口にはしておらんぞ」

「相変らずの減らず口だ」

「だからあ、口は使ってはおらん。使っているのは、指だ」

口を使うとか、指を使うとか、貴方、本当にオゲレツでいらっしゃる」

「君は一体、何を想像しているんだ?」

「それにしてもベンツが、船の製造までしていたとは、知りませんでした」

「ベンツは、ホテルだってプロデュースしているんだ」

「え?ホテルも?」

「まあ、ホテルというか、長期滞在者用のラグジュアリー・レジデンスらしいんだが、高級アパートメントサービスの不動産会社「フレイザー・ホスピタリティ・グループ」と提携して、そのデザインをベンツがしたらしい。『Mercedes-Benz Living @Fraser residence』といったかなあ、ロンドンとシンガポールにあるらしいぞ」

「おお、ホテルとは、ますますイヤラシイ!」

「だから、何を想像しとるんだ、君は?まあ、ベンツは、他にもエアバスのヘリコプターをカスタムメイドしたとも聞いたぞ」




「おお、なんという高価なオゲレツ!あの方は、ベンツの船でクルージングして、港から、その『ベンツなんとかレジデンス』とやらまでベンツのヘリコプターで若い女を連れ込んだのですな?」

「え?ビエールの奴、そうなのか?」

「何をお惚けを。ベンツのヘリコプターもホテルも高価だとは思いますが、ベンツの船に19億円も注ぎ込まれたのですね、自らのオゲレツ欲を満たす為に!」



(続く)




2022年6月15日水曜日

【緊急衝撃特報】ナンパ老人、危機一髪![その3]

 


「なんだとお!ワシのことを馬鹿とは無礼ではないか!」


エヴァンジェリスト氏は、自分に対して、貴方、馬鹿ですか?』とiMessageを送ってきたあの特派員に、怒りのiMessageを返した。


「ワシは、オゲレツではあるが、馬鹿ではない!」

「いや、貴方は、オゲレツな馬鹿でしょう。あの方が、『難破」するなんて、戯言以外の何物でもありません。いいですか、『難破』って、船が壊れたり、転覆したりすることなんですよ」

「そんなの『あたり前田のクラッカー』、常識以前の問題だ」

「『てなもんや三度笠』とは、古い。貴方、やっぱり棺桶に片足を突っ込んだご老人ですな。いいですか、あの方は、ベンツにはお乗りですが、ベンツはクルマ、自動車ですよ。船ではありません」

「ふんっ!」

「鼻水を飛ばしてこないで頂きたい」

「iMessageでは、鼻水も送れるようになったのか?」

「ああ、いつも常識に囚われることを批判する貴方が、常識にとらわれておいでとは!あのですねえ、テクノロジーは日々、進化しているのです。いつの日か、iMessageで鼻水を送れる時だってくるかもしれません」

「そういう君自身が常識の囚われ人だ。ベンツは確かに、クルマだ。しかし、ベンツの船もあるのだ」

「ええーっ!????」

「『Arrow460-Granturismo』だ」

「へ?」

「臭い!屁をするな!いいか、『Arrow460-Granturismo』を横から見た姿は、まるでベンツが海に浮かんでいるかのようなんだぞ。ネットで検索して画像を確認するんだな」




「….ううーっ!ベンツが船の製造まで手がけていたとは!で、あの方は、その『アローなんとか』というベンツの船をお持ちなんですね?」

「はああ?ビエールの奴、やっぱり『Arrow460-Granturismo』を買っていたのか!」

「いえ、それは、私がお訊きしているのです。『アローなんとか』って、おいくらなんですか?」



(続く)





2022年6月14日火曜日

【緊急衝撃特報】ナンパ老人、危機一髪![その2]

 


「ああ、アイツのことかあ」


エヴァンジェリスト氏は、『ナンパ老人』に関するニュースだと連絡してきたあの特派員に、iMessageながら呟くように返した。


「君は、アイツを取材対象とする特派員だから、まあ、当り前といえが当り前だな」

「そうです。あの方です」

「ビエールの奴が、若い女に『ナンパ』でも試みて、撃沈したのか」

「『ナンパ老人、危機一髪!』なんです」

「敢えなく撃沈しただけで『危機一髪!』は、大袈裟だなあ。女の連れの男が、その筋の人間で、凄まれでもしたのか?」




「はあ?何か誤解されてませんか?『ナンパ』の相手が、若い女であるのは確かですが」

「20歳台後半か?」

「おお、まさにその通りです!」

「アイツは、昔から若い娘が好きだからなあ。それに、美人だったんだろう?」

「ええ、私も『んぐっ!』するくらいの美人でした」

「おいおい、その『んぐっ!』は、やめておけ。ビエールの奴は、『んぐっ!』が大嫌いだからな」

「どうして、あの方は、『んぐっ!』がお嫌いなんでしょうか?」

「うーむ、それは、よくは分からんが、『んぐっ!』できなくなっているからじゃないかと思う。しかし、その状態で、アイツ、よく『ナンパ』する気になったな」

「はあ?あの方が、『ナンパ』されたのですか?」

「こっちが、『はあ?』だ。20歳台後半の若い美人を『ナンパ』した、と報告してきたのは、君だろうに」

「私、そうは申し上げておりません。あの方が『ナンパ』、という主旨のことは申し上げましたが」

「あの方が『ナンパ』、という主旨のこと、だとかなんとか、その面倒臭い云い方はやめんか。つまり、アイツは、20歳台後半の若い美人を『ナンパ』したのではないのだな?」

「そうです」

「ということは、ははあ~ん、アイツ、20歳台後半の若い美人に見とれて、『難破』してしまったんだな?」

「はあ?はあ?はあ~ん?貴方、馬鹿ですか?」



(続く)




2022年6月13日月曜日

【緊急衝撃特報】ナンパ老人、危機一髪![その1]

 


サウンド『シンセ』が鳴った。


「はあ?なんだ、こんな時間に」


ベッドに半身を起こし、面倒臭そうに返信した。着信音サウンドの『シンセ』は、あの特派員からのiMessgeであり、エヴァンジェリスト氏は、iMessageで返したのだ。


「こんな時間も何も、まだ午後6時になるところではありませんか」

「さっき、孫を2人、娘のところまで送っていったところで疲れているんだ」

「ああ、近所にお住いの娘さんのお子さんですね。まだ、4歳と2歳でいらっしゃる」

「ああ、そうだ」

「娘さんがパートに出る日なんかに、保育所がわりに、よくお孫さんをお預かりになるんですね。迎えに行き、送っても行かれるんですよね」

「そうだ。ウチに来ている間、相手もしなくてはならんのだ」

「クルマを持たないどころか、運転免許も持たない貴方は、お孫さんの送り迎えも、チャイルドシートを付けた自転車でなさるんですよね。でも、リアに、つまり、チャイルドシートは、後部に付けただけなので、一度に乗せられるお孫さんはお一人で、だから、2人を迎えに行くのも2往復、お2人を送って行くのも2往復なんですよね。電動アシスト自転車でもないから、余計に大変なんですよね」




「ワシの自転車のハンドルは、『オールラウンダー』だから、前にチャイルドシートは取り付けできんのだ」

「『オールラウンダー』って、フラットというかストレートのハンドルですね。『アップハンドル』でないとチャイルドシートは付けられませんからね。しかし、幼児を自転車に乗せるのは、20数年ぶりの貴方は、間違って、取り付けが簡単だからと、前方用のチャイルドシートを買ってしまい、あらためて、後方用のチャイルドシートを購入し、取り付けてもらったんですね」

「五月蝿いなあ!そんなことどうでもいいだろう。ワシは、疲れているんだ。ベッドに体を横たえたばかりだったんだぞ」

「しかし、このニュースを知ったら、どんなに疲れていても、貴方は、ベッドから飛び上がられるでしょう」

「いや、この歳になると、少々のことでは驚かん」

「ええ、貴方は、ロシアによるウクライナ侵攻でも驚かれはしなかった。世間の人たちは、21世紀の現代に戦争が起きるとか思っていなかった、と衝撃を受けていますが、貴方は違った」

「ああ、別に驚いてはおらん」

「ええ、貴方は、『20世紀でも21世紀でも、中東やらアフリカやらアフガニスタンやらで戦争はずっとどこかで起きているが、ヨーロッパ、というか白人が多いであろう地域で起きた戦争だからなのか、或いは、報道のされ方もあってなのか、今回のウクライナでの戦争が、自分たちには身近に感じられるのだろう。日本だって、戦争に行く米軍に基地を提供してきているんだから、間接的には戦争をしてきているのに、自分たちにその意識も殆どないし、平成の時代に日本に戦争がなかった、という者がいたり、そう思う人間が多いのには呆れる』とお思いだ」

「君は、どうして、ワシがそう思っている、と勝手に云うのだ」

「あれ、違ってましたか?」

「そんなことより、何のニュースだ?ワシは、兎に角、疲れているんだ。勿体を付けるなら、寝るぞ」

『ナンパ老人』です!」

「はあ?『ナンパ』?『老人』?」

「ほうら、驚いたでしょう!」



(続く)




2022年6月12日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その257]

 


「やっぱり『バド』じゃあ!」


と、少女『トシエ』は、確信し、自らの頭を幾度か上下させた。。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の英語の授業で、他の生徒が読めなかった英語の文章を、ビエール少年が、教師に指名され、難なく読んでみせたところであった。


「『ボッキ』くんより、凄いねえ」


他の女子生徒も、戸坂小学校では敵なしで成績優秀で、そして、小学校ではまだ習っていなかった英語も難なくこなす『ボッキ』少年を引き合いに出し、ビエール少年を称賛した。その言葉が耳に入ってきた『ボッキ』少年も、屈辱感はあったものの、


「ああ…」


と、英語でも、ビエール少年の実力を認めざるを得なかった。ビエール少年が、今、眼前で読んでみせた英語の文章を、自分はビエール少年のように、一般の日本人には聞き取れないほどの発音で読むことはできない自覚があったからである。


「あれが、アメリカ人の英語なんじゃねえ」

「ほうよねえ。ウチ、テレビでアメリカ人が英語喋っとるん聞いたことあるけど、ああような感じじゃった」

「アメリカに長うおっちゃったけえね」

「アメリカの『ユーベ』におっちゃったじゃろ」

「やっぱり、お父さんかお母さんが、アメリカ人なんじゃ」

「おじいちゃんかおばあちゃんがアメリカ人じゃったんかもしれんけえ」

「じゃけえ、英語の先生も、すぐにトンミーくんに読ませるんじゃろう」


と、クラスの女子生徒たちは、『東京弁』を喋るビエール少年のことを、東京からの『転校生』と捉える男子生徒たちに対し、流暢な発音で英語の文章を読むビエール少年をさすがにアメリカ人少年とは思わないものの、アメリカ帰りと信じ込んでいた。


そして、教師も、


「ええ発音じゃ。ワシ、より上手いかもしれんのお」


と褒めたが、ビエール少年は、自惚れた様子は見せず、静かに席に着いた。


と、


「『バド』、今度、ウチに英語教えてくれん?」


隣席(ビエール少年の左隣) から、少女『トシエ』が、ビエール少年にグッと顔を近づけてきた。





(続く)




2022年6月11日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その256]

 


「トンミーい、読んでみい」


英語の教師が、そのクラスの教室の最後列中央の席で、背中に棒でも入れたかのように背筋を伸ばして座る生徒を、指差しながら呼んだ。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室であった。


「今の段落、最初から読んでみい」


教師も生徒たちも開いている英語の教科書のページに書かれた文章を読むよう、ビエール少年を指名した。教室の前方には、その文章を読めず、頭を掻きながら佇む別の生徒がいた。


「はい」


落ち着いた声で返事をしたビエール少年が、穏やかに席を立ち、文章を読めなかった生徒は、入れ違うように、席に着いた。


「また、トンミーくんじゃ」


生徒に一人が、そう云い、他の生徒たちも頷いた。まだ、入学して1ヶ月も経っていなかったが、英語の教師は、生徒たちが読めずにいる文章があると、すぐにビエール少年をあて、読ませるようになっていたのだ。


🎵ペーラペラペラペーラペラ~」




英語の文章を読む声が、何かの音楽のように聞こえ、女子生徒たちの眼は半開きとなり、その音楽に合せ、頭は緩やかに円を描くように揺れた。


「That’s all.」


ビエール少年は、英語の教科書を自分の机の上に置き、教師に顔を向けると、静かにそう云った。


「おお、ようできた。トンミーには簡単過ぎるのお」


と、教師は、満足感に崩れた顔をビエール少年に向けたが、ビエール少年は、謙虚に俯くだけであった。




(続く)