2018年3月31日土曜日

【緊急特報】ついに、壁ドン!ビエール・トンミー氏。(前編)



「ビエール・トンミー氏が、ついに、やりました」

ビエール・トンミー氏付の特派員が(そんな特派員がいたのだ!)、エヴァンジェリスト氏の許に息を切らして駆けつけ、報告した。

「なんだ?公然猥褻でもしたのか?」
「『公然』は『公然』です」
「逮捕されたのか?アイツは変態だから、いつかこういう日が来るのではないかと思っていたがな」





「いえ、逮捕はされていません」
「なんだ、久しぶりに小菅に行けると思ったのに」
「そもそも公然猥褻をしたのではありません」
「ああ、『非公然』猥褻か」
「まあ、あの方は存在そのものが猥褻ですからね」
「外出する時もパジャマで、そのパジャマの下に『ソレ』を隠し持っているものな。『ソレ』は、公開せずとも、臭うからな」
「ええ、後を付けていると臭くてたまりません」
「しかし、女性たちは、その臭いがたまらんらしい」
「その意味では確かに、あの方は存在そのものが猥褻ですね。しかし、それは今に始まったことではありません」
「グダグダした報告はもういい。要するに、ビエールは何をしたのだ?」
「グダグダさせたのは、貴方だと思いますが……ええ、ビエール・トンミー氏が、ついに、やったのです。『壁ドン』を!」
「な、な、なんだと!」
「ええ、ビエール・トンミー氏が、ついに『壁ドン』をやったのです」

(続く)


2018年3月30日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その49]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、NHKの朝ドラ『わろてんか』の中で高橋一生が演じる伊能栞が、戦時中、国の検閲に屈した映画は作ろうとしなかったことに、『曲がったことが嫌いな男』としては大いに共感するようになることを、まだ知らなかった。

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1981年のその日、エヴァンジェリスト氏が、上池袋の下宿の隣室の隣室に住む50歳台と思しき『お父さん』に頼まれて、『お父さん』のベッドを『上福岡』にある『お父さん』の自宅まで運ぶべく、『お父さん』の運転する2トン・トラックの助手席に乗っていた。

「お兄さんは学生だろ?どこの大学?」
「ああ、OK牧場大学です。今、修士論文を書いています」
「へええ、OK牧場大学!名門だねえ。修士!頭いいんだねえ、顔だけでなく」
「でも、親友は、ライバルのハンカチ大学です。それも、変態です」

そんな他愛もない会話をしながら、トラックは関越道を順調に進んでいたが、

「あ!」

突然、『お父さん』が叫んだ。

「あ!」

同時に、エヴァンジェリスト氏も叫んだ。

「ドン!」

軽いが衝撃音が走った。一旦、前のめりになったエヴァンジェリスト氏の背中が振り戻されてシートの背にぶつかり、

「うっ!」

と、エヴァンジェリスト氏は軽く呻いた。

事態は把握できていた。目の前で『事件』は起きたからだ。

「あ、あ………」

『お父さん』は吐息を漏らした。

『オカマ』を掘ったのだ。

『お父さん』が運転し、エヴァンジェリスト氏が助手席に乗った2トン・トラックが、直ぐ前を走る乗用車にぶつかったのだ。

ぶつかった、というよりも、『触れた』と云った方が正しいくらいの衝突であった。が、その『事故』が起きた場所が、絶妙とも云える処であった。






『事故』が起きた川越街道のその場所は、交差点であり、その交差点には交番があったのだ。

警察の眼の前で『お父さん』は、『事故』を起こししまったのだ。





軽度とは思えるものであっても『事故』は『事故』であるし、なかったことにはできなかったであろうが、交番の真ん前では尚更、『事故』をなかったことにすることはできなかった。

衝撃音がしたからであろう、交番から警官が出てきていて、こちらを見ていた。

「お兄さん、悪いね。ちょっと待っててくれる」

そう云うと、『お父さん』はトラックを降り、乗用車のところまで行った。

乗用車からも人が降りてきていた。やはり、特段、怪我をしているようには見えなかった。怒っている様子でもない。

「それはそうだろう」

と、エヴァンジェリスト氏は思った。

エヴァンジェリスト氏は見ていたのだ。

乗用車が交差点に差し掛かったとき、信号が黄色に変った。乗用車はそのまま直進し、交差点を渡ってしまうと思えた。運転免許は持っていないが、エヴァンジェリスト氏は、

「普通は止まらず、そのまま行くであろう」

と思った。

「『お父さん』はスピードも制限速度内で走っていたはずだ。『お父さん』が『オカマ』を掘ってしまったのも仕方がない」

少しだが、乗用車を運転していた人に怒りを感じた。

「そうだ、『お父さん』は、『曲がったことが嫌い』なのだ。だから、『真っ直ぐに』進もうとしていたのに、乗用車が急に止ったのだ。この場合、『お父さん』は加害者ということになるだろうが、むしろ被害者と云ってもいいくらいだ」

と思ったが、エヴァンジェリスト氏は、自身が心の中で発したある言葉に囚われてしまった…….


(続く)



2018年3月29日木曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その48]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分と同じで『曲がったことが嫌い』な貴乃花光司が、弟子の貴公俊が付き人に暴力を振るってしまった事件で処分されるらしいと聞いたが、エヴァンジェリスト氏としては、同じく弟子が暴行事件を起こした(もっとひどい暴行事件を起こした)春日野親方が処分されたとか処分されると聞かないことは解せないと思うようになることを、まだ知らなかった。

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エヴァンジェリスト氏は、1981年、上池袋の下宿の隣室の隣室に住む50歳台と思しき『お父さん』に頼まれて、『お父さん』の運転する2トン・トラックの助手席に乗り、『お父さん』のベッドを『上福岡』にある『お父さん』の自宅まで運ぶアルバイトをしていた。

「何故、『上福岡』という名前なのだろう?『上福岡』があるのは、埼玉県であって福岡県ではないのに」

という地名の由来への疑問が湧き、エヴァンジェリスト氏の頭の中には、大きな渦が巻いた。その渦はどんどん大きくなり、中学生時代に夢中になって見ていた米国のテレビ・ドラマ『タイムトンネル』のようなものになってきていた。

『タイムトンネル』に主人公のダグとトニーが回転しながら吸い込まれていったように、エヴァンジェリスト氏は、『地名の不思議トンネル』にグルグルと吸い込まれて行っていたのだ。

しかし、

「修士!頭いいんだねえ、顔だけでなく」

『お父さん』の言葉が、エヴァンジェリスト氏を『地名の不思議トンネル』から『現世』に引き戻した。

「でも、親友は、ライバルのハンカチ大学です。それも、変態です」

そんな他愛もない会話をしながら、『お父さん』とエヴァンジェリスト氏とが乗ったトラックは川越街道を順調に進んでいたのであったが……

「あ!」

突然、『お父さん』が叫んだ。

「あ!」

同時に、エヴァンジェリスト氏も叫んだ。






「ドン!」

軽いが衝撃音が走った。一旦、前のめりになったエヴァンジェリスト氏の背中が振り戻されてシートの背にぶつかり、

「うっ!」

と、エヴァンジェリスト氏は軽く呻いた。

事態は把握できていた。目の前で『事件』は起きたからだ。

「あ、あ………」

『お父さん』は吐息を漏らした。

『オカマ』を掘ったのだ。







いや、誤解してはいけない。エヴァンジェリスト氏には、『その趣味』はない。『お父さん』にも『その趣味』はなかったであろう。

『お父さん』が運転し、エヴァンジェリスト氏が助手席に乗った2トン・トラックが、直ぐ前を走る乗用車にぶつかったのだ。

ぶつかった、というよりも、『触れた』と云った方が正しいくらいの衝突であった。

多分、人身事故にはなっていないし、乗用車もトラックもバンパーに凹みも生じていないくらいの『事故』であっただろう。

だが、その『事故』が起きた場所が、絶妙とも云える処であった。


(続く)



2018年3月28日水曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その47]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分と同じで『曲がったことが嫌い』な貴乃花光司が、弟子の貴公俊が付き人に暴力を振るってしまった事件の関係からか、日本相撲協会に関する内閣府への告発(弟子の貴ノ岩への暴行事件に関するものだ)を取り下げる検討をせざるを得なくなることを、まだ知らなかった。

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上池袋の下宿で起きた『泣き声事件』の前年(1981年)、エヴァンジェリスト氏は、下宿の隣室の隣室に住む50歳台と思しき『お父さん』に頼まれて、『お父さん』のベッドを『上福岡』にある『お父さん』の自宅まで運ぶアルバイトをすることになった。

エヴァンジェリスト氏は、ベッドを載せた2トン・トラックを運転する『お父さん』の隣の助手席に乗り、上池袋を出発した。

道すがら、『お父さん』は、自身の仕事のこと等を説明したが、エヴァンジェリスト氏は気になることがあった。

「何故、『上福岡』という名前なのだろう?『上福岡』があるのは、埼玉県であって福岡県ではないのに」

地名の由来への疑問であった。

「いや、『上福岡』だけではないぞ。『東松山』だってそうだ。『東松山』があるのは、埼玉県であって愛媛県ではないのに」

エヴァンジェリスト氏の頭の中には、渦が巻き始めていた。

「そう云えば、『東長崎』も妙だ。『東長崎』は、東京都にある駅であり、長崎県にある訳ではない」

エヴァンジェリスト氏の頭の中の渦が大きくなってきた。エヴァンジェリスト氏は、イライラしてきた。

『東久留米』だってそうだ。『東久留米』があるのは、東京都であって福岡県ではない」

エヴァンジェリスト氏の頭の中の渦は、氏の生れた音戸の瀬戸の渦よりも大きくなった。イライラ感がつのった。

エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』』なのだ。渦のように曲がり曲がり曲がっているものは許せないのだ。

しかし、北海道には、『北広島』がある。『北広島』は、広島からの移住した人たちが開拓したことに由来することを聞いたことを思い出した。

「そうか!『東長崎』は長崎からの移住者が多く、『上福岡』は福岡からの移住者が多く、『東松山』は愛媛県松山市からの移住者が多かったのだろう。『東久留米』は福岡県久留米市からの移住者が多かった、ということかあ」

そう思い、頭の中の渦をおさめようとした。イライラ感が減ってきた。

『東長崎』は、『長崎』より東にあるから『東長崎』『東松山』は松山市より東にあるから『東松山』『東久留米』は久留米市より東にあるから『東久留米』、っていう仕掛けか」

頭の中の渦がすっかり消えうせようとした。が…….

「いや、では、『上福岡』はどうなっているのだ?」

頭の中の渦は、鳴門の渦のように大きくなった。






『上福岡』は多分、福岡市よりも緯度は高い。とは云っても、さほどの差があるわけではないだろう」

エヴァンジェリスト氏の頭の中の渦は、渦というよりも、『タイムトンネル』のようなものになってきていた。

中学生時代に夢中になって見ていた米国のテレビ・ドラマ『タイムトンネル』だ。

『タイムトンネル』に主人公のダグとトニーが回転しながら吸い込まれていったように、エヴァンジェリスト氏は、『地名の不思議トンネル』にグルグルと吸い込まれて行っていたのだ。

今と違い、ネットがなく、情報を容易に入手できる時代ではなかったので、『東長崎』も、『東松山』、『上福岡』、『東久留米』も、それぞれ長崎、松山、福岡、久留米とは元々、関係なく、関東に長崎、松山、福岡、久留米としてあった地名に由来していることをエヴァンジェリスト氏はその時、知らなかった。





「修士!頭いいんだねえ、顔だけでなく」

『お父さん』の言葉が、エヴァンジェリスト氏を『地名の不思議トンネル』から『現世』に引き戻した。

「でも、親友は、ライバルのハンカチ大学です。それも、変態です」

エヴァンジェリスト氏は、暑くもないのに汗が出てきていた額を左手の甲で拭った。

そんな他愛もない会話をしながら、『お父さん』とエヴァンジェリスト氏とが乗ったトラックは川越街道を順調に進んでいた。

しかし、

「あ!」

突然、『お父さん』が叫んだ。

「あ!」

同時に、エヴァンジェリスト氏も叫んだ。



(続く)



2018年3月27日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その46]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分と同じで『曲がったことが嫌い』な貴乃花光司が、弟子の貴ノ岩への暴行事件で日本相撲協会と対立していたのに、別の弟子(貴公俊)が付き人に暴力を振るってしまい立場をなくすことになることを、まだ知らなかった。

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1981年、エヴァンジェリスト氏は、上池袋の下宿の隣室の隣室に住む50歳台と思しき『お父さん』に頼まれて、アルバイトをすることとなった。

『お父さん』は、埼玉県の上福岡に家を持っているが、仕事の関係で、上池袋のエヴァンジェリスト氏と同じ下宿に部屋を借りていた。

「ここでベッドを買ったんだけど、狭いんでね、ウチに運びたいんですよ」

トラックを借りて、その上福岡の家までベッドを運ぶつもりであるが、一人では無理なので、エヴァンジェリスト氏に手伝って欲しい、というのであった。勿論、バイト代は出す、というのである。

「アナタさ、とっても『真っ直ぐ』そうな人だからね。だから、アナタに手伝ってもらいたいんだよ」

こうして、エヴァンジェリスト氏は、ベッドを載せた2トン・トラックを運転する『お父さん』の隣の助手席に乗り、上池袋を出発した。

道すがら、『お父さん』は、自身の仕事のこと等を説明したが、エヴァンジェリスト氏は気になることがあった。

「何故、『上福岡』という名前なのだろう?『上福岡』があるのは、埼玉県であって福岡県ではないのに」

地名の由来への疑問であった。

「何故、『上福岡』という名前なのだろう?『上福岡』があるのは、埼玉県であって福岡県ではないのに」

エヴァンジェリスト氏の頭の中には、渦が巻き始めていた。

「お兄さんは学生だろ?どこの大学?」

2トン・トラックを運転する『お父さん』が訊いてきた。

「ああ、OK牧場大学です。今、修士論文を書いています」

我に返ったエヴァンジェリスト氏が答えた。

「へええ、OK牧場大学!名門だねえ」

しかし、エヴァンジェリスト氏はまた直ぐに、に飲み込まれていった。






「そう云えば、『東長崎』も妙だ。『東長崎』は、東京都にある駅であり、長崎県にある訳ではない」

エヴァンジェリスト氏の頭の中の渦が大きくなってきた。エヴァンジェリスト氏は、イライラしてきた。

『東長崎』は行ったことがなかった。『上福岡』、『東松山』も行ったことはない。

しかし、広島から上京して関東に『東長崎』、『上福岡』、『東松山』があると知り、大いに違和感を覚えたが、今、その中の『上福岡』に初めて足を踏み入れることとなり、違和感、疑問が大きくなったのだ。

『東久留米』だってそうだ。『東久留米』があるのは、東京都であって福岡県ではない」

エヴァンジェリスト氏の頭の中の渦は、氏の生れた音戸の瀬戸の渦よりも大きくなった。イライラ感がつのった。





エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』なのだ。渦のように曲がり曲がり曲がっているものは許せないのだ。

北海道には、『北広島』がある。『北広島』は、広島からの移住した人たちが開拓したことに由来することを聞いたことがあった。

「そうか!『東長崎』は長崎からの移住者が多く、『上福岡』は福岡からの移住者が多く、『東松山』は愛媛県松山市からの移住者が多かったのだろう。『東久留米』は福岡県久留米市からの移住者が多かった、ということかあ」

そう思い、頭の中の渦をおさめようとした。イライラ感が減ってきた。

『東長崎』は、『長崎』より東にあるから『東長崎』『東松山』は松山市より東にあるから『東松山』『東久留米』は久留米市より東にあるから『東久留米』、っていう仕掛けか」

頭の中の渦がすっかり消えうせようとした。が…….

「いや、では、『上福岡』はどうなっているのだ?」

エヴァンジェリスト氏は、自分自身を誤魔化すことはできなかった。そんな『曲がったこと』は大っ嫌いだ。

頭の中の渦は、鳴門の渦のように大きくなった。


(続く)




2018年3月26日月曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その45]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分と同じで『曲がったことが嫌い』な貴乃花光司が、弟子の貴ノ岩が横綱日馬富士に暴行を受けた事件で、日本相撲協会と対立するようになることを、まだ知らなかった。

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エヴァンジェリスト氏が住む上池袋の『3.75畳』の下宿で起きた『泣き声』事件の翌年(1981年)のことである。

ある日、エヴァンジェリスト氏の住む『3.75畳』の入口の扉が、突然、ノックされ、誰だろうかと思いながら、エヴァンジェリスト氏は、炬燵から立ち上がり、入口まで行き、扉を開けた。

「ああ、すみませんね、突然」

隣室の隣室に住む50歳台と思しき『お父さん』であった。

「ちょっと、アナタにね、お願いがあるんですよ。アルバイトしてくれませんか?いやね、ベッドを運びたいんですよ」
「は?」
「ここでベッドを買ったんだけど、狭いんでね、ウチに運びたいんですよ」

『お父さん』は、埼玉県の上福岡に家を持っているが、仕事の関係で、上池袋のエヴァンジェリスト氏と同じ下宿に部屋を借りている、説明された。

トラックを借りて、その上福岡の家までベッドを運ぶつもりであるが、一人では無理なので、エヴァンジェリスト氏に手伝って欲しい、というのであった。勿論、バイト代は出す、というのである。

「アナタさ、とっても『真っ直ぐ』そうな人だからね。だから、アナタに手伝ってもらいたいんだよ」

エヴァンジェリスト氏は、『お父さん』の申し出を引き受けた。

バイド代が欲しかった訳ではない。『曲がったことが嫌いな男』としては、困っている『お父さん』を拒否することはできなかったのだ。

こうして、エヴァンジェリスト氏は、『お父さん』を手伝って、『お父さん』のベッドを上池袋から上福岡まで運ぶ手伝いをした。

エヴァンジェリスト氏は、ベッドを載せた2トン・トラック助手席に乗り、トラックは上池袋を出発した。

道すがら、『お父さん』は、自身のことを説明した。

日中は、ある会社でサラリーマンをしているのだが、『危険物取扱者』の資格をとって、夜も、その資格を活かしたバイトで働く日があるのだが、会社もバイト先も都心にある。だから、都心から遠い上福岡の自宅には、帰れない日があるので、上池袋に部屋を借りたのだそうだ。

『お父さん』のそんな説明を聞いていない訳ではなかったが、エヴァンジェリスト氏のは気になることがあり、ぼんやりと前方を見ていた。



(参照:【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その44]



「何故、『上福岡』なのだろう?」

エヴァンジェリスト氏は、心の中で呟いた。『お父さん』は何故、『上福岡』に家を買った(或いは、建てた)のだろうか…….と思ったのではない。

「何故、『上福岡』とい名前なのだろう?『上福岡』があるのは、埼玉県であって福岡県ではないのに」

地名の由来への疑問であった。

「いや、『上福岡』だけではないぞ。『東松山』だってそうだ。『東松山』があるのは、埼玉県であって愛媛県ではないのに」

エヴァンジェリスト氏の頭の中には、が巻き始めていた。





「お兄さんは学生だろ?どこの大学?」

2トン・トラックを運転する『お父さん』が訊いてきた。

「ああ、OK牧場大学です。今、修士論文を書いています」

我に返ったエヴァンジェリスト氏が答えた。

「へええ、OK牧場大学!名門だねえ」

しかし、エヴァンジェリスト氏はまた直ぐに、に飲み込まれていった。


(続く)


2018年3月25日日曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その44]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分と同じで『曲がったことが嫌い』なプロレスラーというか格闘家というか前田日明は、師匠である猪木さん批判さえ辞さないものの、それでも師匠の猪木さんのことを好きなのだ、と思うようになることを、まだ知らなかった。

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1980年、上池袋の『3.75畳』の下宿で、炬燵で修士論文『François MAURIAC論』を書いていたエヴァンジェリスト氏に、泣き声が聞こえて来た。

泣き声がして来ているのは、妙なことに、半間の押入れからであった。

エヴァンジェリスト氏は、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れた。

「あ……んん……」

微かだが、泣き声が聞こえるものの、押入れの中には勿論、誰もいないので、隣室から聞こえて来ているのか、と思った。

しかし、隣室の住人は、エヴァンジェリスト氏より少し年上の30歳前後と見える『お兄さん』で、極めて普通のサラリーマンであり、ステレオを大音響でかけたり、友人が来て騒いだりすることもない常識人であった。

その『お兄さん』は実は、トイレのドアの外に立って、そこから小水を飛ばし、トイレを水(おしっこ)浸しにするという妙な性癖の持ち主であったが、その時、エヴァンジェリスト氏はまだ『お兄さん』のその性癖を知らなかったし、いずれにしても、部屋で一人泣くような人とは思えなかった。

それに、泣き声は、押入れの隣室との壁から聞こえて来てはいなく、押入れの天井からであった。

隣室ではなく、泣き声は、どこか他の部屋から天井を通して聞こえて来ているようなのであった。

隣室の隣室に住むのは、50歳台と思しき『お父さん』であった。

この『お父さん』は、エヴァンジェリスト氏のことを、挨拶ぶりから、それ以上に、エヴァンジェリスト氏の存在そのものが醸し出す『真っ直ぐな』好青年ぶりから、この『お父さん』に気に入られるのであるが、その時はまだ、そのことをエヴァンジェリスト氏は知らなかった。

エヴァンジェリスト氏は、お父さん』に気に入られ、『手伝い』を頼まれるようになるのだ。『泣き声』事件の翌年(1981年)のことである。

ある日、エヴァンジェリスト氏の住む『3.75畳』の入口の扉が、突然、ノックされた。

誰だろうかと思いながら、エヴァンジェリスト氏は、炬燵から立ち上がり、入口まで行き、扉を開けた。

「ああ、すみませんね、突然」

隣室の隣室の『お父さん』であった。

「ちょっと、アナタにね、お願いがあるんですよ。アルバイトしてくれませんか?いやね、ベッドを運びたいんですよ」

そう、『お父さん』は、エヴァンジェリスト氏にアルバイトの依頼に来たのだ。そして、そのアルバイトをエヴァンジェリスト氏は引き受けることになるのだが、まさか『事件』に巻き込まれることになろうとは思わなかった。

『事件』は、川越街道で起きた……






「いやね、ベッドを運びたいんですよ」
「は?」
「ここでベッドを買ったんだけど、狭いんでね、ウチに運びたいんですよ」

隣室の隣室の『お父さん』は、埼玉県の上福岡に家を持っているのであった。しかし、仕事の関係で、上池袋のエヴァンジェリスト氏と同じ下宿に部屋を借りている、と説明された。

トラックを借りて、その上福岡の家までベッドを運ぶつもりであるが、一人では無理なので、エヴァンジェリスト氏に手伝って欲しい、というのであった。勿論、バイト代は出す、というのである。

「アナタさ、とっても『真っ直ぐ』そうな人だからね。だから、アナタに手伝ってもらいたいんだよ」

エヴァンジェリスト氏は、『お父さん』の申し出を引き受けた。

バイド代が欲しかった訳ではない。『曲がったことが嫌いな男』としては、困っている『お父さん』を拒否することはできなかったのだ。

こうして、エヴァンジェリスト氏は、『お父さん』を手伝って、『お父さん』のベッドを上池袋から上福岡まで運ぶ手伝いをした。





上池袋の下宿から『お父さん』と一緒にベッドを運び出し、『お父さん』が借りた2トン・トラックに載せた。

そして、エヴァンジェリスト氏は、助手席に乗り、トラックは上池袋を出発した。

道すがら、『お父さん』は、自身のことを説明した。

日中は、ある会社でサラリーマンをしているのだが、夜はバイトをしているのだそうだ。『危険物取扱者』の資格をとって、夜も、その資格を活かしたバイトで働く日があるのだそうだ。

会社もバイト先も都心にある。だから、都心から遠い上福岡の自宅には、帰れない日があるので、上池袋に部屋を借りたのだそうだ。

『お父さん』のそんな説明を聞いていない訳ではなかったが、エヴァンジェリスト氏のは気になることがあり、ぼんやりと前方を見ていた。



(続く)