2018年3月6日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その25]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分は『曲がったことが嫌いな男』なので、広島を出て東京に出てもずっとカープ・ファンなのだ、と思った。

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1979年、ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏の上井草の下宿に行く前に、フォルクスワーゲンの『ビートル』で、環状7号線を走っていた時、白バイに『捕まった』。

そう、免許を取って初めて運転したその日にビエール・トンミー氏は、スピード違反で警察に『捕まった』のだ。

「判っているね、スピード違反。免許証を出して」

と白バイ警官に云われ、ビエール・トンミー氏は、ダッシュ・ボックスから取り立てでピッカピカの免許証を取り出し、白バイ警官に渡した。

免許証を受け取るのに、白バイ警官がビエール・トンミー氏の方に身を乗り出し、白いヘルメットの前方に付けられたエンブレムのようなもの(警察章)が、ビエール・トンミー氏にグッと迫ってきた。

「け、け、警察だ…….」

ビエール・トンミー氏は、自分が警察に『捕まった』ことをあらためて強く認識し、鼓動が収まらなくなった。

ビエール・トンミー氏の目は、白バイ警官の方に向いていたが、その目には、もう警官は映っていなかった。

…..だから、ビエール・トンミー氏は、気付かなかった。

免許証を受け取り、その内容を確認した白バイ警官の頬が微かに歪んだことに。






ビエール・トンミー氏の視線は、虚空を彷徨い、自らが手錠を掛けられ、連行する姿を追っていた。

「ボ,ボ,ボクは、逮捕される……」





その時、思いもかけないものを耳にした。

「ふふ」

微かだが、笑い声であった。

「は….?」
「今日なんだね?」

白バイ警官が微笑を浮かべながら訊いてきていた。

「今日、免許を取ったんだね」

そうだ。その日、ビエール・トンミー氏は、免許を得たのであった。

その日は、初めて運転した日であるだけではなく、そもそも免許を取得した日でもあったのだ。

「にしては、いいクルマに乗っているじゃない」
「はあ……」

免許を取ったその日に初めて運転し、即、スピード違反で『捕まった』のだ。『スピード違反』といっていいスピードで『スピード違反』をしてしまったのだ。


(続く)



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