2018年3月17日土曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その36]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分と同じで『曲がったことが嫌い』な猪木さんが『曲がったこと』はしない『真っ向勝負』な戦いをする団体として作った新日本プロレスが、その後、ユークス、そして、ブシロード へと経営が移り、猪木さんが志向したものとは違うプロレスをするようになることをまだ知らなった。

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「手付金を置いて行った人から明日までに連絡が来なかったら、もういいさ、貴方に決めるよ。いいかい?」

1980年のその日、エヴァンジェリスト氏が、新たな下宿候補として下見に来た新小岩の物件の大家のおばさんは、そう云った。

鼻が『曲がる』便所臭がするものの、家賃が安く(月8,000円であった!)、そして、華やかなキャバレー街がある新小岩は、『心友』(ビエール・トンミー氏)が気に入るであろうと思ったので、借りることにした物件であった。

しかし、エヴァンジェリスト氏の前に、その物件を見に来た人がいた。

「でもさ、その人はさ、それから全然連絡が来ないんだよ。直ぐに正式契約するって云ってたのにさ」

大家のおばさんは困っていたのだ。

「だから、困ってんのさ。その手付金を置いて行った人から明日までに連絡が来なかったら、もういいさ、貴方に決めるよ。いいかい?」
「あ、はい……」

多分、手付金を置いて行った人は、明日もおばさんに連絡して来ないだろう、そんな気がした。

そうして、その日、エヴァンジェリスト氏は再び、キャバレー街を通って、新小岩駅まで戻って行きながら、ああ自分は、この街に住むことになるんだ、と思った。

そして、翌日……..






翌日、上井草の下宿のエヴァンジェリスト氏に電話があった。新小岩の物件のおばさんからであった。

「ごめんね。今日、来たのさ、手付金を置いて行った人がね。ごめんね。アタシは、貴方に借りて欲しかったんだけどさ。ジェラール・フィリップに」




エヴァンジェリスト氏は再び、落胆するビエール・トンミー氏の姿を想像した。

嬌声をあげるホステスのオネエさんたちに囲まれて満面の笑みを浮かべていた友人が、オネエさんたちの輪からスーッと消えていった。前日とは違い、今度は完全に消えていった。

「アイツに新小岩の物件のことを話す前でよかった」

そう思った。友人をガッカリさせたくはなかったのだ。そして、鼻が『曲がりそうな』便所臭に悩まされることはなくなったと思い、自身も少しホッとした。

しかし、新しい下宿探しは振り出しに戻った。

エヴァンジェリスト氏はもう一度、新宿の学生専門の不動産会社に行った。

そうして、次に紹介を受けたのが、上池袋交差点近くの物件であった。



(続く)




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