2018年3月16日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その35]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分と同じで『曲がったことが嫌い』な猪木さんが作った新日本プロレスの旗揚げ戦のメイン・イベントは、猪木さんと猪木さんの師匠であるカール・ゴッチとの戦いであったが、『曲がったこと』はしない『真っ向勝負』な戦いであった、と思った。

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エヴァンジェリスト氏が、1980年のその日、新たな下宿候補として下見に来た新小岩の物件は、鼻が『曲がる』便所臭がするものの、家賃が安く(月8,000円であった!)、そして、新小岩は、『心友』(ビエール・トンミー氏)が気に入るであろうと思った。

華やかなキャバレー街があったのだ。

「ここなら、ビエールも、休暇を取り、岡山から新幹線に乗ってでも来てくれるだろう」

しかし、

「だけどねえ。一つ、問題があんのさ」

と、大家のおばさんが云い出した。

「貴方はさ、アタシの好きなジェラール・フィリップに似てるし、アタシは、貴方に入ってもらいたいのさ。だけど、貴方の前にさ、あの部屋を見に来た人がいるんだよ。1週間前に来てさ、手付金を置いて行ったんだよ」
「は?」

だったら、自分はあの部屋を借りることはできないではないか。






手付金を出した先人がいるなら、自分は何をしに新小岩まできたのだ、とエヴァンジェリスト氏は呆然としていた。

「でもさ、その人はさ、それから全然連絡が来ないんだよ。直ぐに正式契約するって云ってたのにさ」

エヴァンジェリスト氏は、落胆するビエール・トンミー氏の姿を想像した。嬌声をあげるホステスのオネエさんたちに囲まれて満面の笑みを浮かべていた友人が、オネエさんたちの輪からスーッと消えていった。

しかし、エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』だ。ルールは守る。連絡して来ないとはいえ、手付金を払った人がいるのに、自分と契約してくれ、とは云えない。

「だから、困ってんのさ。その手付金を置いて行った人から明日までに連絡が来なかったら、もういいさ、貴方に決めるよ。いいかい?」
「あ、はい……」

ビエール・トンミー氏が、またオネエさんたちの輪の中に戻って来た。そして、オネエさんたちの肩に手を伸ばしていた。そして、膝にも……..





多分、手付金を置いて行った人は、明日もおばさんに連絡して来ないだろう、そんな気がした。

そうして、その日、エヴァンジェリスト氏は再び、キャバレー街を通って、新小岩駅まで戻って行きながら、ああ自分は、この街に住むことになるんだ、と思った。

住宅街にあったそれまでの下宿(都立大学、上井草)とはかなり違った雰囲気の街での生活はどうなるのだろう、と思いながら、昼のキャバレー街を歩いて行ったのであった。

そして、翌日……..


(続く)



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