「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、『森英恵』先生の会社に入社したものの、半年で辞めてしまい、転職したのは、そこでマーケティングなるものを知り、マーケティングの道を『真っ直ぐに』進もうと考えたからだった、と思った。
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ビエール・トンミー氏が、1979年、エヴァンジェリスト氏の上井草の下宿に行く前に環状7号線を走っていた時、突然後ろからサイレンの轟音が鳴った………
ビエール・トンミー氏は、バックミラーに、赤いランプを両脇に点滅させた白いオートバイを見た。そう、白バイであった。
白バイは、あっという間にビエール・トンミー氏の『ビートル』に追い付き、左側を並走すると、手で止まるよう指示を出した。
「しまった。スピード違反か……」
そう、免許を取って運転したその日に、ビエール・トンミー氏は、スピード違反で警察に『捕まった』のだ。
「どうするのだ…….ああ、どうなるのだ…….?」
白バイ警官は、白バイを『ビートル』の左側に付けた。『ビートル』は左ハンドルのクルマなので左側座席に座っていたビエール・トンミー氏が、左手で窓を開けると、
「判っているね、スピード違反。免許証を出して」
と声を掛けて来た。
「あ…..はい……」
項垂れたビエール・トンミー氏は、ダッシュ・ボックスから取り立てでピッカピカの免許証を取り出し、白バイ警官に渡した。
免許証を受け取るのに、白バイ警官がビエール・トンミー氏の方に身を乗り出した。
その時、警官の白いヘルメットの前方に付けられたエンブレムのようなもの(警察章)が、ビエール・トンミー氏にグッと迫ってきた。
「け、け、警察だ…….」
ビエール・トンミー氏は、自分が警察に『捕まった』ことをあらためて強く認識した。
踏み越えてはいけない一線を踏み越えてしまった、という取り返しのつかなさ感に、鼓動が収まらなくなった。
口を開けていた。しかし、そのことの認識はビエール・トンミー氏にはなかった。
ビエール・トンミー氏の目は、白バイ警官の方に向いていたが、その目には、もう警官は映っていなかった。
…..だから、ビエール・トンミー氏は、気付かなかった。
免許証を受け取り、その内容を確認した白バイ警官の頬が微かに歪んだことに。
(続く)
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