2018年3月13日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その32]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、1976年に行われた『猪木 vs アリ』戦が、『猪木は寝てばかりいた』と酷評されても、「自分と同じで『曲がったことが嫌い』な猪木さんは、堂々と戦ったのだ。ただ、アリにがんじがらめのルールを押し付けられたから寝てキックをするしかなかったのだ」と強く主張したことを思い出した。

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新小岩駅南口を出て、白いシャツに黒の蝶ネクタイをしたお兄さんたちが
、店の前を掃き、水を撒く昼間のキャバレー街を抜け、1980年のその日、エヴァンジェリスト氏は、新たな下宿候補の物件に着いた。

大家さん(60歳台と思しきおばさん)に案内されたのは、北東の6畳の部屋で、東側に窓があったが、住宅密集地なので、窓からは大して光は入らず、少々電車の音が聞こえてくるようであった。

「ああ、総武線が近いからねえ。でも、そんなに気にならなくなるわよ」

暗い部屋の中で陽気なおばさんが、悪びれず、そう云ったが、エヴァンジェリスト氏が気になったのは、部屋の暗さでもなく、電車の音でもなかった。

臭いである。部屋の外にある共同トイレからであろうか、便所臭がしたのである。

「ここだと、アイツは来なくなるな」

エヴァンジェリスト氏は、上井草の下宿で、ビエール・トンミー氏が云い放った言葉を思い出していた。

「ココの『便所』は、『鼻が曲がる』じゃあないか!君はよくあんな『鼻がひん曲がる』便所を使っているな。『曲がったことが嫌いな男』が笑わせるぜ」






「いや……」

エヴァンジェリスト氏は思い直した。

「確かに、アイツは上井草の『汲み取り式便所』に辟易としていたが、ビエールは、助平なのだ」

その物件に来るまでに目にしたキャバレー街を思い出した。

「アイツはむしろ好んで新小岩に来るのではないか。『引っ越しも任せろ』とさえ云うのはないか」

引っ越しは、ビエール・トンミー氏が既に就職し、岡山勤務となっていることもあり、同じ大学(OK牧場大学)の友人であるショーゲン氏に頼むことにしていた(2トン・トラックを借り、運転と引っ越し荷物の運搬をお願いすることになっていた)。

しかし、ネオン煌めき、白粉の匂いに包まれた新小岩に魅かれ、休暇を取ってでも岡山から東京まで、引越しの手伝いにくるのではないかと思ったのである。

エヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏なら、云うであろうと思った。

「ボクは、『曲がったことが嫌いな男』だ。だから、この下宿は、便所臭に鼻は『ひん曲がり』そうで困ったものだが、まあいいだろう。キャバレー街で、アソコが『直立不動』になるだろうから」

と。

2階の部屋を見たエヴァンジェリスト氏は、1階の大家さんの居間に通された。

まだ冬であり、炬燵でお茶を頂いた。





「貴方、どうする?」

大家のおばさんが訊いてきた。


(続く)



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