「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、女性に対しても『一途(真っ直ぐな)』自分は、好きな女性がファッション業界に入ったので、自分もファッション業界に入ったことを思い出した。
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「君は、犯罪者になったんだ」
友人の冷静な言葉に、ビエール・トンミー氏は、その場に立ちすくんだ。
1979年、友人であるエヴァンジェリスト氏の上井草の下宿の『汲み取り式便所』の臭気に耐え切れず、帰宅することとし、外に出たところ、その下宿前に止めていたフォルクスワーゲンの『ビートル』のバックミラーに駐車違反ロックが付けられていたのである。
「アイツのせいだ。あの『汲み取り式便所』のせいだ」
と、友人を恨むビエール・トンミー氏の背後から、
「はあああ?なーんだい、それ?」
という声がした。エヴァンジェリスト氏であった。
「これ駐車違反の奴かあ。初めて見た。へええ、こんなんだあ」
と、エヴァンジェリスト氏は呑気に、駐車違反ロックを手に取り、ペタペタさせた。
「それで遊ぶな!」
「ああ、そうだな。これは失敬。これは犯罪の印だものな」
「え!?...犯罪….」
「ああ、君は、犯罪者になったんだ」
友人の冷静な言葉に、ビエール・トンミー氏は、その場に立ちすくんだのであった。
「君は、これで前科者になったんだなあ」
「ぜ、ぜ、前科者!?」
友人の更なる衝撃的な言葉に、ビエール・トンミー氏は、体が震え出した。
「まあ、いいさ。君が前科者であっても、ボクは君の友人を辞めないさ」
「ほ、ほ、ほ、ほ、本当か?」
「ボクは、『曲がったことが嫌いな男』だ。しかし、いや、『曲がったことが嫌いな男』だからこそ、一旦、友人となった男を簡単に見棄てることはしない」
「うっ……….」
ビエール・トンミー氏は、嗚咽しそうになった。
しかし、動揺したビエール・トンミー氏は、気付かなかった。エヴァンジェリスト氏には、友人はビエール・トンミー氏しかいなかったのだ。
ビエール・トンミー氏の友人を辞めたら、エヴァンジェリスト氏に付き合ってくれる者なぞいなかったのだ。エヴァンジェリスト氏の好きな女性の居宅を突き止めてくれる者は他にいなかったのだ(ビエール・トンミー氏は、中目黒に住んでいることまでは判っていたエヴァンジェリスト氏の恋い焦がれる女性の住まいを、探偵さながらに突き止めたことがあった)。
「小菅にだって面会に行くさ」
「小菅?」
優しさを見せながら、エヴァンジェリスト氏は、追い込まれた友人をさらに追い込むような言葉を発した。
(続く)
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