「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、女性に対しても『一途(真っ直ぐな)』自分は、好きな女性と同じファッション業界に入ったが、入社した会社の代表(『森英恵』先生)との面談の際に、『貴方、フランスに行きたいでしょ(フランス勤務になりたいでしょ、の意)』と云われたものの、その会社に入社したのは、ただただ好きな女性と同じ業界に入りたかっただけなので、『いいえ』と可愛げのない回答をした程、自分は『真っ直ぐ』であったと思った。
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1979年、友人であるエヴァンジェリスト氏の上井草の下宿に来たビエール・トンミー氏は、乗って来たフォルクスワーゲンの『ビートル』が駐車違反になってしまった。
そして、駐車違反ロックを見たエヴァンジェリスト氏が重ねて来る言葉に、どんどん追い込まれていった。
「ああ、君は、犯罪者になったんだ」
「君は、これで前科者になったんだなあ」
「小菅の拘置所にだって面会に行くさ」
たかが駐車違反で拘置所に入れられることがないくらい、まさにフランス語ができないのにフランス語経済学で『優』をとった程の頭脳を持つビエール・トンミー氏なら分からないはずはなかったが、その時はそのことにも気付かない程、動揺していた。
「差し入れは、ビニ本がいいか?」
当時、流行っていた『ビニ本』なるエロい雑誌が差し入れで認められる訳がなかろうことは、エヴァンジェリスト氏には判っていたが、動揺する友人を揶揄った。
しかし、この時、エヴァンジェリスト氏は、それから16年後、本当に小菅の拘置所に面会に行くことになることを知らなかった(勿論、面会相手は、ビエール・トンミー氏ではなかったが)。
そしてまた、エヴァンジェリスト氏は、この時、もう一つ、友人について知らないことがあったのである。
駐車違反は、実は、ビエール・トンミー氏にとって『初犯』ではなかったのだ。
駐車違反の前に、もう一つ、別の『犯罪』を犯していたのである。だから、ビエール・トンミー氏は動揺したのだ。
その日、つまり、エヴァンジェリスト氏の下宿まで乗って来たフォルクスワーゲンの『ビートル』が駐車違反になってしまった日、ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏の下宿に向かう途中で、警察に『捕まった』のである。
ビエール・トンミー氏がエヴァンジェリスト氏の上井草の下宿まで乗って来た『ビートル』は買ったばかりで、その日が初めての運転であったが、それはまた、ビエール・トンミー氏にとって、免許を取って初めての運転でもあった。
駐車違反を犯す何時間か前、即ち、上井草に行く前に環状7号線を走っていた時(環状7号線を走るのも、勿論、初めてであった)、突然後ろからサイレンの轟音が鳴った………
(続く)
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