「あら、どーしたの。アータ?」
マダム・トンミーが、夫の声に反応した。ビエール・トンミー氏は、
「え!?なんで?」
と、思わず声を出していたのだ。
「い、いや…..」
『アナタのことぅを』
という歌声と共に、奥村チヨが、こちらを指差した….はずであったが、こちらを差す指の向こうにいたのは、奥村チヨではなかったのだ。
「(松坂慶子!)」
こちらを指差していたのは、松坂慶子であった。いや、そんなはずはないのだ。奥村チヨが『恋泥棒』を出した頃(1969年頃)、松坂慶子はまだ主演(映画『夜の診察室』)デビューはしていなかったはずだからだ。
「『え!?なんで?』って、云わなかった?」
「あ?ああ…..」
その時、初めて自分が股間を抑えていることに気付き、より動揺しながらも、ビエール・トンミー氏は、答えた。
「いや、なんで『味の素』で味噌汁が美味しくなるのかあ、って」
「なーによ、それをこれから体験するんじゃないの」
なんとか誤魔化せた、と思った時であった。
「(ん?)」
(続く)
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