「『ユキ』ちゃんのパパって、きっと素敵なんでしょうねえ」
『松坂慶子』に酷似した女性が、口を挟んできた。
「うん!とってもカッコいいよ!」
『ユキ』と呼ばれた少女が、弾むように答えた。
「アラン・ドロンみたいなのかしら?」
「ん?アラン・ドロンって、知んないけど、よく『大谷亮平』みたいって、云われるわ」
「え?オータニ….ショウヘイ?」
「違うよ、リョウヘイだよ。二枚目俳優だよ。海外で売れて、最近、日本でもテレビに出るようになった人だよ」
初老の婦人と少女の会話を聞きながら、ビエール・トンミー氏は、苛立っていた。
「(なんだ、なんだ!オータニ・リョウヘイなんか、知らないし、アラン・ドロンでも、『オータニさん』でもいいが…….チクショー!)」
悔しかったのだ。ビエール・トンミー氏の眼には、もう『味の素うま味体験館』2階の調理室は見えていなかった。
「(んぐっ!んぐっ!)」
知らない奴だが、『オータニ・リョウヘイ』なる男と『内田有紀』の二人のシルエットが重なり、共に倒れていく様子が見えていたのだ。
「(んぐっ!んぐっ!)」
悔しさと羨ましさとが入り混じった複雑な、ある種の高揚感をビエール・トンミー氏の股間が象徴していた。
「アータ、またどうしたの、喉を鳴らして?」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿