「え!?」
と、驚くビエール・トンミー氏に背中を向け、『ユキ』と呼ばれた少女は、今度は、母親に声を掛けた。
「今度は、ママよ」
「ええ!?」
少女の母親、『内田有紀』に酷似した女性は、動揺を隠せなかった。
「大丈夫よ、パパには内緒にするから」
「(え?何故なんだ、何故、『パパに内緒』にする必要があるんだ?)」
ビエール・トンミー氏は、歓びを感じながらも疑問を持った。
「ママも、オジサンのこと、気になってるのよ」
背中を向けているのに、『ユキ』と呼ばれた少女が、こちらに話しかけてきた(ように感じた)。
「(ええ!?『有紀』さんが?!…だけど、君のパパは、オータニ….ショウ…いや…)
「『大谷亮平』だよ、パパが似ているのは」
「(オータニ・リョウヘイって、二枚目俳優なんだろう)」
「オジサンは、『大谷亮平』よりずっとずっと格好いいよ。だから、ママもオジサンのこと、気になってるんだよ」
「(いやあ、そんなことは……)」
『大谷亮平』がどんな二枚目俳優かは知らなかったが、ビエール・トンミー氏は、照れた。照れたが、身の覚えがない訳ではなかった。
1966年、ビエール・トンミー氏は、宇部市にいた。
『琴芝小学校』の児童であったビエール・トンミー氏は、『琴芝のジェームズ・ボンド』と噂されていたのだ。
『琴芝のジェームズ・ボンド』の噂は、『琴芝小学校』、神原小学校、宇部学園女子中学・高校(今の慶進中学・高校)、宇部中央高校といった学校の枠を超え、更に、琴芝という地域の枠も超え、宇部市中に広まっていったのだ。
(続く)
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