「アータ、先ず、それ飲むのよ」
妻に促され、ビエール・トンミー氏は、片手で股間を抑えたまま、カップに入った味噌汁を飲んだ。
「うーむ….」
「みその味はするけど….って感じねえ」
妻の云う通りである。
「(うーむ、でも、いいぞ)」
股間が落ち着きを取り戻してきたのだ。味気ない味のお陰だ。
「あら、やっぱり違うわ!」
カップに入った味噌汁に味の素を入れて飲んだ妻が、感嘆の言葉を発した。
「おー、違うねえ。味の素って、こんなに凄かったんだ!」
味の素を少しふりかけただけで、うま味が全然、違う。
「(うま味って、うーむ、深いなあ。うま味がないと、味が若いんだ)」
「そうよ、そうなのよお」
スクリーンで、『5つの基本味』として、甘味、塩味、苦味、酸味、そして、『うま味』が紹介され、『うま味』は素材の味を引き立ててくれて、料理を美味しくしてくれる、と説明されていた時であった。
「(え?...ええ?)」
「やっぱり、若さだけではダメでしょおお」
「(ええ!......ええ!?)」
声がする方に顔を向けた。
「(お、おー!)」
松坂慶子、いやいや、松坂慶子に酷似した女性であった。
「あらま、『ユキ』ちゃん、美味しくなったわねえ」
と、隣に座る少女に向かってそう云った松坂慶子に酷似した女性は、ほんの一瞬だが、こちらを見た。その瞬間に、
「人間は、年齢を重ねた方が『うま味』が出るのよおねえ」
また、視線でそう語りかけてきたのだ。そうして…..
「(んぐっ!)」
そう、カップに残った味の素入りの味噌汁を飲み干した松坂慶子に酷似した女性は、唇の間から舌を出して、少しく唇を舐めたのだ。
「(んぐっ!....んぐっ!んぐっ!)」
ビエール・トンミー氏は、慌てて、再び、両手で股間を強く抑えた。
(続く)
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