2019年3月31日日曜日

住込み浪人[その42]







「(ボクの志望は、あくまでハンカチ大学なんだ)」

OK牧場大学の学生食堂で、最後のひと匙分のカレー・ライスを食べ、スプーンを舐めた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、虚空を凝視めた。

「(だから……)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『レッド・ブラッド・アーチ(Red Blood Arch)』を思い出していた。

「(あの『アーチ』をくぐるようになろうと思えばできたんだ)」

その云い方は、『「カンリツ」だから合格しないようにしたさ』と強がった男子学生と同じようにも聞こえる。

「(あのまま、入学手続を済ませてしまえば…..)」

どうやら、『カメムシ』や『テイトー王』について話していた二人の男子学生とは事情が違っているようだ。

「(だけど、ボクの志望校は、ハンカチ大学だから….だから、辞退したんだ)」



そうなのだ。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、ただの『スミロー』ではなかったのだ。

「(ああ、ボクは、試しにと、『テイトー』を受験した。そうしたら、簡単に合格してしまったのだ)」

帝立大学東京に合格しながら、入学を辞退した、というか、あくまでハンカチ大学に入りたくて、帝立大学東京の入学手続をしなかった、というのだ。

「(両親と妹には、『何故?勿体無い!』と云われた)」

実家で両親に頭を下げる自分の姿を思い出した。

「(広島皆実高校の担任にも、『頼むから、テイトーに行ってくれ』と懇願された)」

広島皆実高校3年2H(ホーム)の教室で、自分に頭を下げる担任の頭髪を思い出していた。


(続く)



2019年3月30日土曜日

住込み浪人[その41]







「(要するにお前たちは……)」

OK牧場大学の学生食堂で、最後のひと匙分だけ残していたカレー・ライスをスプーンですくい、口に運びながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、帝立大学東京(テイトー)とOK牧場大学とを比較する二人の男子学生に、云い放った。心の中で、ではあったが。

「(テイトーに受からなかっただけだろうが。馬鹿め!ふふふ)」

その言葉を聞くことができたら、二人の男子学生は、云ったであろう。

「『スミロー』のくせに!先ず、ウチ(OK牧場大学)でも、ハンカチ大でも自分が受かってからにしろよな」

しかし、二人の男子学生は、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の心の中の声を聞くことができなくて良かったのだ。

「(お前たち、ボクのことをただの『スミロー』だと思っているんだろう。バーカめ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、最後のひと匙分のカレー・ライスを食べた後のスプーンを舐めた。




(続く)


2019年3月29日金曜日

住込み浪人[その40]







「(アイツらあ……)」

OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスをひと匙分だけ残し、スプーンを宙に持ったままとなっていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、足の付け根に置いていたスプーンを持っていない方の手を机の上にあげ、眉間に皺を寄せた。

「(ふん!『テイトー』に落ちてOK牧場に来たってことか、ふふ)」

今度は、薄ら笑いを浮かべた。

「でもさあ、やっぱり、『レッド・ブラッド・アーチ(Red Blood Arch)』より『ユー・ゲートUnidentified Gate=「U-Gate」)』の方がいいモンな」
「なんだよ、『モン』って、それ、シャレか?」

二人の男子学生は、帝立大学東京とOK牧場大学それぞれを代表する『門』について話していたのだ。

「だってよお、『レッド・ブラッド』だなんて、『ナムアミーダ・ザ・ブッチャケ』みたいじゃん」

『ナムアミーダ・ザ・ブッチャケ』は、有名な凶悪レスラーだ。凶器攻撃を仕掛け、相手も自分も血まみれになるのだ。



「そうだよな。『U-Gate』の方が、謎めいて神秘的だもんなあ」

二人の男子学生は、最後のひと匙分だけカレー・ライスを残したままの『住込み浪人』の眼光に射抜かれていることに気付かないでいた。


(続く)



2019年3月28日木曜日

住込み浪人[その39]







「(んぐっ!んぐっ!....『サトミツ』)」

OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスをひと匙分だけ残し、スプーンを宙に持ったままとなっていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、スプーンを持っていない方の手を足の付け根に置いていた。何か抑え切れないものをなんとか抑えようとするかのように。

「(んぐっ!んぐっ!....『佐藤ミツ』……なんと甘い名前だ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年も、『テイトー王』を見ていたのだ。それも、カメムシの解説をしていた男子学生と同じで、『サトミツ』目当てであったのだ。

「(ボクも、『サトミツ』見ながら……)」
「『サトミツ』がいるんだったら、官立だけど『テイトー』に行っててもよかったかもな」

カメムシの解説をしていた男子学生は、余程、『サトミツ』を気に入っているようだ。

「お前、『テイトー』受けなかったの?」
「受けたさ」
「で、合格したのか?」
「いや、『カンリツ』だから合格しないようにしたさ」
「バーカ、落ちたんじゃないか」
「てへへ」
「まあ、オレもだけどな、ハハハハハハ」

と、二人の男子学生は、声を揃えて笑った。



「(んん?.....なんだとお…….)」



(続く)

2019年3月27日水曜日

住込み浪人[その38]







「ああ、『サトミツ』かあ」

OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスをひと匙分だけ残し、スプーンを宙に持ったままとなっていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『サトミツ』という言葉に、眼光を光らせた。

「『官立』でもさあ、『サトミツ』はいい、としないか」

と、同意を求められ、カメムシの解説をしていた男子学生は、頬を緩めた。

「ああ、実は、オレ、なんだかだ云って『テイトー王』を見てるのはさあ、『サトミツ』が出てるからなんだよな。お前だけに云うけど、オレ、『サトミツ』見ながら……」

と、カメムシの解説をしていた男子学生は、声を落とした。

「(んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、スプーンを持っていない方の手を足の付け根に持っていった。

「(んぐっ!んぐっ!)」

カレーの香りは消え、甘い、砂糖のような、なんだか誘う蜜のような香りがしたように思えた。




(続く)




2019年3月26日火曜日

住込み浪人[その37]







「(え!........?)」

OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスをひと匙分だけ残した『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カメムシの解説をしていた男子学生と眼が合ったのであった。

「(.....ボ、ボ、ボクか?!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、スプーンを宙に持ったまま、眼を見開いていると、男子学生は、何か言葉を発するように唇を動かした。

「ふん、スミローか。臭いの、そのジャージだなあ」

男子学生の言葉は聞こえなかったが、そう云っているように思えた。



「(いや、違う、違うんだ!これは、ジャージじゃない。パジャマだ…..まあ、もう何週間も、いや何ヶ月も洗ってはいないが……)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の声は、心の中であったが、小さくなっていった。

「(臭いのか?....そんなに臭いのか?....ボ、ボ、ボクは…..)」

若い『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、後に、彼の体臭に何人もの女性が狂うようになることを、その時は、まだ知らなかった。

「要するにさあ、オレ、『官立』の奴にはヘドが出るのさ」

カメムシの解説をしていた男子学生は既に、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年からは視線を外し、もう一人の男子学生に話しかけていた。

「だけど、『サトミツ』は、オレ、好きだなあ」


(続く)


2019年3月25日月曜日

住込み浪人[その36]







「アイツら、カメムシをどうして『椿象』と書くのかも知ってるんだけどさ」

OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスをほぼ『こさげ』た『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の耳は、近くの席で、現役の『テイトー』(帝立大学東京)学生が数人出演し、芸能人とクイズで対決する番組『テイトー王』を語る二人の男子学生の会話を拾っていたが、眼は、食堂内の女子学生たちの脚を追っていた。

「どうしてなんだ?」
「中国にさ、『香椿』と書く『チャンチン』って臭い木があるんだってさ。カメムシって臭いだろ。だから、『香椿』の『椿』を使ってるみたいだ」
「『象』は何さ?」
「文字通り、『象』(ゾウ)さ。口先が、象の鼻みたいだってことらしい」



「へえ、『テイトー』の奴ら、そんなこと知ってるのか」
「だからなんだって云うんだ。カメムシを『椿象』と書くことを知らなくたって全然、おかしくないぜ。それを、早押しで答えて、その由来まで滔々と説明するなんて、俺には恥ずかしくてできないな」
「まあ、恥ずかしい以前に、カメムシを『椿象』と書くなんて知らないから、答えることも説明することもできなんだろ」
「まあな。だけど、カメムシが臭いことは知ってるぜ」
「ああ、アレは臭い!」
「ん?.....」
「どうした?」
「ん….臭くないか?何だか、カメムシみたいに臭くないか?」
「ええ?そうかあ…..」

と、二人のOK牧場大学生は、学食内を見渡し、カメムシの解説をした学生の方が、一瞬、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年と眼を合せた。

「(んんん?)」


(続く)



2019年3月24日日曜日

住込み浪人[その35]







「『テイトー』の奴らには、さあ」

OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスを『こさげ』ながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、近くの席の二人の男子学生の会話に、耳だけを集中させた。舌は、カレーに、眼は、食堂内の女子学生たちに向けられていた。

「(ああ、『テイトー』かあ….)」
「恥ってものがないんだよなあ」
「(だから、『カンリツ(官立)』ってことか)」

『テイトー』は、云うまでもなく、帝立大学東京の略称だ。私立ではなく、『官立』なのだ。

「そもそも、番組名からして恥ずかしいじゃないか、『テイトー王』だなんて」
「(ああ、『テイトー王』のことを話していたのか)」

『テイトー王』は、現役の『テイトー』学生が数人出演し、芸能人とクイズで対決する番組だ。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年も、幾度か見たことはあった。

「そうだぜ。つばき(『椿』)に印象の『象』で、『カメムシ(椿象)なんて、読めたからなんだって云うんだ」
「(ほー、カメムシって、『椿象』と書くのか)」




(続く)


2019年3月23日土曜日

住込み浪人[その34]







「(んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に水を持ってきたのか、媚を売りに来たのか分らな買ったOK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンが、同僚に呼ばれて自分の持ち場に戻りながら、振り向き、投げ掛けたウインクに、ビエール・トンミー青年は、またもや自身の意志に反して『反応』してしまった。

「ふん、下品だ!」

近くから、男子学生の憤懣遣る方無いといった声が届いた。

「(いや、違う!違うんだ!)」
「直ぐに反応すればいいってもんじゃないんだ」
「(だから、違うんだ!...あんなオバチャンなんかに…)」
「アイツら、自分の下品さを分っていない」

別の男子学生が、同調の言葉を吐いた。

「(ん?アイツら?......ボクのことでは….)」
「知識をひけらかすなんて、ふん、下品の極みだ」
「(ん?知識?)」
「それも、芸能人相手にな」
「(芸能人?)」
「必死で早押しボタンを押すなんて、みっともないったらありゃしない」
「(早押しボタン?....え?クイズ?)」



「だから、『カンリツ』の奴らは嫌いなんだ」
「(『カンリツ』???)」


(続く)


2019年3月22日金曜日

住込み浪人[その33]







「あーいよお!」

オバチャンは、OK牧場大学の学生食堂のカレー・コーナーから自分の名前を呼ぶ声の方に振り向き、返事した。

「(『サキ』って云うのか)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年のそんな心中の言葉を、オバチャンは逃さない。

「そうだよ。咲くって漢字一文字で『咲』(サキ)さ。スミローちゃん、いいんだよ、『サキ』って呼び捨てにしても、ふふ」
「(いや、遠慮する)」
「じゃ、アタシ、行くよ」

と、オバチャンは、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に背を向け、カレー・コーナーの方に戻って行った。

「(んぐっ!しまった!)

そうだ、オバチャンのことなんか、どうでもいいのに、心の中ではそう思っているのに、『体』が自身の意志に反し、勝手な反応をするのだ。

「(ヤメてくれえ!)」

と思いながらも、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼は、プリップリッと左右に揺れるオバチャンのお尻を追っていた。



「ふふ」

オバチャンが振り向き、ウインクした。


(続く)



2019年3月21日木曜日

住込み浪人[その32]







「どうせ、若い子の方がいいんでしょ!」

オバチャンは、駄々っ子になっていた。

「え、え、ええーっ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、思わず、声を発した。

「学食のカレー担当のオバチャンが、『住込み浪人』と何をもめているんだ」

という眼で、周りの学生たちが、こちらを見ている。OK牧場大学の学生食堂である。

「スミローちゃん、さっきから前の娘の脚ばかり見てるじゃないか」
「いや、ボ、ボ、ボクは…..」
「脚見てさ、『んぐっ、んぐっ!』って喉を鳴らしてるじゃないのお!」
「いや、それは、カレーで…..」
「ああ、あの娘の脚は綺麗さ。でもね、アタシだって昔はね」
「(松坂慶江か…..)」
「そうだよ。『これも恋、あれも恋』って歌ってた時の網タイツの脚見たら….」



「(んぐっ、んぐっ!)」
「そう、あの頃のアタシの網タイツの脚見たら、そんなもんじゃなかったさ。『んぐっぐっぐっぐっ!』って喉を詰まらせて悶絶さ!」
「(ええーっ、悶絶!?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カレー・スポーンを持っていない方の手を、慌てて股の付け根に置いた。

「おや。ふふ……」
「(いや!いや、いや、違う、違う!)」

心中で必死に抗弁したその時であった。

「サキさーん!」


(続く)


2019年3月20日水曜日

住込み浪人[その31]







「はあ!?」

OK牧場大学の学生食堂で、ポーク・カレーを『こさげ』、前方席に、こちら向きに座った女子学生の美脚を『こさげる』ように舐めていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、学生食堂のカレー担当のあのオバチャンが自分の横に立っている状況を理解できないでいた。

「向こうから見てるとさあ」

オバチャンは、向こうから自分を見ていたのか?

「(どういうことだ?)」

と自らに疑問を呈しはしたが、その理由が分からなくもなかった。

「スミローちゃん、『んぐっ、んぐっ!』って喉を鳴らしてるし、コップの水はなくなってるから、カレーで喉が乾いたんだろ、ってさ」

オバチャンが、ウインクをした。

「(んぐっ、んぐっ!)」
「んもう!スミローちゃんったらあ」
「(いや、違う!違う、違うんだ!)」
「ふん!分ってるさ。スミローちゃん、さっきから前ばかり見てるもん!

オバチャンは、少女のように拗ねた。




(続く)



2019年3月19日火曜日

住込み浪人[その30]








「(んぐっ、んぐっ!)」

OK牧場大学の学生食堂で、ポーク・カレーを『こさげた』ように、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、前方席に、こちら向きに座った女子学生の美脚を『こさげる』ように舐めていた。

「(悔しいが、女子大生は、OK牧場大学の方がいい。んぐっ!)」

今年は、OK牧場大学で『住込み浪人』をしているものの、志望校はあくまでハンカチ大学のビエール・トンミー青年であったが、魅力的な女子大生の有無、多い少ない、で云うと、OK牧場大学に分があることは認めざるを得なかった。

「(んぐっ、んぐっ!)」

こちら向きに座った女子学生が、食事を終え、椅子を少し斜めに引くと、美脚を組んだのだ。

「(んぐっ、んぐっ!)」

太ももが、露わになった。



「はいよ!」
「え!?」

テーブルに置かれたトレイの上のコップに、水が注がれ、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、声の方に顔を向けた。

「さっきから、『んぐっ、んぐっ!』って、カレーで喉が乾いたんだろ?」

学生食堂のカレー担当のあのオバチャンであった。



(続く)


2019年3月18日月曜日

住込み浪人[その29]








「(んぐっ!)」

OK牧場大学の学生食堂で、前方席に、こちら向きに座った女子学生の美脚に、喉を詰まらせながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、ポーク・カレーをこさげた。

「(ん?『こさげた』は、標準語だろうか?)」

福岡で生れ、山口県宇部市の琴芝小学校で小学生時代を過ごし、広島市の牛田中学、広島皆実高校で、中学・高校時代を過ごしたものの、博多弁にも山口弁にも広島弁にも染まらなかったと自負していたが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、ふと不安になった。



「(お皿のカレーを残すことなく掬ってしまうことは、『こさげる』ではないのではないだろうか?)」

上京してから、『こさげる』という言葉を聞いたことがないことに今、気付いたのだ。

「(いや、たまたま『こさげる』場面に遭遇しなかっただけかもしれない)」

と、思いながらも、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼は、前方席に、こちら向きに座った女子学生の美脚を『こさげる』ように舐めていた。


(続く)





2019年3月17日日曜日

住込み浪人[その28]







「(ああ、そうだとも。ボクが今、土日もなく勉強しているのは、『ハンカチ大学』に入る為だ)」

OK牧場大学の学生食堂で、ポーク・カレーのポークの脂をしみじと味わいながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、誰に対してではなく、告解した。

「(そうだ、『ハンカチ大学』に入り、遊びまくる為だ。ああ、そうだとも!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、知っていたのだ。自分が、『オーハン戦』が3戦までもつれることを望む学生たちと何ら変りはないことを。

「(今は『浪人』だから、仕方なく勉強しているだけで、『ハンカチ大学』に入ってしまいさえすれば、こちらのものだ!)」

と、少し前の方のテーブルに、こちら向きに座った女子学生の方に目を向けた。

「(んぐっ!)」

右手は、ポーク・カレーを掬い上げるスプーンを持っていたので、左手を股間に置いた。

「(んぐっ、んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼が向いていたのは、正確には、少し前の方のテーブルの下であった。こちら向きに座った女子学生の脚を凝視していたのだ。

「(今は、我慢だ。あの脚も)」

女子学生は、ミニスカートから、ややむっちりとした健康的な脚を恥じらうこともなく、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に見せていた。




(続く)