(住込み浪人[その19]の続き)
「兄ちゃん、アンタだよ!」
学食のオバチャンである。OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンであった。
「ん?.....」
カレーのカウンターの列に並んでいた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、声の方に顔を向けた。
「ああ」
その時、初めて、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カレー担当のオバチャンが呼んだのが自分であることを認識した。
眼はそれまでも開いていたが、心は、
「(『出禁』だの、『バキばら』だの、言葉を何でもかんでも省略してしまうのは、下品極まりない!OK牧場の名が泣く)」
と、列のすぐ後ろのカップルの学生の話に気を取られ、眼には何も見えていなかったのだ。
「何にすんだい、スミローさん?」
「え?スミロー?」
思わず、訊き返した。オバチャンに、『スミロー』と呼ばれたのだ。
「(どうして、ボクが、『スミロー』?『スミロー』って何だ?)」
自分には、『ビエール・トンミー』という立派な名前がある。『スミロー』が、自分のことであるのかどうか判然とせず、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カレー担当のオバチャンをただ見返すだけであった。
(続く)
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