2019年3月27日水曜日

住込み浪人[その38]







「ああ、『サトミツ』かあ」

OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスをひと匙分だけ残し、スプーンを宙に持ったままとなっていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『サトミツ』という言葉に、眼光を光らせた。

「『官立』でもさあ、『サトミツ』はいい、としないか」

と、同意を求められ、カメムシの解説をしていた男子学生は、頬を緩めた。

「ああ、実は、オレ、なんだかだ云って『テイトー王』を見てるのはさあ、『サトミツ』が出てるからなんだよな。お前だけに云うけど、オレ、『サトミツ』見ながら……」

と、カメムシの解説をしていた男子学生は、声を落とした。

「(んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、スプーンを持っていない方の手を足の付け根に持っていった。

「(んぐっ!んぐっ!)」

カレーの香りは消え、甘い、砂糖のような、なんだか誘う蜜のような香りがしたように思えた。




(続く)




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