ビエール・トンミー氏は、泣いた。
友人エヴァンジェリスト氏から、iMessageで返信が来たのだ。
自分がいつか警察に逮捕され、保釈されるにあたって、身元引受人になってくれまいか、と頼ってみたとろ、早々に快諾の返信があったのだ。
普段から、友人とはいえ、エヴァンジェリスト氏のことを虐げてきた身としては、友人のまさに友情が嬉しかった。
こちらから頼まずとも、差入れのことまで気にかけてくれているのだ。
「やっぱり裸体画がいいか?」
と。
涙に濡れた眼を拭かず、そのままに、iMessaageを友人に打ち始めた。
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あっ、いや、まだそういう事態にはなっとらんのや。そやけどそういう可能性は一杯やるんや。
破廉恥系の可能性が一杯あるんや。それに道路交通法違反(一時停止違反)やろ、軽犯罪法違反やろ(バス待ちの列に割り込む)やろ、市条例違反(前の晩にゴミを出す)やろ、環境保護法違反(尾瀬で木道から謝ってピーナッツをおとす)、動物愛護法違反(猫のウンコをほっておく)やろ。
要するにワデは大悪人なんや。
だからいつお縄を頂戴する身になってもおかしくないんや。
アンタはんは小菅拘置所に慣れてはる。その道の専門家や。だからご禁制の裸体画の差入れを頼みまっせ。
あとお弁当もな。アンタはんはヒモのヒモやさかい(ヒモ的生活を送っているお兄さんにおごってもらってるアンタは、ヒモのヒモやろ)、余裕があるやろ。その辺の料亭で見繕って1個5,000円位のお弁当頼みまっせ。
その代り、後で、小菅情報をたんまり教えまっせ。興味あるやろ。
ところでな、ワテの関西弁やが、影響されたんは朝ドラは朝ドラでも、「カーネーション」やで。
「まんぷく」の関西弁は酷かった。あんなん関西弁とちゃう。そもそも萬平さんは東京弁やったやんか。他の役者も酷かった。特に松坂慶子は関西弁を東京弁で喋る気持ちワルイ関西弁やったで(それに、ワテはワテの名誉の為に云っておくけど、ワテは、松坂慶子で『んぐっ!』してへんで)。
その点、「カーネーション」は、出てくる役者が全部関西出身や。主演の尾野真千子は奈良、小林薫は京都、極め付けは正司照江や。コテコテの大阪弁やで。尾野真千子の河内弁は迫力あったで。ワテはコロッとカーネーションに影響されたんや(まあ、ワテは、尾野真千子にも、小林薫にも、正司照江にも、『んぐっ!』してへんけどな)。
ここんトコちゃんと解ってもらわんとアカン。
とは云うてもな、アンタはんには、感謝や。破廉恥系犯罪で逮捕されるワテの身元引受人になってくれるやなんて、やっぱり友だちや。世界でただ一人の友だちや。
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「あら、アータ、どうしたの?泣いてるの?」
iPhoneをいじりながら、パジャマの袖で眼を拭った夫の顔を、マダム・トンミーは覗き込んだ。
「いや、なんでもないよ。ちょっと老眼で目が霞んじゃってさ」
妻に対しては、標準語になる。妻は、自分(夫)が『変態」であることを知らないのだ。
「あーら、そうなの。まだまだ色んなところに一緒に旅行したいんだから、あんまり老けないでよ」
と、妻(私)は、夫の身を案ずる妻の態度を取ったものの、知っていたのだ。
「(どうせ、また、エヴァンジェリストさんと変なメッセージのやり取りしてるんだわ。きっとエロ系ね。どうして泣いてたのかは分からないけど、イヤラシイ画像でも送ってもらって、嬉し泣きだったのかも。バレてないと思ってるみたいだけど、アータが『変態』だってこと、知ってるのよ。だって、アタシ、アータの妻よ。ここしばらく、ソンナコトはないけど……。アータって、今はソンナコトはできないけど、気持ちだけは、変わらず『変態』だし、この前だって、PCの画面見たら、『んぐっ!』だとか、『股間の異変』だとか、なんだか分からないけど、もうイヤラシそうな言葉ばっかりだったもの。それは構わないの。でも、気持ちだけでなく、そろそろアッチの方も『変態』に戻って欲しいわ」
ビエール・トンミー氏は、何故かいつもよりプリプリとお尻を横に揺らしながら台所に向かう妻の後ろ姿を見ていた。
「んぐっ!」
(おしまい)