2019年10月31日木曜日

ハブテン少年[その77]




『少年』は、その年(1967年)、渋谷の道玄坂というところに東急百貨店本店なるものができたことに関心は持ったものの、自分はそんなところには一生行くことなないだろうと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「アメリカじゃと、『トム』は『トム』じゃあない!」

教壇で、英語のイッカク先生が、高らかに宣言した。

「(はあ?)」

まだまだ『大人への階段』を登り始めたばかりのエヴァンジェリスト少年は、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年生として、勉強に勤しんでいた。

授業中、飛び跳ねるようにしてチョークで黒板に英語を書いていくイッカク先生は、楽しく、人気教師であり、エヴァンジェリスト少年も好きな先生であったが、その時は、イッカク先生の仰ることが理解できなかった。

「アメリカでバスに乗ったんじゃ」

その年(1967年)、イッカク先生は、夏休みにアメリカ合衆国に旅行をしたのだ。プライベートな旅行であったのか、研修旅行であったのかは知らない。

「そこに、少年が2人乗ってきた」

その頃、人気が出始めていたヒゲの人気講談師のように、その様子を身振り手振りで説明する。

「ほうしたら、片方の少年が、もう一人の少年に『タム』、『タム』云うんじゃ」

イッカク先生は、眼をギョロッとさせ、教室の生徒たちを見回す。

「『タム』は、『トム』じゃったんじゃ。アメリカでは、『トム』は『トム』じゃのうて『タム』なんじゃ!」

イッカク先生は、興奮していた。

「(へえええ!)」

『大人への階段』を登り始めたばかりで、その時は、まだまだ向学心の方が強かったエヴァンジェリスト少年は、感心した。

「(そうか、アメリカでは『トム』は『トム』じゃなくて『タム』と発音するんだ)」

その時、初めて、英語と米語とは違うことを知った。それ以降、今(2019年)に到るまで、英語の教科書等で『Tom』が出てくると、

「(ああ、これは『トム』ではなくて『タム』なんだ)」

と思い、『トム』という名の有名人が出てくると、

「(ああ、『トム・クルーズ』は、本当は『タム・クルーズ』なんだ)」

と思うようになる。そして、合わせて、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年の自分の教室で、黒板を使って飛び跳ねるイッカク先生を思い出す。



そして、飛び跳ねるイッカク先生を見て微笑む心の『妻』である『クッキー』子さんの美しい横顔を思い出す。

幸せな1年生であった……….

(続く)



2019年10月30日水曜日

ハブテン少年[その76]




『少年』は、その年(1967年)、新清水トンネルが開通したことに興味を持ったものの、それがどこにあろうと一生そのトンネルを通ることはないだろうと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「エヴァ君、隠れるで」

その日、エヴァンジェリスト少年は、自宅で、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年の同じクラスの友人エトワール君と遊んでいる時、そこにやって来た『クッキー』子さんとエトワール君の好きな女の子と、近所の空き地とススキの原で『隠れんぼ』をしていた。

「うん」

最初の鬼は、エヴァンジェリスト少年であったが、心の『妻』である『クッキー』子さんを見つけ、逃げる『妻』にタッチし、次は、『妻』が鬼となり、今度は、自分が隠れる番となっていたが、股間に生じた『異変』の為に体を動かすことが困難となっていた。

「どしたん?」

エトワール君は、エヴァンジェリスト少年の『異変』に気付かない。大人になり始めた『妻』の体の柔らかさと『妻』が放つ匂いが、少年に『異変』を生じさせていることに、エトワール君は気付かない。

「もうーいいかい?」

『クッキー』子さんの声が、エヴァンジェリスト少年の耳に入り、耳管を通り、喉を下り、胴を下に通り抜け、体のあるところまで達した。

「んぐっ!........ああ…….」

その後、どのようにして隠れ、誰が見つり次の鬼となり、また、自分がどのようにして隠れ、誰が見つかり次の鬼となっていったのか、自分はまた、『妻』の柔らかさを感じたのか、『妻』の匂いに気を失いかけたのか、エヴァンジェリスト少年は覚えていない。

「んぐっ!」

という『異変』の記憶だけはあった。少女の体が大人になりかけていたように、少年も『大人への階段』を登り始めていたが、まだまだ少年と少女とであった。

それがその当時の(1967年頃の)中学生の恋であった。

今時の(2019年頃の)中学生であったなら、『クッキー』子さんが、彼女の友人にしてエトワール君の好きな女の子と一緒に、自宅まで遊びに来た時、『隠れんぼ』なんかしなかったであろう。

「ウチに入ってよ」

と云ったであろう。親も兄弟もその時、家にはいなかった。そして、

「んぐっぐっー!」

と一気に大人への階段を登りつめたであろう。しかし、エヴァンジェリスト少年と『クッキー』子さんは、そして、エトワール君と彼の好きな女の子は、まだまだ子どもであったのだ。



(続く)



2019年10月29日火曜日

ハブテン少年[その75]




『少年』は、その年(1967年)、サントリーが瓶入り生ビル『純生』を発売開始したものの、サントリーはウイスキーの会社なのにビールも作っていいのかと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(『クッキー』子さん…..)」

背を向けた心の『妻』を凝視めながら、エヴァンジェリスト少年の鼻は、先程嗅いだ『妻』の匂いに酔い、彼の手は、先程感じた『妻』の体の柔らかさに脈打った。

「エヴァ君、隠れようや」

一緒に`『隠れんぼ』をしている『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年の同じクラスの友人エトワール君が、声を掛けてきた。

「うん」

と答えたものの、エヴァンジェリスト少年は、直ぐには動くことができなかった。股間の『異変』がまだ引いていなかったのだ、

「どしたん?」

エトワール君は何も知らない。

「うん」
「エヴァ君、隠れようや」
「うん」

なんとか足を踏み出した。

「じゃ、『クッキー』子さん、私たち隠れるけえね」

と云うと、エトワール君の好きな女の子は、ススキの群れの中に入って行った。

「エヴァ君、隠れるで」
「うん……」

と、云いながらも、エヴァンジェリスト少年は、空き地に面したアパートの壁に右腕をつけ、その腕に両眼を当てて目隠しをした『妻』の背中を凝視目ていた。



「(柔らかったあ……)」

大人になり始めた『妻』の体の柔らかさが、掌に蘇る。

「んぐっ!」

掌に蘇った衝撃は、再び、腕を辿り、肩を抜け、胴を下に通り抜け、体のあるところに『異変』を生じさせた。

(続く)


2019年10月28日月曜日

ハブテン少年[その74]




『少年』は、その年(1967年)、美濃部亮吉が都知事と東京に憧れはあったものの、そこで生活できることなど想像もできなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「つ、つ、捕まえたよ」

自らの股間に生じた『異変』に気付かれまいと、エヴァンジェリスト少年は、なんとか言葉を発した。

「うん、捕まえられた」

『クッキー』子さんも、自らの鼻がある臭いを感じ取ったことを悟られてはいけないと、鸚鵡返しのような言葉を発した。

「捕まえたからね」

その日、自宅で、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年の同じクラスの友人エトワール君と遊んでいる時、そこにやって来た『クッキー』子さんとエトワール君の好きな女の子と、近所の空き地とススキの原で『隠れんぼ』をし、鬼となったエヴァンジェリスト少年は、ススキの陰に隠れた『クッキー』子さんを見つけ、逃げ出した彼女を追い、、肩から背中にかけた辺りをタッチしたのだ。そう、捕まえたのだ。

「うん、捕まえられた」

少年と少女は向き合ったまま、同じ言葉を繰り返した。



「何しとるん?」

『クッキー』子さんの友だちで、エトワール君の好きな女の子が、訊いてきた。

「『クッキー』子ちゃん、今度は鬼やりんちゃいや」

捕まえられた者が次の鬼となる。

「うん」

『クッキー』子さんは、エヴァンジェリスト少年と向き合っていた体を反転させた。

(続く)




2019年10月27日日曜日

ハブテン少年[その73]




『少年』は、その年(1967年)、高見山が初の外国人関取になったものの、好きであった大相撲を実際に見に行ったことはなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「?」

風は、『クッキー』子さんであった。ススキの原でエヴァンジェリスト少年が顔に受けた風は、振り向いた『クッキー』子さんであった。『隠れんぼ』で、鬼となったエヴァンジェリスト少年に見つかり逃げたものの、追いつかれ、肩から背中にかけた辺りをタッチされたのだ。

「?」

しかし、タッチされたから振り向いたのではなかった。何か、

「んぐっ!」

という音のような、声のようなものが聞こえたような気がしたのだ。

「……..!」

振り向いたそこには、固まったようになっているエヴァンジェリスト少年がいた。

「?」

立ちすくんだまま、エヴァンジェリスト少年は、心の中で『妻』と決めた女の子が振り向いた風が運んだ匂いに鼻腔を広げ、手は、今タッチした『妻』の体のそれまで感じたことのない柔らかさに、呆然と開いたままとなっていた。

「?」

『クッキー』子さんは、『夫』に何が起きているか理解できていなかったが、何かが起きていることを本能的に感じ取り、頬をほのかにピンクに染めた。それが、新たな匂いを発生させ、エヴァンジェリスト少年の鼻まで達した。

「んぐっ!」

少年も、所謂、『大人への階段』を登り始めていたのだ。そして、その階段もある種の臭いを発生させ、それが『クッキー』子さんの鼻を襲った。



「!」

(続く)



2019年10月26日土曜日

ハブテン少年[その72]




『少年』は、その年(1967年)、資生堂が男性用化粧品『MG5』を発売開始し、CM出演した段治郎がハンサムと評判になったものの、自分の方がハンサムであることを知っていたが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「捕まえたあ!」

エヴァンジェリスト少年は、勝ち鬨を上げた。自宅近くのススキの原だ。『隠れんぼ』で、ススキの陰に隠れていた『クッキー』子さんを見つけ、逃げる彼女を追いかけ、肩から背中にかけた辺りをタッチしたのだ。

「んぐっ!」

タッチした瞬間であった。立ち止まった。捕まえたのだから、立ち止まって不思議ではなかったが、エヴァンジェリスト少年が立ち止まったのは、自らの手に衝撃を感じたからであった。

「(柔らかい……)」



それは、これまで感じたことのない柔らかさであった。

「(『クッキー』子さん!)」

それは、大人になり始めた少女の柔らかさであった。

「んぐっ!」

気付くと、手に感じた衝撃は、腕を辿り、肩を抜け、胴を下に通り抜け、体のあるところに『異変』を生じさせていた。

「んぐっ!」

風が吹いた………

(続く)




2019年10月25日金曜日

ハブテン少年[その71]




『少年』は、その年(1967年)にフランスからツイッギーが来日し、ミニスカートが流行となったものの、普段、自分の周りではなかなかミニスカートを履く女性を見かけることはな買ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「いや~ん!」

と云って、『クッキー』子さんは、ススキの原を逃げる。『隠れんぼ』で鬼となったエヴァンジェリスト少年に見つかったのだ。

「待てえー!」

エヴァンジェリスト少年が、その日、自宅で、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年の同じクラスの友人エトワール君と遊んでいる時、そこにやって来た『クッキー』子さんとエトワール君の好きな女の子と、近所の空き地とススキの原で『隠れんぼ』をすることになったのだ。

「グサッ、グサッ、グサッ」

『クッキー』子さんは、ススキを掻き分け、踏みつけながら逃げる。

「待てえー!」

ススキの原を走るのは、やはり男のエヴァンジェリスト少年の方が速い。

「いや~ん!」

その声を聞く度に、自分の心の中に何か、自分ではコントロールできぬ邪悪なものが芽生えるのを感じる。しかし、幸いにも背を向けて逃げる『クッキー』子さんには、普段とは違う顔を見られずに済んでいる。

「待てえー!」

ススキの原を行く『クッキー』子さんの脚は、ススキを避けて膝から下が跳ね上がる。

「(うっ!)」

エヴァンジェリスト少年は、唾が喉に詰まる。『クッキー』子さんの脚が跳ね上がり、その瞬間、スカートも揺らめき、膝裏とその少し上の太ももが見えた。

「いや~ん!」

少年の視線は、逃げる少女の脚に据えられ、少年の両眉はつり上がっている。



「待てえー!」

もうそこに少女がいた。

(続く)




2019年10月24日木曜日

ハブテン少年[その70]




『少年』は、プロレスは大好きであったものの、その年(1967年)に発売が開始された三菱電機の掃除機『風神』がプロレスのリングの掃除をするのは不自然だと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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ハブテン少年[その69]の続き)



「もうーいいかい?」

空き地に面したアパートの壁に右腕をつけ、その腕に両眼を当てて目隠しをしたエヴァンジェリスト少年が、『隠れんぼ』独特の節回しで声を上げた。鬼になったのだ。エヴァンジェリスト少年の自宅近くの空き地とその向かい側にあるススキの原が、、『隠れんぼ』の場所だ。

「まーだだよー」

女の子の声が応えた。

「(うん、これは、『クッキー』子さんではない)」

自分の『妻』の声は、目隠ししていても分る自信があった。

「もうーいいかい?」

再度、呼ぶ。

「もーいいよー!」

その声に腕から両眼を外し、ススキの原に向かう。

「どこー?」

と訊いても勿論、返事があるはずがない。ススキは、背高く成長し、中学生の背くらいまで伸びている。しかも、鬱蒼と云う言葉はここが相応しいと思える程に隙間なく生えている。

「(『クッキー』子さんを見つけたい。後の2人はどうでもいい)」

エトワール君も、『クッキー』子さんの友だちにしてエトワール君の好きな女の子も見つけたいとは思わない。

「どこだー?」

エヴァンジェリスト少年の願いは叶い、目指すものは簡単に見つかった。『クッキー』子さんは隠れるのが下手であった。いや、ひょっとしたら、エヴァンジェリスト少年に見つけられたかったのかもしれない。無意識にではあったかもしれないが。

「見つけたあ!」

思わず顔が綻ぶ。

「いやあ!」

言葉とは裏腹に全然『嫌』そうではなく、『クッキー』子さんがススキの陰から飛び出した。

「待てえー!」

見つけただけではダメなのだ。体にタッチしないといけない。見つけられた方は、見つかっても、逃げて、鬼が最初いたところまで行き、そこにタッチすれば勝ちである。

「いや~ん!」

その声に少年は、一瞬、ある『異変』を感じた。しかし、構わず追いかける。

「待てえー!」
「いや~ん!」
「待てえー!」
「いや~ん!」



(続く)



2019年10月23日水曜日

ハブテン少年[その69]




『少年』は、その年(1967年)に放送が開始されたオールナイトニッポンを聞く気はなくむしろ寝たかったものの、それを聞く兄たちと同室であった為に否応なく耳に入ってきたが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「どしたん?」

それまで黙っていたエトワール君が、口を開き、自分の好きな女の子に訊いた。エトワール君の好きな女の子が、広島市翠町のエヴァンジェリスト少年の自宅の門の前まで、『クッキー』子さんと来ていたのだ。

「遊ぼうやあ」

エトワール君の好きな女の子が、『クッキー』子さんに接するのとは異なる、上目遣いな『女』の表情でエトワール君を誘う。

「ええよ!」

エトワール君も嬉しそうだ。

「何するん?」

エヴァンジェリスト少年とエトワール君も、エヴァンジェリスト少年の自宅の門の外に出た。

「『隠れんぼ』しようかあ」

中学生とはいえ、まだ1年生であり、小学生と大差ない子どもであった。

「やろう、やろう!『クッキー』子ちゃん、ええよね?」
「うん」

首肯いた後、『クッキー』子さんは、一瞬、エヴァンジェリスト少年を見た。そして、微笑んだ。

「(ああ、『クッキー』子さん……)」

4人は、エヴァンジェリスト少年の自宅から10数メートルのところにある空き地に向かった。その空き地の道を挟んだ反対側の土地は、盛り土がされ、一面、広くススキが生えている。そこが『隠れんぼ』の場所になる。




(続く)



2019年10月22日火曜日

ハブテン少年[その68]




『少年』は、その年(1967年)に命名された『イタイイタイ病』が公害であることは知っていたものの、妙な名前だと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「あ、エトワール君もいたん?」

と、エトワール君の好きな女の子が声を発したが、その声は、エヴァンジェリスト少年の耳には入って来なかった。

「(『クッキー』子さん……)」

そうだ、『クッキー』子さんがそこにいた。広島市翠町のエヴァンジェリスト少年の自宅の門の前にいたのは、エトワール君の好きな女の子だけではなく、その斜め後ろに俯いて、そして、少し身を捩るように立つ美少女がいた。エヴァンジェリスト少年か心の中で勝手に『妻』と決めた女性である。

「『クッキー』子ちゃん、こっち来んさいや」

エトワール君の好きな女の子が促すが、『クッキー』子さんは更に、身を捩らせ、後ずさりする。

「『クッキー』子さんが、行こう、云うたんよ」

エトワール君の好きな女の子が、悪戯っぽい笑顔で告げる。

「違うよー!」

『クッキー』子さんが、俯いていた顔を上げ、抗議する。

「云うたじゃないねえ」
「云わないよー!」
「エヴァ君ちに行こう云うたんよお」
「やめてえー!」

『クッキー』子さんが、エトワール君の好きな女の子を戯れるように叩く。しかし、なんだかクッキー』子さんは嬉しそうだ。




(続く)