『少年』は、その年(1967年)、渋谷の道玄坂というところに東急百貨店本店なるものができたことに関心は持ったものの、自分はそんなところには一生行くことなないだろうと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その76]の続き)
「アメリカじゃと、『トム』は『トム』じゃあない!」
教壇で、英語のイッカク先生が、高らかに宣言した。
「(はあ?)」
まだまだ『大人への階段』を登り始めたばかりのエヴァンジェリスト少年は、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年生として、勉強に勤しんでいた。
授業中、飛び跳ねるようにしてチョークで黒板に英語を書いていくイッカク先生は、楽しく、人気教師であり、エヴァンジェリスト少年も好きな先生であったが、その時は、イッカク先生の仰ることが理解できなかった。
「アメリカでバスに乗ったんじゃ」
その年(1967年)、イッカク先生は、夏休みにアメリカ合衆国に旅行をしたのだ。プライベートな旅行であったのか、研修旅行であったのかは知らない。
「そこに、少年が2人乗ってきた」
その頃、人気が出始めていたヒゲの人気講談師のように、その様子を身振り手振りで説明する。
「ほうしたら、片方の少年が、もう一人の少年に『タム』、『タム』云うんじゃ」
イッカク先生は、眼をギョロッとさせ、教室の生徒たちを見回す。
「『タム』は、『トム』じゃったんじゃ。アメリカでは、『トム』は『トム』じゃのうて『タム』なんじゃ!」
イッカク先生は、興奮していた。
「(へえええ!)」
『大人への階段』を登り始めたばかりで、その時は、まだまだ向学心の方が強かったエヴァンジェリスト少年は、感心した。
「(そうか、アメリカでは『トム』は『トム』じゃなくて『タム』と発音するんだ)」
その時、初めて、英語と米語とは違うことを知った。それ以降、今(2019年)に到るまで、英語の教科書等で『Tom』が出てくると、
「(ああ、これは『トム』ではなくて『タム』なんだ)」
と思い、『トム』という名の有名人が出てくると、
「(ああ、『トム・クルーズ』は、本当は『タム・クルーズ』なんだ)」
と思うようになる。そして、合わせて、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)1年の自分の教室で、黒板を使って飛び跳ねるイッカク先生を思い出す。
そして、飛び跳ねるイッカク先生を見て微笑む心の『妻』である『クッキー』子さんの美しい横顔を思い出す。
幸せな1年生であった……….
(続く)
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