『少年』は、父親が勤務する東洋工業(現在のマツダ)が1965年に発売を開始したワンボックスバンの『ボンゴ』という名前が好きであったものの、商用車であり、乗ったことはなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その63]の続き)
「(『クッキー』子さん……)」
ステージ上から『妻』を探すが、見つからない。エヴァンジェリスト少年は、客席全体を見廻す。クラス毎に席が決っているので、大体の場所は分かるが、客席は何しろ暗いのだ。そこは、『広島市青少年センター』であった。
「(あ、始まる….)」
ムジカ先生が、タクトを持つ右手を上げた。いよいよ演奏の始まりである。その日は、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の文化祭の日であった。エヴァンジェリスト少年の所属するブラスバント部(吹奏楽部)が、ステージ上で、交響詩『フィンランディア』の演奏を披露するのだ。
「(イチ、ニー、サン、シー….)」
その日も(本番でも)、エヴァンジェリスト少年は、自分のアルト・サックスのパートが始まるまでの小節を指を折って数えた。数えながら、
「(『クッキー』子さんが、見てるんだ!)」
自分が心の中で勝手に『妻』と決めた同級生のことに想いを馳せた。
「(あ、どこまで進んだんだ?)」
何小節まで進んだのか分らなくなった。
「(え!?!え!...どうしよう)」
動機がしてきた。曲は、練習を始めた頃よりは分ってきていた。
「(あ、そろそろじゃないのか…..どうする!?)」
確信はない。
「(ええい!まあ、いいか、この辺で…)」
エヴァンジェリスト少年は、意を決して、アルト・サックスのマウスピースを咥える口を絞り、息を吹き入れる。
「ブー、ブブー…..」
(続く)
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