『少年』は、父親が勤務する東洋工業(現在のマツダ)が1960年に発売を開始した『マツダ・R360クーペ』の可愛いデザインが好きだったものの、『R360クーペ』は『スバル360』程には売れなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その59]の続き)
「(どこからなんだろう?)」
1967年、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽教室で、交響詩『フィンランディア』の自分のパート(アルト・サックス)の譜面を見るエヴァンジェリスト少年は、眉間に皺を寄せ、小首を傾げた。
「(分らない)」
だって、『フィンランディア』が始まって、何小節もアルト・サックスの出番はないのだ。
「(まあ、いいか…..)」
兎に角、自分のパートの練習を始めることとした。どこから出ていいか(アルト・サックスの自分のパートを吹き始めたらいいか)は、小節を数えていけばいいのだ。
「(ふーん…..?)」
舌にリードの竹の味を感じながら、なんだかよく分らない曲を吹く。アルト・サックスのパートは、メロディーラインではないから、独りで練習すると、自分がどんな曲を演奏しているのか、皆目、分らないのだ。
「(つまらない)」
元々好きで始めたブラスバンド、アルト・サックスではないのだ。ブラスバンド部の顧問のムジカ先生に、
「明日から、お前、ブラスバンドに入れ」
と云われたからなのだ。自分の長兄である『おおきょうニイチャン』が、『ミドリチュー』時代、ブラスバンドに入り、ムジカ先生の指導を受けており、母親もPTA活動でムジカ先生と親しく、そのせいでスカウトされたのだ。
「ええのお?!」
『ハブテン少年』であるエヴァンジェリスト少年は、ムジカ先生の問いに拒否の言葉を発することはできなかった。
「あ、はい…..」
しかし今、そんな自分を後悔した。拒否することのできない自分を情けなく感じた。
「(教則本の練習もつまらないけど、『フィンランディア』もつまらない)」
しかし、そんなエヴァンジェリスト少年の心とは別に、アルト・サックスを斜めに持ち、眉間に皺を寄せたその姿に、ブラスバンド部の女性部員たちは、見とれていた。
「やっぱり、格好ええねえ」
『フィンランディア』をつまらない曲、よく分らない曲だと思い、苦い顔になっていただけであったが、女子生徒たちには、それが憂いあるアラン・ドロンの姿に重なって見えていたのだ。
(続く)
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