『少年』は、プロレスは大好きであったものの、その年(1967年)に発売が開始された三菱電機の掃除機『風神』がプロレスのリングの掃除をするのは不自然だと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その69]の続き)
「もうーいいかい?」
空き地に面したアパートの壁に右腕をつけ、その腕に両眼を当てて目隠しをしたエヴァンジェリスト少年が、『隠れんぼ』独特の節回しで声を上げた。鬼になったのだ。エヴァンジェリスト少年の自宅近くの空き地とその向かい側にあるススキの原が、、『隠れんぼ』の場所だ。
「まーだだよー」
女の子の声が応えた。
「(うん、これは、『クッキー』子さんではない)」
自分の『妻』の声は、目隠ししていても分る自信があった。
「もうーいいかい?」
再度、呼ぶ。
「もーいいよー!」
その声に腕から両眼を外し、ススキの原に向かう。
「どこー?」
と訊いても勿論、返事があるはずがない。ススキは、背高く成長し、中学生の背くらいまで伸びている。しかも、鬱蒼と云う言葉はここが相応しいと思える程に隙間なく生えている。
「(『クッキー』子さんを見つけたい。後の2人はどうでもいい)」
エトワール君も、『クッキー』子さんの友だちにしてエトワール君の好きな女の子も見つけたいとは思わない。
「どこだー?」
エヴァンジェリスト少年の願いは叶い、目指すものは簡単に見つかった。『クッキー』子さんは隠れるのが下手であった。いや、ひょっとしたら、エヴァンジェリスト少年に見つけられたかったのかもしれない。無意識にではあったかもしれないが。
「見つけたあ!」
思わず顔が綻ぶ。
「いやあ!」
言葉とは裏腹に全然『嫌』そうではなく、『クッキー』子さんがススキの陰から飛び出した。
「待てえー!」
見つけただけではダメなのだ。体にタッチしないといけない。見つけられた方は、見つかっても、逃げて、鬼が最初いたところまで行き、そこにタッチすれば勝ちである。
「いや~ん!」
その声に少年は、一瞬、ある『異変』を感じた。しかし、構わず追いかける。
「待てえー!」
「いや~ん!」
「待てえー!」
「いや~ん!」
(続く)
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