2019年12月7日土曜日

ハブテン少年[その114]




『少年』は、その年(1969年)、猛烈な人気となっていたグループ・サウンズの『ザ・タイガース』の『花の首飾り』でメイン・ボーカルを担当した加橋かつみが、どうして『トッポ』であるのか分らなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「カモーン!カモーン!」

と、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽室の入り口前のスペースで、友人で同じブラスバンド部(吹奏楽部)のジャスティス君をコブラ・ツイストで締め上げ続ける。

「カモーン、ギブアップ!?」

当時(1969年の頃)コブラ・ツイストを代名詞としていたアントニオ猪木が憑依したエヴァンジェリスト少年は、下顎をグーッと長く前に突き出す。



「ギブアップ!」

堪らずジャスティス君が叫ぶ。

「よっしゃー!」

と、エヴァンジェリスト少年は、技を解く。

「じゃ、今度は、ジャスティス君がかけて」

下顎を元に収め、穏やかな美少年の顔に戻ったエヴァンジェリスト少年は、友人の前に立ち、両脇を開けた。

「じゃ、いくよ!」

今度は、ジャスティス君が、エヴァンジェリスト少年にコブラ・ツイストをかける。

「ギブアップ?」

温厚なジャスティス君の顔も戦闘モードに変る。

「ノー、ノーノーノー、ノー!」

エヴァンジェリスト少年は、苦痛に歪んだ顔をして見せながらも、まだ『ギブアップ』ではないと、両手を振る。

「ええーい!ギブアップ?」
「ノー、ノーノーノー、ノー!」
「ギブアップ?」
「ノー、ノー、ノーノーノー、ノー!!」

歪めて見せるエヴァンジェリスト少年の顔には、どこか満悦感が浮かんでいる。プロレスごっこは、技をかけるだけでなく、攻撃を受けるのも楽しいのだ。


(続く)




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