『少年』は、その年(1969年)、猛烈な人気となっていたグループ・サウンズの『ザ・タイガース』で、脱退した加橋かつみの代りに入った岸部シローのニックネームも、『シロー』なのは当り前過ぎないかと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その117]の続き)
「(んぐっ!)」
慌てて股間を押さえたエヴァンジェリスト少年は、周囲を見廻した。そして、誰もいないことを確認すると、再び、窓の向こうに視線を遣った。
「(『パルファン』子!)」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽室の入り口前のスペースである。その横にある窓の丁度、向こう側、本校舎の教室に『妻』がいるのだ。そこが、『妻』のクラスだった。
「(んぐっ!)」
『パルファン』子さんは、級友たちと何か話していた。
「プップラ、プープー」
ブラスバンド部(吹奏学部)が練習をする音楽室から、メロフォンの音色が漏れてくる。
「プープププープープー」
メロフォンは、ホルンに似た楽器だ。持ち方が、ホルンとが逆なので、知っている人なら、直ぐに区別がつく。ホルンの代用として『ミドリチュー』のブラスバンドでは使っていた(他のブラスバンでも、そして、今でもそうかもしれない)。ホルンより安かったからであろう。ホルンよりも、音を出し易く、扱い易いこともあったかもしれない。
「(んぐっ!)」
しかし、エヴァンジェリスト少年の股間には、メロフォンの音色は響かない。エヴァンジェリスト少年には、メロフォンだけでなく、トロンボーンも、トランペットもクラリネットも、そして、彼自身が吹くサックスも、どうでも良かった、ブラスバンドには何の興味もなかった。
『ミドリチュー』に入学した時に、ブラスバンドの顧問のムジカ先生に、
「明日から、お前、ブラスバンドに入れ」
と云われたから入部しただけなのだ。しかし今、
「(ブラスバンドに入って良かったあ)」
と思う。3年生になるまで辞めなくて良かったと思う。だって、
「(ああ、『パルファン』子!)」
ブラスバンドの練習をする音楽室の入り口前のスペースにある窓の丁度、向こう側、本校舎の教室が、心の『妻』のクラスとなったからだ。
「(んぐっ!)」
窓の向こうに『妻』を見るエヴァンジェリスト少年の体のある部分は、彼が担当するサックスのように大きくなった。3年生になって、アルト・サックスからテナー・サックスの担当に変ったのだ。テナー・サックスを吹いていた先輩が卒業したからだ。
そして、少年『自身』、『大人』へと成長していっていたのだ。
(続く)
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