『少年』は、当時(1967-1969年頃)、『ザ・タイガース』と並んで猛烈な人気となっていたグループ・サウンズの『ザ・スパイダース』の『いつまでもどこまでも』という曲のどこがいいのか分らなかったが、、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その120]の続き)
「(ボクは、スキヤキ君は好きだけど、そんな気はない!)」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽室の入り口前のスペースで、エヴァンジェリスト少年は、股間を押さえていた。
「はああ…..」
先程までエヴァンジェリスト少年にコブラ・ツイストをかけられていたスキヤキ君は、膝に両手を当て、前屈の姿勢のまま、息を漏らした。エヴァンジェリスト少年の『異変』に気付いてはいなかったようであった。
「ちょっと痛かった?」
安心したエヴァンジェリスト少年は、労りの言葉をかける。
「うん…ちょっとね….」
「ごめんね」
と云いながらも、エヴァンジェリスト少年の視線は、窓の向こうの本校舎の教室に向っていた。
「(『パルファン』子!)」
心の『妻』の姿は、そこには見えなくなっていた。『異変』はすっかり治っていた。
「じゃ、今度は、スキヤキ君がかける番だよ」
『妻』の姿が見えないなら、プロレスに専念だ。
「いや….ちょっと…」
スキヤキ君は、前屈したまま、音楽室を見る。
「あ、そおお…….」
スキヤキ君も、ジャスティス君同様、好きでブラスバンドに入ったのだ。トランペットを吹きたかった。でもプロレスも好きだし、友としてエヴァンジェリスト少年も大事にしたかった。だから、プロレスごっこに付き合っていたが、そろそろトランペットを吹きたかった。そのことを聡明なエヴァンジェリスト少年は、友人の視線から察した。
「じゃ、また今度、やろうね」
エヴァンジェリスト少年は、スキヤキ君が音楽室に入るのを残念そうに見送った。
「(ま、仕方ないや)」
残念だったのは、プロレスごっこができなくなったからのであるのか、『妻』の姿を見ることができる場所に居続ける理由がなくなったからであるのか……
そして、名残惜しそうに、窓の外を見ながら、自身も音楽室に入っていった。したくはなかったが、少しはテナー・サックスの練習をしないといけなかったのだ。
だが……
「カモーン、ギブアップ!?」
その翌日、今度はまた、ジャスティス君を相手にコブラ・ツイストをかけていた。さらにその翌日は、
「カモーン!カモーン!」
スキヤキ君にコブラ・ツイストをかけていた。
連日、ブラスバンドの練習もそこそこにプロレスごっこに興じながら….いや、プロレスごっこに興じる振りをしながら、音楽室の入り口前のスペースにある窓から、『妻』の姿を追っていたのであったが………
(続く)
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