2019年12月10日火曜日

ハブテン少年[その117]




『少年』は、その年(1969年)、猛烈な人気となっていたグループ・サウンズの『ザ・タイガース』のギター担当の森本太郎のニックネームが、『タロー』なのは当り前過ぎないかと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「じゃ、また今度、やろうね」

エヴァンジェリスト少年は、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽室の入り口前のスペースで、コブラ・ツイストのかけっこをしていた友人にして同じブラスバンド部(吹奏楽部)のジャスティス君が、音楽室に入るのを見送った。

「(卍固めもかけたかったなあ)」

コブラ・ツイストをかけ合った次に、アントニオ猪木の新技をかけようとしたが、ジャスティス君はブラスバンドの練習に戻りたがったのだ。自分と違い、ジャスティス君は、ブラスバンドの練習に熱心であり、トロンボーンが上手くもあることを知っていた。

「(まあ、いいさ)」

と素直に、プロレスごっこを止めることを受け止めたのは、15歳となり、もう幼さから抜け出してきていたからであったが、ただそれだけではなかった。

「(……..)」

独り音楽室の入り口前のスペースに残ったエヴァンジェリスト少年は、そのスペース横の窓の外に、無言で視線を送っていた。

「(ああ、『パルファン』子!)」

見えたのだ。『妻』の姿が見えたのだ。

「(奇跡だ!)」

3年生になり、ブラスバンドの練習をする為、本校舎とは別棟に音楽室に行った時、そう思った。

「(まさかあ!)」

音楽室の入り口前のスペース横の窓の丁度、向こう側、本校舎の教室にその姿を認めたのだ。

「(ああ、『パルファン』子!)」




(続く)




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