『少年』は、当時(1967-1969年頃)、人気となっていたグループ・サウンズの一つである『ザ・テンプターズ』のヒット曲『神様お願い!』という曲のどこがいいのか分らなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その132]の続き)
「あんたあ、やりんさい」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)から帰ってきたハハ・エヴァンジェリストは、諦め半分、満足半分といったどちらつかずな表情で、息子にそう云った。
「ええー?」
エヴァンジェリスト少年は、がっかりした。
「(お母ちゃんに任せっとたら、なんとかしてくれうじゃろ)」
と、心の中ながら広島弁に戻って、そう信じていたのだ。
「あんたあ、臨海学校の助手やりんさいや」
エヴァンジェリスト少年に、1年生の臨海学校の助手をするように云ってきた体育教師であるパンヤ先生に、断りを入れに云ったはずの母親が、まさかそう云ってくるとは思わなかった。
「でも、水泳、上手くないし」
水泳を得手としない自分には、下級生に水泳を教えるなんて、とても無理だし、ただ得手しないというよりもカナヅチに近いので、海に入ること自体が怖いのだ。
「大丈夫じゃと」
ハハ・エヴァンジェリストも、末息子が水泳だけ得てとしていないことは知っていた。勉強は『超』がつく程に優秀で、『よいこのあゆみ』や『通知表』にはいつも、『品行方正で指導力あり』と書かれ、『ミドリチュー』の『アラン・ドロン』と噂される程の美貌を持つ息子であったが、ただ一つ、水泳だけは苦手であることは知っていたのだ。
「泳ぎが上手い、下手じゃあないんじゃと」
ハハ・エヴァンジェリストは、パンヤ先生に云われタコとを息子に説明し始めた。
「指導力なんじゃと、必要なんは」
パンヤ先生は、エヴァンジェリスト少年の指導力を見込んで、臨海学校の助手をするよう云ってきたのだそうだ。
「あんたあ、指導力あるけえねえ」
ハハ・エヴァンジェリストは、なんだか嬉しそうだ。
「(ええー!それはそうかもしれないけど……)」
パンヤ先生に息子を褒められ、ハハ・エヴァンジェリストは、納得してしまったのだ。パンヤ先生も、エヴァンジェリスト少年の母親を説得する為に『指導力』を持ち出してのではなかったであろう。本当に、エヴァンジェリスト少年の『指導力』を見込んだのだ。そうでなければ、水泳が苦手な少年に臨海学校の助手をさせようとは思わない。
「それに、水泳もねえ……」
ハハ・エヴァンジェリストの説明は、まだ続いた。
(続く)
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