「やったで!やったで?」
エヴァンジェリスト氏のiPhone SEに、なにやら興奮気味のiMessageが、友人のビエール・トンミー氏から届いた。
「なんだ?真昼間に、五月蝿いなあ」
深夜でも早朝でもなく、何故、昼間にiMessageを送ってはいけないのか合理的な理由がないことは分っていたが、エヴァンジェリストは、友人が似非関西弁を使う時はどうせクダラナイ話だし、『プロの旅人』では、『ハブテン少年』の続きを読みたいので、五月蝿がってみせる。
「当選や、当選やでえ!」
「はあ?なんだ、どこかのおばさんに、道路でトーセンボでもされたのか?」
「何云うてんねん。当ったんやがな」
「ああ、当り屋被害にでもあったのか?いや、逆か。君は、恨みでもあるどこかのおばさんの運転するクルマに当り屋をしたのか?」
「ちゃいまんがな。新体操やでえ!」
「新体操のバトンが観客席に飛んできて当ったのか?」
「いや、新体操は見に行ったことはないでえ」
「ああ、そうだなあ。君が新体操に興味があるなんて聞いたことがないものなあ」
「せやけどな、これからファンになるでえ。新体操のファンになるで」
「君は、ラグビーのW杯が日本で開催された今年(2019年)、臆面もなく、にわかラグビーファンになったものなあ。ボクは、世の人々が飛びつくものには意地でも飛びつきはしないが」
「いやな、確かに、ファンやったけど、ラグビーはオモロイでえ」
「じゃ、新体操もオモロイのか?」
「うん、それはまだ知らへん。これから猛勉強するねん」
「ああ、君はにわか勉強は得意だからなあ。フランス語なんて、il(彼)とelle(彼女)くらいしか知らないのに、大学のフランス語経済学で『優』をとったのも、ボクが訳した試験範囲を、にわか勉強で丸暗記した結果だったなあ」
「そやで、これから来年の8月7日までは、『プロの旅人』なんてくだらんBlogを読んでいる暇はないでえ」
「ああ、最近、君が主人公になっていないところが、面白くないんだろう」
「ちゃうねえん。当選したからや」
「ああ、面倒臭いなあ。まあ、いい。何に当選したんだ?駐車監視員に当選したのか?」
「君は、何にも知らんのやなあ。駐車監視員は当選するもんとちゃうねんで。駐車監視員になるのは、2日間の講習を受講して、その後、1週間くらい後にある考査に合格せなあかんのや。でも、考査に合格しただけでは、駐車監視員の資格を得るだけで、実際に駐車監視員になるには、資格を取った上で、駐車監視員を募集している業者に応募して採用されなあかんねん」
「ほほー。詳しいなあ。やっぱり君は、駐車違反にやけに拘りを持っているようだなあ」
「うっ!......ああ、ちゃうでえ!駐車監視員のことちゃうで。オリンピックや」
「なんだ。スーパーの『オリンピック』の駐車場整理員にでも当選したのか?」
「君やろ、スーパーの駐車場整理員になろうとしてんのは」
「違う、違う。間違った情報を流すでないぞ。ボクがなろうとしているのは、スーパーのカートやカゴの整理員であるぞ」
「ああ、もうやめへんか『駐車』のことは。ワテが当選したのは、どの競技でもいいからと、矢鱈滅多ら応募したオリンピックのチケットだ。来年(2020年)8月7日の東京オリンピックの女子新体操のチケットだ!」
「おお、おおー!それは、めでたいなあ。ボクは、東京オリンピックに興味はないが」
「ようやく当選したんや!」
「当選したのは、奥様と2人分か?」
「当然、愛する妻と一緒や。…..うん、せやから、女子新体操の鑑賞は慎重にやらんとイカンねん」
「めでたいものの、用心が肝心だな。奥様に、『あら?今、んぐっ!って云った?』と云われぬようになあ」
「何言うてんねん。ワテはあくまで女体、もとえ、アスリートの鍛錬された技を見に行くんやで」
「頭でそう思っていても、体のある部分は正直だからな。気を付けないとなあ。ところで、当選したのは、夫婦で事前にオリンピック会場巡りをしたことが、オリンピックの組織委員会に評価されたのか?それとも権力者に裏で頼んだのか?」
「ちゃうで。アノ男とは同い年やし、小学校時代は山口県にいたことは事実やが、アノ男には頼まへん。まあ、仮に頼んだとしてもやなあ、『頼む』ことの定義は一義的に決まっている訳やないさかいなあ」
「ああ、君はやはり汚い男なだあ。だがまあいいだろう。来年の8月7日に、スーパーのカートやカゴの整理員の仕事が入らなければ、テレビを見て、君たち夫妻の姿を観客席に探すことにする。特に、君が平静にしているかどうかを見ないとな」
「ああ、競技場に乱入せんように、今から精神修行せんとアカンねん」
「この変態めがあ!君に、オリンピック観戦の資格はない!」
これを最後に、エヴァンジェリスト氏は、iMessageをオフにしたようであった。
(おしまい)
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