2020年8月4日火曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その77]






「熊野古道も嫌なのか。坐禅も嫌、熊野古道も嫌、かあ」

江ノ電『長谷』駅を出て北上する狭い歩道を歩きながら、ビエール・トンミー氏は、項垂れながらも憮然とした表情のエヴァンジェリスト氏に向け、呆れたように云った。

「君は、病気を治すつもりがないのか?」

と友人に責められたエヴァンジェリスト氏は、駄々っ子のように口を尖らせ、反論した。

「だってええ、熊野古道って、東京から行くのは、かなり大変だと思うぞ」
「そりゃまあ、遠いだろうな」
「どうやって行くのか、行く気がないから、ちゃんと調べてはいないが、南紀白浜空港まで飛んでからバスで入るのか、名古屋から近鉄に乗って、さらにバスで入るんじゃないかと思うが、どっちにしても大変だ。それに、そこから更に歩くんだろう?とんでもないことだ」
「さすが君も、『プロの旅人』君と同様、『プロの旅人』だなあ。だが、まさに行くのが大変な地にあるからこそ、霊験あらたかなのではないか」
「ボクは『霊』というものの存在を認めん。幽霊には会ったことがない。本当にいるなら、出てきて欲しい。そして訊くんだ、『何を考えて生きているのか?』とな」




「いや、幽霊は死んでいるから、生きてはいないだろう」
「そうかあ?人が死んでなるのが幽霊なんだろ?だから幽霊自体は、死んではいないんじゃないのか?ということはだ、つまり、幽霊は、生きている、ということになると思うんだがなあ」
「ああ、また面倒臭いことを云い出したなあ。もういい!さあ行くぞ」
「だから、どこに行くんだ?『長谷寺』でも『華正樓』でもないようだし」


(続く)



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