(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その77]の続き)
「君にもっと相応しい所に行く、と云っただろ」
と、友人のエヴァンジェリスト氏に云いながら、ビエール・トンミー氏は、江ノ電『長谷』駅を出て北上する狭い歩道を進み、『長谷観音前』の交差点まで来た。
「こっちへ行くと、長谷観音、つまり、長谷寺だな」
エヴァンジェリスト氏は、『草もち』という旗の立つ和菓子屋『恵比寿屋』の前で、左手方面を差しながら行った。
「だからあ、長谷寺には行かん、と行っただろう」
ビエール・トンミー氏は、やや苛立っていた。しかし、その苛立ちに気付かないのか、気付きながらも気にしていないのか、エヴァンジェリスト氏が、『草もち』という旗を見ながら云った。
「ここか?和菓子は好きだが、『草もち』は食べんぞ。『草もち』というものが理解できん」
「はああ?じゃ、食べなきゃいいだろう」
「何故、『草』を食べんるんだろう?」
「『草』と云ったって、蓬だろ」
「でも、『草』なんだろ。『草』を食べて、何がいいんだろう?まあ、饅頭やどら焼きは好きだから、この店で構わんが。なかなか味わいのあるような店だしな」
「ここではない。いいから、こっちへ行くぞ」
と、ビエール・トンミー氏は、横断歩道を渡り、渡ったところで、道を右折し、歩を進めた。
「おいおい、どこに行くんだ?」
エヴァンジェリスト氏は、慌てて友人を追った。
「鎌倉文学館だ」
振り向いたビエール・トンミー氏が、ついに行き先を告げた。
(続く)
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